なぜ約3割の薬が出荷調整に?後発医薬品メーカーがもたらした「功罪」

薬が足りない?後発医薬品メーカーの真相

コロナが5類になり、マスク着用の可否を始めこれまでの感染対策の規制が解除されたことにより、麻疹、溶連菌感染症やRSウイルス感染症などさまざまな感染症が流行する中、深刻化してきているのが、「薬不足」です。

本当にさまざまな薬が足りなくなってきています。解熱剤でのアセトアミノフェンも在庫がもうなくなるという薬局も少なくありませんし、のどの痛みでよく使われるトランサミンや去痰剤として使われるカルボシステインなどなど。

いま、日本はさまざまな理由で、「必要な時に必要な薬が使えない」状況に陥っています。

では、なぜ日本は深刻な薬不足に陥っているのか。実は、その事の発端は「後発医薬品メーカー」にあったのです。

今回は、後発医薬品メーカーにまつわる「功罪」について、赤裸々にお話していきます。

後発医薬品が私達にもたらした「恩恵」

そもそも「後発医薬品」とは何かご存知ですか?

一言でいうと後発医薬品とは、「薬物の材料や製造過程の基本は同じでありながら生産ルートなどを違えて同じ作用の薬を一般名で販売された薬」のことです。

本来、薬を開発するには多くの労力と研究費がかかります。

その分、1番最初に作られた薬である「先発薬」は開発費用を補填するため、上乗せして薬剤が決められています。そして、ある程度の期間は薬を最初に作った恩恵として、「先発薬しか出せない期間」を設けています。

しかし、時間がたつと後発医薬品(ジェネリック医薬品)といって、同じ製法の薬も一般名として売ってよいことになっています。

ジェネリック医薬品は、先発薬を作った時の開発費用の手間ひまがかかりません。そのため、比較的先発品よりも安価なコストで薬を製造することができるわけです。

「真似じゃないか」というと、その通り。マネです。

しかし、後発医薬品があるからこそ、私達は色んな薬の供給不足にならず、独占的に薬の価格が釣り上がらないように上手くバランスを保ってきていているのです。

後発医薬品自体の品質は保証されているが…

価格競争にさらされ、薬を適切な価格で多くの患者さんに提供するのに欠かせない「ジェネリック医薬品」

よく、さまざまな理由で「ジェネリック医薬品は粗悪品」のように言われることがありますが、それは間違いです。

「食材が同じでも料理人が違えば味は異なる」といわれ、後発品医薬品の質を疑われるところですが、実際に切り替えにあまり支障はないことが多いですね。

日本では、同一成分でありながら安価に製造できるということで、医療費の高騰を抑制し、医療保険制度を守るため、後発医薬品の使用割合(全国平均/2021年9月期)は79.24%にまでなっています。

実際、2023年4月現在では、処方箋に医師が「変更不可」の指示をしない限りは患者さまの同意の上で、薬剤師がジェネリック医薬品に変更できるようなルールにまでなってきています。

では、ジェネリック医薬品の効果はまったく「先発医薬品」と同じなのでしょうか。

結論からいうと、「同一でない場合もある」というのが正しいです。

例えば、後発品が製造販売承認を得る際の条件は、「その薬の体内で吸収されたり、分解されたり、目的の効果を出す過程が先発品と80-125%同じであるということ」とされています。つまり20-25%の誤差が許容されることになりますね。「20-25%も誤差があって大丈夫なのか?」と思いますよね。

実際には、多少血中濃度に誤差があっても問題がない薬が非常に多いです。しかし、ジェネリック医薬品への切り替えに注意した方が良いケースはあります。

例えば、抗不整脈薬や抗てんかん薬のように、もともと治療域濃度が狭い(有効性を示す濃度と毒性を示す濃度が近い)薬は、切り替えに慎重になった方が良いでしょう。

おおむね「後発医薬品そのもの」には問題はありません、後発医薬品によって私達は数多くの恩恵を受けてきました。

しかし、このように後発医薬品に依存した体制だからこそ、今回の「薬不足」に繋がってくるのです。

必要な薬がない…「出荷停止」「出荷調整」の裏側にある「後発医薬品メーカー」の存在

日本では、近年、医薬品の供給不足が深刻化しています。

具体的には、医薬品全体の約28.2%、つまり調査対象の1万5,036品目のうち4,234品目が出荷停止や出荷調整が行われている状況となっているのです。「出荷調整」とは、ある企業が製造した製品を市場に出す量を調整することを指し、「出荷停止」はその名の通り、ある企業が製造した製品の出荷を一時的に中止することを指します。

要するに「これ以上作ると十分な品質を保つ事ができないので、一時的に量を制限しますよ」ということです。そう考えると、4分の1以上の薬で需要が供給を大きく上回っているこの状況、かなり深刻であることがわかります。

しかも、前年と比べると7.8ポイントの増加であり、医薬品不足の問題が年々深刻化しているのです。

出荷停止
品目数構成比
先発医薬品524.7%
後発医薬品99790.7%
その他の医薬品504.6%
総計1099100.0%
表1. 2022年末 「出荷停止」医薬品の構成比

どうしてこんな状況になったのか?その事の発端は、後発医薬品メーカーである「小林化工問題」にあります。

「小林化工問題」とは、2021年2月に業務停止命令を受けた事件のこと。

同社は、製造販売する水虫薬のイトラコナゾール錠50「MEEK」に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が混入したことで、健康被害が相次ぎました。

