医療費を抑える5つのポイント 節約生活でも最適な医療を受けるために・・

「医療費を抑える5つのポイント 節約生活でも最適な医療を受けるために・・」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

昨今、「所得税減税」とともに「インボイス制度」や「社会保険料の限度額の上昇」など、さまざまな形での増税が浮き彫りになっています。

そのなかで、日本では昨年度、医療費は約46兆円に達し、過去最高を更新しました。これは、オミクロン株の流行による新型コロナウイルスの患者数の増加が主な要因といわれています。

一人当たりの医療費は年間平均36万8,000円で、75歳以上では95万6,000円にのぼります。75歳未満では24万5,000円で、高齢者が医療費の大部分を占めている状況も明らかです。

節約生活でも、医療費は削りたくないものです。
しかし、日本で生きていくには、収入を支出が上回ってしまう。すなわち、貯金を切り崩して生活しなくてはならない未来があるのです。
例えば、夫婦ともに65歳以上の無職世帯(夫婦のみの世帯)の場合、2022年の総務省「家計調査年報」では、実収入から非消費支出(税・社会保険料等)を差し引いた可処分所得約21.4万円に対して、消費支出が約23.7万円と約2.2万円が不足することが分かっています。

このように、増税や物価高によって、ますます苦しくなるなか、超高齢化社会に向けて医療費がかさむのは理解できます。
しかし、少しでも医療費を削減できる方法は、本当にないのでしょうか。
医療費を削減することは、家計を助けることになります。
では、具体的にどうやって医療費を削減していけば良いのでしょうか? 

今回、私達ができる医療費を抑えるための5つのポイントについて解説していきます。

参照:NHK「昨年度の医療費 46兆円 2年連続で過去最高更新」

医療費を抑えるためのポイント1:信頼できる医療機関を作る

医療費を抑えるためのポイントで一番大切なのが、「信頼できる医療機関を作る」ことです。

突然ですがみなさん、「はしご受診」という単語を知っていますか?

「はしご受診」とは、同じ病気や症状で複数の医療機関を受診すること。

例えば、ある人が風邪のような症状で最初にAクリニックを訪れ、診察と処方を受けたとしましょう。しかし、すぐに症状が改善されないため、数日後にB病院にも行き、再び診察と処方を受ける…このようなケースです。

また、病気として安定している場合でも、何か所も「セカンドオピニオン」としてドクターショッピングしている場合も「はしご受診」にあたります。

しかし、もし信頼できる医療機関を一つでも持っていたら、どうなるでしょう?

例えば、風邪症状が数日で治らなかったとしても「この先生なら信用できる」という医師がいれば、同じ医療機関に受診して治療を継続すればいいだけの話です。

これが、別の病院に行ったら、もう一度さまざまな検査からやり直しになり、医療費がかさみます。これは無駄な医療費ですよね?

このように、無駄な医療費をなくすためには、お互いにコミュニケーションをしっかりと取り、診断や治療計画を一緒に理解しあえる「信頼できる医療機関」を作ることが何より大切なのです。

医療費を抑えるためのポイント2:総合的に診てくれる「かかりつけ医」を導入する

信頼できる自分なりの医療機関をみつけることにもつながりますが、せっかくならトータルで自分の身体を診てくれる「かかりつけ医」を見つけるようにすると、なお良いでしょう。

「かかりつけ医」とは、患者が普段から健康管理や病気の治療を一貫して託す医師のこと。

ちょっとしたケガや風邪のような急性疾患から、高血圧・脂質異常症・糖尿病といった慢性的な疾患の管理まで、トータルで見てくれる総合診療を担うのが主な役割です。

イギリスには「家庭医制度」(General Practitioner, GP)という制度があります。この制度では、患者さんはどんなことでもこの「家庭医」に相談することになります。風邪でも喘息でも「何でも」です。

そして、家庭医が「自分たちで解決できる問題」か「専門医に紹介すべきか」を振り分けます。解決できるものは一次医療を提供し、必要に応じて専門家に紹介するのです。

このように、全人的にその人を見ることができる「かかりつけ医」がいると、どうなるでしょう。その人に合わない薬や社会的背景までも把握してくれる医師は、よりその人に寄り添ってくれる「自分オリジナルの医師」に早変わりします。

もちろん、接触回数が多い分だけ、お互いの信頼関係も構築していますから、「無駄に検査をしよう」などとは思いません。医師は自分の家族のように親身になって、病気や健康について考えてくれることでしょう。

このように、自分たちの体をトータルケアしてくれる「かかりつけ医」がいれば、大幅に医療費が削減できます。

参照:関西大学 第 196 回産業セミナー「イギリスの家庭医制度」

医療費を抑えるためのポイント3:診療時間内に受診する

また、医療費を削減するうえで、ちょっとしたコツが「診療時間内に受診する」こと。

病気はいつどのようにして発症するかわかりません。
夜中に突然熱が出るなんてことは、小児では当たり前のようにありますし、包丁で指を切ったなんてトラブルも、夜間仕事していたら十分起こり得ます。

しかし、基本的に病院は日中に営業していることが普通であり、営業時間外だとさまざまな「加算」がつきます。

例えば、初診の場合、休診日となっている日曜・祝日に受診すると、初診料に2,500円の「休日加算」、深夜(22時〜6時)に受診すると4,800円の「深夜加算」がプラスされます。
また、薬局で薬を調剤してもらう場合も、営業時間外では料金が割高になってしまうのです。

