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埼玉県に生まれたリアルジョブトレーニングステーション「GOOD THE GOOD」が目指す就労支援のかたち

福祉施設と聞いて、多くの人は「支援を受ける場所」を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、埼玉県さいたま新都心にあるカフェ「GOOD THE GOOD」は、そのイメージとは少し異なります。ここは、就労継続支援B型事業所でありながら、実際のカフェとほとんど変わらない環境で働くことができる場所です。
本記事では、GOOD THE GOODがどのようにして「就労訓練の場」を「リアルな職場」として成立させているのか。その仕組みと現場、そしてそこで働くクルーの変化を追います。
<目次>
リアルジョブトレーニングステーション「GOOD THE GOOD」とは

埼玉県・さいたま新都心駅から徒歩約15分。静かな街並みに突如現れるのは、スタイリッシュで洗練されたカフェ「GOOD THE GOOD」(運営:株式会社スタートライン)です。コンクリートと木目を基調にした内装は清潔感にあふれ、一見するとおしゃれなカフェそのもの。一方で、このカフェは精神障害のある人を主な対象とした就労継続支援B型事業所でもあります。カフェの運営を通じて、働く力を身につけることを目的としています。
GOOD THE GOODでは、利用者のことを「クルー」と呼ぶことが特徴。職員の新舘弘崇さんは、次のように話します。
「福祉施設では、どうしても利用者=お客さんといった図式ができてしまいがちです。それが一概に悪いわけではありませんが、GOOD THE GOODでは『共につくり上げていきたい』という理念をもっています」
もちろん、安全への配慮や合理的配慮は欠かさず、そのうえで職員とクルーとの役割を分けすぎず、同じ現場に立つことを大切にしています。
GOOD THE GOODの根底には、「IUMモデル」と呼ばれる考え方があります。これは、イスラエルのShekurotov Group(シェクロトブ グループ)が実践してきた就労モデルです。
IUMモデルは、特定の支援技法を指す言葉ではありません。
- 障害のある人の強みを認識し活かす
- 楽しみながらやる
- 最初からできないと決めつけない
といった概念や考え方を指します。
新舘さん自身も、2025年3月にイスラエルを訪れ、現地で実務研修を受けました。言葉が十分に通じないなかでも、障害のある人と共に働く現場に立ち、「できることは想像以上に多い」と実感したといいます。
「踊ってみないか」から始まる仕事

新舘さんがShekurotov Groupで受けた研修では、朝出社してきて調子が上がらないクルーに対して、まず音楽を流すことがあったといいます。
「とりあえず踊ってみよう!」
そう声をかけ、体を動かすところから始めます。踊ってみて気分が少し上向いたところで、「じゃあ、レタスを切ってみようか」と、作業につなげていきます。最初から完璧を求めるのではなく、動き出すきっかけをつくる。その積み重ねが、仕事への自信につながっています。
新舘さんも、IUMモデルを実践するなかで少しずつ手応えを感じているといいます。
「もちろん日本とは異なる文化を持つイスラエルという土地柄もあるでしょうし、そこでの方法論をありのまま日本に適用することはできないでしょう。しかし障害者が抱える困難感は国境問わず世界共通のはず。障害者はもっと可能性がある。IUMモデルを実践することで日本の障害者福祉はさらによくなる。そういった実感があります」
GOOD THE GOODでは、クルーの成長に応じて段階的なプログラムが用意されています。
- 接客プログラム
- 調理プログラム
- バックヤード業務
- 就職支援プログラム
これらを段階的にひとつずつ身につけ、一連の流れを行うことのできる状態を目指しています。最新型というレジの操作や接客スタイルも、クルーの自発性を大事にしています。また、在庫管理やシフト管理といった、責任のあるマネジメント業務も学べる点が特徴のひとつです。
できることが増えると、仕事は楽しくなる

「職員の方と距離が近くて、相談しやすいのがいいですね。なんでも質問できて、なんでも答えてくれます。とてもフレンドリーです」
対面に腰掛け、明るく自然な笑顔で語ってくれたIさん。2025年8月からクルーとして働く彼は、今やGOOD THE GOODの主要スタッフとなっているといいます。
そんなIさんも最初は「自分にできるのだろうか」という不安が強かったといいます。しかし、トレーニングを重ねる中で、少しずつできる作業が増えていきました。
「今はできることが増えてきて楽しいです。特にコーヒー豆を挽いて、抽出してカップに淹れて出す。その一連の流れができるようになったのが面白いです」
また、Iさんは日常でも視点が変わったと話します。街を歩いていても、「ついカフェが気になってチラチラ見てしまう」ようです。テレビで紹介されるコーヒーマシンを見て、「これ、うちと同じだ」と気づくこともあります。
Iさんは以前、就労移行支援事業所に通っていました。当時は事務職以外を選択肢に入れていなかったといいます。
「自分は人見知りで、接客業なんて絶対無理だという思い込みがありました。求人票を閲覧するときも、接客系は自然とスルーしてしまっていたんですよね。視野が広がったなかで、接客業も今では将来の職業の選択肢のひとつになりました」
自身の確かな成長を実感しているIさんは、GOOD THE GOODでトレーニングを積み重ねながら、将来のことを少しずつ考え始めているといいます。
「今でも緊張はしますし、不安になることもあります。でも緊張しながらでも『できるようになった』といった実感のほうが大きいです。GOOD THE GOODはたくさんの種類の仕事があるので、一つひとつが新鮮な作業なんですよね。心配しながらトライしてみたら意外とできた、というのが多かったです。もし苦手な作業があっても、それは『この作業が苦手とわかった』と新たに知れたということだと思うんです。そういうふうに考えられるようになりました。トレーニングを経て、視野が広がったんです」
GOOD THE GOODが示す、就労支援のひとつの答え

筆者自身も実際にGOOD THE GOODを訪れましたが、店内に入ってまず感じたのは、「福祉施設を利用している」という意識が、ほとんど生まれなかったことです。言われなければ、普通のカフェと見た目もメニューもまったく変わりません。クルー同士が自然に連携し、自律的に動いているのを見て、GOOD THE GOODのIUMモデルが奏功していることを確信しました。

美味しそうな料理の数々に思わずたくさん注文してしまいましたが、「食べきれなければ、お持ち帰りできますよ」と、声をかけていただき、丁寧に料理を包んでくれました。
食事をしている間も、クルーの動きが気になって自然と目で追っていました。忙しい時間帯でも、慌ただしさが店全体に広がることはなく、落ち着いた空気が保たれています。「訓練の場」であることを忘れさせるほど、心地よい空間がそこにはあります。
知識が増えること。できることが増えること。それは、人にとって根源的な喜びです。GOOD THE GOODは、その喜びを「訓練」という枠に閉じ込めず、実際の仕事の中で積み重ねています。
「支援を受ける場所」から、「働く場所」へ。GOOD THE GOODは、就労支援のあり方にひとつの具体的な答えを示してるように思えました。



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