簡単にいうと、水虫の薬に睡眠薬が混ざっていたのですね。

当然、睡眠薬が意図せず含まれていたのですから、「本来内服してはいけない人」も内服しており、意識障害などの健康被害は150件を超え、死亡例も出ています。

厚労省が認めた製造の手順やダブルチェック、品質検査が行われていなかったことで、重大な事故を引き起こしたのです。

これだけに留まりません。

小林化工問題の翌月には、日医工で製造販承認書と異なる製造方法で製造したなどの問題が発覚し、最大32日間の業務停止を命じられました。特に日医工は2020年12月時点で約1,230品目を製造販売していたため、大きな混乱をもたらしました。

相次ぐ後発医薬品メーカーの不祥事。当然、後発医薬品メーカーの信頼は地へと落ちてしまいました。

そのため、後発医薬品メーカーは信頼を回復させるため、各社が「自主点検」を行うようになりました。

実際、一部企業の不正事案を受け、日本ジェネリック製薬協会(JGA)は2021年3月、会員各社に製造販売承認書と製造実態の齟齬(そご)について自主点検を行うよう求め、2022年1月に全会員企業の自主点検が終了したと報告しています。

そして、総点検品目数の7,749品目のうち、薬機法の規定に基づき承認内容の変更が必要だと判断された製品が1,157品目あったと公表されました。

今は厚生労働省が1,157品目について具体的な方針を示したのが2022年3月で、その後各社は対応に追われている状況です。

処分日医薬品医療機器等法(薬機法)等違反に基づく行政処分
小林化工株式会社(福井県)2021年2月9日業務停止命令:116 日 ※ 同社他工場に対して60 日間
日医工株式会社(富山県)2021年3月5日業務停止命令:製造業32日間製造販売業24日間等
岡見化学工業株式会社(京都府)2021年3月27日業務停止命令:製造業務に対する業務停止12日間等
久光製薬株式会社(佐賀県)2021年8月12日業務停止命令:製造業務に対する業務停止4日間、鳥栖工場8 日間等
北日本製薬株式会社(富山県)2021年9月14日業務停止命令:製造業務に対する業務停止26日間、製造販売業務に対する業務停止28日間等
長生堂製薬株式会社(徳島県)2021年10月11日業務停止命令:医薬品製造業および製造販売業31日等 
松田薬品工業株式会社(愛媛県)2021年11月12日業務停止命令:15-65日等
日新製薬株式会社(滋賀県)2021年12月24日業務停止命令:製造販売業75日間、医薬品製造業70日間等
共和薬品工業株式会社(兵庫県、鳥取県、大阪府)2022年3月28日業務停止命令:医薬品製造業(三田工場)33日間等
中新薬業株式会社(富山県)2022年3月30日業務停止命令:製造業務36日間、製造販売業務35日間
株式会社廣貫堂(富山県)2022年11月11日業務停止命令:医薬品製造業の業務停止本社工場36日等
表2. 2021年2月以降の医薬品医療機器等法(薬機法)等違反に基づく行政処分一部抜粋

この一連の流れは、当然、昨今の出荷調整による混乱の引き金にもなっています。既に医薬品の安定供給は過去のものになってしまったと言っても過言ではありません。

そして、その最初は今まで私達が多大な恩恵を受けていた「後発医薬品メーカーへの依存」にあったのです。

これから、私達はどう薬と向き合えばよいか?

日本製薬団体連合会は、医療用医薬品の安定供給状況調査の2023年5月調査結果をホームページで公表しました。

その中で、限定出荷と供給停止の合計品目数が全体の品目数に占める割合は22.5%で、前月の23.2%から大きな変化はなく、数字上は医薬品の供給不足の改善が進んでいないことが分かっています。

つまり、この「薬不足」の現状は今だけではない。これからも続くというわけです。

どうしてこんな事態になったのか。それは「後発医薬品メーカーに頼りすぎてたから」に他なりません。

確かに、理屈では先発品と後発品は同じです。成分も同じです。しかし、現在は後発品の信頼は地に落ち、その結果このような事態になっています。

私達が今の現状でできること。それは、後発医薬品が本当に『きちんとした医薬品なのか』、まっさらな目で客観的に厳しい目で観察することではないでしょうか。

信頼できる薬を服用する。それはもちろん当然の権利です。

もし自分にとって「合わないな」と思ったら、素直に「合わない」とお医者さんに伝えましょう。(先発薬でも後発薬でもです)

そして異常を感じたら、素直に薬局などで相談してみてくださいね。

■参考文献
1.日本製薬団体連合会ホームページ

2.DSJP|医療用医薬品供給状況データベース

3.NHK「いつもの薬がない…なぜ?いつまで続く?ジェネリック供給不足」

4.厚生労働省.小林化工(株)による睡眠導入剤混入事案概要

5.日医工、過去最多221品目の販売中止 生産を合理化 行政処分から2年

6.厚生労働省. 第7回医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議.

7.日経メディカル. 後発品、要件満たなければ参入できない仕組みを.

8. 日本ジェネリック医薬品協会.後発医薬品の普及に係る現状と課題について.(厚生労働省の許可なしに創薬はできない)

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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