一方、翌日の診療時間内に受診すれば、割増料金はかからず、費用を抑えることができますよね。もちろん心筋梗塞や脳卒中のように「本当に緊急で医療機関に受診しないといけない疾患」というのは存在します。

そのため、「どういった状態だったら夜中でも病院に受診すべきか」をあらかじめ知っておく必要があるでしょう。そのためにも、あなたの「かかりつけ医」がいれば、その判断基準をあらかじめ聞いておくと安心です。

参照:けんぽれん「時間外加算」

医療費を抑えるためのポイント4:後発医薬品を導入する

「後発医薬品」とは「ジェネリック医薬品」ともいって、特許期間が終了した先発医薬品(新薬)の成分と同じで、安価な代替品のこと。

例えば、高血圧治療薬の先発品が1錠あたり100円だったとしましょう。この中には、薬の原材料費だけでなく、先発品を研究開発した費用、臨床試験で効果を確認するための費用なども含まれています。

一方、後発品は同じ成分・効果があるにもかかわらず、50円程度で提供されていることがあります。これは、後発品は開発費がかからないためです。

もちろん、同じ成分だからといって、同じ安全性・効果なのかどうかは分かりません。

そのため、ジェネリック医薬品として販売するための厳しい試験に合格し、厚生労働大臣の承認を受けたものだけが厳選されます。国の基準、法律に基づいて製造・販売されているので、品質はある程度保証されているといえるでしょう。

このようにして作られたジェネリック医薬品に切り替えると、薬剤費が大幅に削減されます。

例えば、佐藤さんが1ヶ月30錠の高血圧薬を服用する場合、先発品を使用すれば3,000円かかりますが、後発品なら1,500円で済み、年間で1万8,000円の節約になります。

このように、後発医薬品を選ぶことは、個人の医療費の削減に寄与し、国全体の医療経費の節約にも繋がります。

ただし、昨今、小林製薬に代表されるようにジェネリックメーカーの不祥事が相次いでおり、その信頼性が揺らいでいます。とはいえ、先発品で統一すると医療費がかさむだけでなく、薬局に取り扱いがないことも多く、定期処方にも難渋することでしょう。

そのため、医療費を抑えてジェネリックに委ねるか先発品にこだわるかは、それぞれのメリット・デメリットを判断したうえ、個々人で判断するようにしてください。

参照:日本ジェネリック製薬協会「ジェネリック医薬品とは」

医療費を抑えるためのポイント5:健康診断を受診し、生活習慣を見直す

早期発見と早期予防。
これに勝る「医療費の節約」はありません。その第一歩は健康診断です。

健康診断は、病気の早期発見に役立ち、その結果に基づく生活習慣の改善は、医療費の節約に直結します。

例えば、鈴木さんが健康診断で肥満傾向にあると指摘されたとします。この情報を活用して食事の質を改善し、定期的に運動を取り入れることで、肥満による糖尿病や心臓病のリスクを減らすことができます。そして、将来的にかかるかもしれない高額な医療費を回避することができます。

一方、健康診断に行かないと、自分の体のことが分からず、まさに「健康のコンパス」を失った状態。限られた情報で間違った健康法を試してしまうかもしれません。

健康診断を受けることで得られる具体的な健康情報を活用し、生活習慣を見直すことは、個人の健康維持だけでなく、医療費の削減にもつながるのです。
65歳以上の無職世帯(夫婦のみの世帯)の具体的な収支は、以下のようになります。老後資金2,000万円必要などといったネット情報もありますが、このように日本の老後は貯金を切り崩して生活をすることになる可能性が高いのです。

【65歳以上の無職世帯(夫婦のみの世帯)の可処分所得】
・実収入…24万6,237円
(・公的年金などの社会保障給付…22万418円)
(・その他…2万5,819円)
※可処分所得…21万4,426円(非消費支出:税・社会保険料等 3万1,812円除いたもの)

【65歳以上の無職世帯(夫婦のみの世帯)の支出内訳】
・食料費…6万7,776円
・交通・通信費…2万8,878円
・光熱・水道費…2万2,611円
・教養娯楽費…2万1,365円
・保険医療費…1万5,681円
・家具・家事用品費…1万371円
・被服及び履物費…5,003円
・その他…4万9,430円うち交際費は2万2,711円
・教育費…3円
・非消費支出(税・社会保険料等)…3万1,812円
※消費支出 23万6,696円
※※不足分 2万2,270円(可処分所得から消費支出引いたもの)

参照:
総務省統計局. 家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)
公益財団法人生命保険文化センター「リスクに備えるための生活設計」

「医療費を節約すること」と「最適な医療を受けること」は相反しない

以上、医療費を節約することのポイントを5つにまとめてお話していきました。

医療費を節約する・・・というと、「これくらいの医療で我慢する」という意味合いがこめられそうですが、そうではありません。これらの5つのポイントは、むしろあなたの「医療の質」を底上げし、最適な医療を受けられる第一歩でもあります。

まずは、信頼できる医療機関を見つけ、生活習慣を見直すことから、ぜひはじめてみてください。
医療費を節約しているつもりが、いつのまにかあなたの健康レベルが上がっていることに気づくことでしょう。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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