
帯広競馬場に隣接し、十勝の魅力を凝縮した観光スポットとして近年注目を集める「とかちむら」。その躍進の裏には、地域の活性化に情熱を燃やす社長室長・小松さんの存在があります。地元への深い愛情を持つ小松さんに、「とかちむら」誕生の背景から、未来への展望までをじっくりと伺いました。
<目次>
食と競馬、そして歴史。「とかちむら」誕生に秘められた物語

帯広競馬場のすぐ隣に位置する「とかちむら」が生まれた背景には、ばんえい競馬を盛り上げ、十勝の豊かな食文化をもっと多くの人に伝えたいという熱い想いがありました。ここは単なる市場ではありません。生産者の方々の顔が見える温かさと、十勝開拓から続く農業の歴史、そして「食」への感謝の気持ちが詰まった特別な場所なのです。
新鮮な農産物やこだわりの加工品、そして地元食材をふんだんに使った美味しいグルメを通して、訪れるたびに十勝の物語に触れることができます。地元の人々には日常の憩いの場として、観光客にとっては十勝の魅力を深く知るための拠点として、多くの人に愛される地域活性化の要です。
元JR車掌・小松さんが社長室長に抜擢!帯広出身の情熱が地域を動かす

2010年にオープンした「とかちむら」。その運営は、曽根史子社長率いる「SPCとかちむら」が担っていました。しかし、近年経営に注力できない状況となり、2024年に、「株式会社そら」のグループ会社である「ふく井ホテル」へと事業承継されることになりました。
「株式会社そら」は、中札内村のグランピングリゾート「フェーリエンドルフ」と「ふく井ホテル」の事業を承継し、さらに藤丸百貨店の再建支援にも関わる企業です。
その新生「とかちむら」の社長に就任した林佑太氏から、社長室長という重責を託されたのが、今回インタビューにご協力いただいた小松さんです。小松さんは、地元帯広市の出身。「ふく井ホテル」では事業開発部長を担当されています。以前はJR北海道で車掌を務めていたという、異色の経歴の持ち主です。
モール温泉を広める足湯プロジェクトが大成功!

みなさんは「モール温泉」をご存じでしょうか? モール温泉は、太古の植物成分がたっぷりと溶け込んだ、非常に珍しい温泉です。何千年も前の植物が地層に埋もれ、その成分がお湯に溶け出すため、独特の茶褐色をしています。
この温泉は、肌をしっとりと潤す効果が高く、美容にも良いとされています。普通の温泉と比べてお湯が柔らかく、入浴後には体の芯からポカポカと温まるのが大きな魅力です。自然の力を感じながら、心身ともにリラックスできる特別な温泉なのです。
帯広出身の小松さんは、「ふく井ホテル」で働くうちに、北海道十勝地方特有の「モール温泉」の魅力に深く惹かれるようになりました。その素晴らしい魅力をより多くの人に広めたいという強い想いから、2023年「とかち・イノベーションプログラム」に参加。そこで、モール温泉を活用した移動式足湯プロジェクトを発表し、その斬新なアイデアと熱意が多くの人々を魅了し、新聞やニュースなどでも大きく取り上げられました。
その後、小松さんはクラウドファンディングを活用して資金を集め、見事目標額の147%となる支援を獲得。「モール足湯事業」を本格的に立ち上げるに至りました。現在、その移動式モール足湯は、十勝管内の個人宅や福祉施設へと届けられ、利用者の皆様から大変な好評を得ています。今ではテレビ番組でも紹介されるほどの人気ぶりです。
「温泉に行きたくても行けない方へのギフトとしても活用してもらえるサービスです。この取り組みを通して、『温泉に入る』という体験を、非日常的なものからより身近な日常へと変えていきたいんです」と、小松さんは熱い想いを語ります。
新生「とかちむら」成功の鍵は過去にあり?

ホテル全体の業務と移動式モール足湯の運営、そして「とかちむら」の実質的な責任者である社長室長という重責を同時に担う小松さんの多忙ぶりは想像に難くありません。
「社長の林さんからお話をいただいた時、『断る』という選択肢は頭にありませんでした。忙しいのは皆同じこと。時間がないことを理由に、期待を裏切りたくなかったんです」と、小松さんは力強く語ります。
とはいえ、「『とかちむら』に再び賑わいを取り戻す」という大きな目標を前に、具体的に何から手を付ければいいか、当初は深く悩んだそうです。
「地元出身なのに、子供のころ『とかちむら』に来た記憶が全くなくて」と、小松さんは意外な事実を明かします。それゆえ、具体的なイメージが全く湧かなかったと言います。
「そこでまず、『とかちむら』の歴史を徹底的に探ることにしたんです。かつて賑わっていた時代の企画を復活させることが、再活性化への近道ではないかと考えました」
多忙な業務の合間を縫って、小松さんは地元紙である「十勝毎日新聞」に掲載された「とかちむら」に関する過去の記事を丹念にピックアップ。なんと84ページにも及ぶ詳細なプレゼンテーション資料を作成しました。さらに、過去に「とかちむら」でイベント企画を担当していた元スタッフにも直接話を聞きに行くなど、地道な努力を重ねました。
帯広のばんえい競馬場を盛り上げる!レースのない日も楽しめる新企画

