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水やり不要でも枯れないキリンソウが、屋上緑化を根底から変える。鳥取から親子3代で描く「100年後の未来」

鳥取県岩美町に本社を構える株式会社フジタは、屋上緑化のスタンダードとなった「常緑キリンソウ」の開発・生産を手がける企業です。
この常緑キリンソウを開発したのは、先代の藤田道明氏。その技術を受け継ぎ、袋方式による製品化を成功させたのが、現・代表取締役であり道明氏の息子である豊博氏です。現在は、豊博氏の息子である大地氏も事業に携わっており、親子三代にわたって独自の緑化技術を守り、進化させています。
フジタが展開する「常緑キリンソウ袋方式」は、首都圏を襲った激しい豪雨災害を耐え抜いたことから、 “奇跡の植物”とも称されています。今回は代表取締役の豊博氏に、常緑キリンソウ誕生の歴史や、画期的な「袋方式」開発の裏側にあった苦労、そして未来へ向けた企業のビジョンについて詳しく伺いました。
<目次>
全滅の危機を乗り越えた奇跡の「常緑キリンソウ」

先代が常緑セダムの開発に取り組むきっかけとなったのが、外国産セダム植物が日本の気候に適応できず、全滅してしまったことでした。京都議定書以降、地球温暖化への関心から屋上緑化の需要は高まっていましたが、高温多湿な日本で輸入植物を根付かせるのは至難の業だったのです。
過酷な環境下で、唯一生き残ったのが「キリンソウ」でした。しかし、従来の種は冬になると枯れてしまいます。そこで、冬でも青々と葉が茂る「常緑化」への挑戦が始まりました。
植物の世界では、大手苗種企業の専門家ですら「現役時代に新種をひとつでも考案できれば万々歳」と言われるほど、品種改良は困難を極めます。それをわずか10年で商品化まで漕ぎ着けたことを、豊博氏は「奇跡だった」と振り返ります。
「最初は素人が2週間でオリンピックに出るようなもんでしたよ。植物の交配は運の要素も大きく、赤と白を掛け合わせても、必ずしもピンクの花が咲くわけではありません。データや知見だけでは制御できない世界なのです」
開発後も、さらなる壁が立ちはだかりました。常緑キリンソウは大量生産が難しく、ハウス内で密集させて育てると、どうしても病気が蔓延してしまいます。
「ハウスを増設したタイミングで、すべてが枯れてしまったこともあります。何度も全滅の危機に直面し、もう駄目かと思いました。でも、自然は諦めない。だから僕も諦めなかったのです」
さまざまな困難を乗り越えて安定生産を可能にした常緑キリンソウは、屋上に設置する際は適切な間隔を空けて植栽するため、風通しが良く病気の心配もほとんどありません。設置後は天然の雨水だけで育つため、メンテナンスの手間がほぼかからない点も、この植物が持つ大きな魅力です。
水やりにかかるエネルギーを削減することで温暖化を防ぐ

屋上緑化を行う建物の多くはマンションです。一定の緑地面積を確保しなければ建築許可が下りないといった事情から、やむを得ず導入するケースも少なくありません。そのため「なるべく費用をかけたくない」と考える取引先が多いのも実情です。また、近年の規制緩和を受けて、壁面緑化を試みる企業も増えています。
しかし、フジタが目指しているのは、単なる「条件クリア」のための緑化ではありません。真に「環境のため」になる緑化の実現です。一般的な壁面緑化は、自動水やり(人工潅水)の設備が不可欠であり、 維持するために継続的なエネルギーを消費します。屋上緑化でも、芝やコケを採用した場合は、 スプリンクラー等で定期的に散水しなければなりません。
豊博氏は次のように語ります。
「環境破壊や地球温暖化を防ぐためにはじめた事業なのに、水やりにエネルギーを使って二酸化炭素を出すのはフジタの理念と反します。だからこそ、余計なエネルギーを必要としない『常緑キリンソウ』が活きるのです」
豊博氏は、何よりも「植物ファースト」の精神を重んじています。植物にとって最善の環境を整えることに妥協はありません。
そのこだわりが最も色濃く表れているのが「土」です。安価なものは使わず、あえて4〜5倍のコストをかけて厳選した土を採用。配合の8割を基本としつつ、残りの2割は土地や気候に合わせて臨機応変に調整しています。
その2割に混ぜ込まれるのは、近隣店舗から出る食品ロスを活用した肥料や、東京都の浄化槽汚泥、広島県の牡蠣殻といった地域素材です。地元で生まれた資源を、再び土へと還元しています。
「捨てられる食材を土に戻す。これこそが、あるべき循環型社会の姿だと思うんです」
地球温暖化を食い止めるための、フジタの挑戦はこれからも続いていきます。
試行錯誤の末に辿り着いた「土を袋に詰める」という逆転の発想

袋方式開発のきっかけは、豊博氏が常緑キリンソウを導入していない企業から依頼を受け、屋上を視察した際のことでした。そこには雑草が生い茂り、雨で土が流されて下地がむき出しになった光景が広がっていました。
ちょうどその頃、都心ではゲリラ豪雨が猛威を振るっており、各所の緑地で土壌流出が相次いでいたのです。建物によっては漏水や泥漏れの影響が出るなど、深刻な状況でした。
「雨が降るたびに最初からやり直しになる。この状況を変えなければならない」
そう考えた豊博氏が辿り着いたのが、「土を袋に詰める」という発想でした。最初はトウモロコシや木綿など、土に還る素材を試しました。しかし、すぐにボロボロになり実用には至りません。こうした試行錯誤の過程で辿り着いたのが、元々ビニールハウスで使用していた「東レ製の防草シート」でした。
さらに、袋の開閉を容易にするためYKKファスナー付きのスライダーを採用。YKKファスナーの導入は単なる利便性の向上にとどまらず、施工後のメンテナンス性を飛躍的に高めます。植物の健康診断や土の入れ替えが容易になり、長期的な維持管理が可能になりました。
袋素材シート、ファスナー、縫製糸共にポリエステルで出来ているため、廃棄の際分別の必要が無く環境に配慮しています。製造から廃棄まで一貫して環境問題に取り組むというフジタの理念は袋方式の開発においても譲れないこだわりでした。
また、従来の「設置したら手が出せない」構造から、必要に応じて調整・交換できる柔軟な仕組みへ。袋式のシステムは、屋上緑化の現場における「革命」ともいえるものでした。
この発明を支えたのは、協力企業や仲間たちでした。豊博氏は彼らへの感謝を口にしながら、その舞台裏にあった想いを語ります。
「一人では何もできません。人の縁があって、ようやくここまで来られました。最初は『こんなもの本当にできるのか』とも言われましたが、諦めずに取り組んだからこそ形になった。植物が安心して生きられる環境を人の手で整える。それが僕らの仕事です」
実際に施工現場からは「設置が早く、管理が楽になった」と高く評価されています。持続可能な社会を見据えた新たな一歩として、袋方式は屋上緑化のスタンダードへと進化を遂げようとしています。
また、屋上緑化の現場では、施工後に大量の土を運ぶ袋が廃棄されるという課題がありました。従来の方式では、施工のたびに新しい袋を使い捨てる必要があり、環境負荷とコストの両面で大きな負担となっていました。
しかし袋方式を採用することで、 使い捨て袋の大量処分が不要になり、 現場で発生するゴミの削減につながっています。施工性の向上だけでなく、廃棄物の抑制という点でもこの仕組みは大きな意義を持っています。
100年かけて温暖化に取り組みたい

今後の目標として豊博氏が掲げたのは、 地球温暖化・日本温暖化という巨大な課題の解決です。
「気温は100年で1度上がると言われています。それならば、私たちは100年かけて元の姿に戻す努力をしなければなりません。うちが扱う常緑キリンソウの仕事は、植えてすぐに劇的な結果が出るものではありませんが、100年後の未来に生きる人々から“あの時やっておいてよかった”と心から思われるような、息の長い活動を続けていきたいです」
短期的な成果を追うのではなく、 世代を超えて続く取り組みを目指す。それが藤田氏の揺るぎない信念です。ビジョンを語る姿からは、長期的な視点で温暖化対策に挑む覚悟が感じられます。
また、設置した植物を人知れず守り続ける、 新たな管理サービスの構築にも強い意欲を見せます。
「緑化は施工して終わりではありません。誰に気づかれずとも、忍者のように静かに、かつ確実に植物の状態を診断して管理し続ける。そんなサービスを目指しています。私はこの計画を『忍者部隊』と呼んでいますが、単なる業務を超えた持続的な環境保全の形として、お客様との信頼を築いていくつもりです」
事業を単なる「緑化工事」に留めず、 未来へ続く「環境インフラ」へと昇華させる。 その視線は、次世代への継承にも向けられていました。「息子には早めに社長の大変さを知ってほしかった」と、19歳のときに息子の大地氏を起業させました。現在、大地氏は営業活動に奔走しており、 将来的に社長職を引き継ぐ計画が進んでいます。
地方から世界へ、そして現代から100年先の未来へ。 道明氏から想いを受け継ぎ、豊博氏が撒いた種は、次世代の手によって、 より大きな緑へと育とうとしています。
「地方にはまだまだ大きなチャンスが眠っています。東京のような大都市では埋もれてしまう事業も、ここ鳥取からであれば、独自の光を放つことができます。地方発のビジネスを磨き上げ、ここから世界へと発信していく覚悟です」







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