「ばんえい競馬のレースがある日は多くのお客様にお越しいただけますが、レースのない日にどうやって足を運んでいただくかが、現在の大きな課題なんです」と、小松さんは現状の課題を率直に語ります。
「『とかちむら』を、帯広の観光客と地元住民、人と人が自然と繋がるハブのような場所にしたいんです」
そのための具体的な取り組みとして、最近ではレースの開催がない日にビンゴ大会などのイベントを企画し、地域住民を中心に大変な好評を博しています。
「『とかちむら』が、未来を担う子供たちの思い出に残るような場所になってくれれば、本当に嬉しいです」と、笑顔で語る小松さんは、今後も、餅つき大会や十勝の特産品を活かしたポテトフェアなど、魅力的な催しを企画しています。
現在、「とかちむら」内の空きスペースには大型ビジョンが設置され、レースのない日でも競馬場の臨場感あふれる雰囲気を楽しめるように工夫されています。さらに、レースを観戦しながらゆったりとくつろげるモール足湯の設置も計画中とのこと。今後の「とかちむら」の展開から、ますます目が離せません。
観光客と地元民に愛されるお店作り:札幌出身の店長・松本さんの取り組み

「とかちむら」内で、十勝の特産品を販売するテナント「とかち産直市場」。その店長を務める松本さんにもお話を伺いました。
札幌出身の松本さんが店長に就任したのは、2024年の夏のこと。それまではドラッグストアで店長やエリアマネージャーなどを経験されていたそうです。その経験は、現在の仕事にも大いに活きていると言います。
「商品の売れ筋を分析するのが好きなんです。データに基づいて売れる商品を考え、お店のレイアウトも大胆に変更しました」と、松本さんは語ります。以前は地元産の新鮮な野菜が中心に置かれていましたが、現在は十勝産の魅力的なお土産品がメインとなっています。
「乳製品やお肉などは、できる限り地元産にこだわって仕入れています」と、松本さん。その努力が実を結び、売り上げは前年比で月平均120%以上UPと驚異的な伸びを見せています。観光客と地元の利用客の割合は季節によって変動するため、それに合わせて商品のラインナップを柔軟に見直しているそうです。
「新しい魅力的な商品をどんどん増やしていって、さらに売り上げを伸ばしていきたいですね」と、今後の展望を語ってくれました。
「とかちむら」で楽しむラーメンの新スタイル:定期的に変わるラインナップに注目

「とかちむら」内にある「とかち麺ビレッジ」も、リニューアルによって新たな魅力を加えたテナントのひとつです。毎月、新しいラーメン店が入れ替わりで営業するという斬新なシステムは、常に新しいものを求める北海道民の好奇心を大いに刺激しています。
2025年3月14日から4月13日までは、札幌の人気ラーメン店「雪月花」が出店し、地元十勝の中札内村産の希少なレアチャーシューが連日大人気でした。そして、4月20日から5月20日までは、「知床鶏麺チキンクレスト」の出店が予定されており、こちらも多くのラーメンファンから熱い視線が注がれています。
観光以上の価値を持つ「とかちむら」で、心に残る体験を

「とかちむら」は、十勝の豊かな食、 唯一無二の文化であるばんえい競馬、そして温かい人々との繋がりを生み出す場所として、地域に深く根ざした発展を続けています。その中心で陣頭指揮を執る小松さんの情熱と、未来を見据えた革新的なビジョンからは、十勝という土地への深い愛情と、地域を盛り上げたいという強い想いがひしひしと伝わってきました。
単なる観光施設としてだけでなく、地元住民にとっても誇りとなる「とかちむら」。その今後のさらなる発展に、期待が高まります。帯広を訪れる際には、ぜひ「とかちむら」に足を運び、十勝の魅力を五感で味わってみてください。きっと、心温まる特別な体験ができるはずです。
とかちむら
所在地:〒080-0023 北海道帯広市西13条南8丁目1番地
公式サイト https://www.tokachi-mura.com/