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貧血という言葉をご存知でしょうか?
字面からなんとなく、血液の成分が薄くなってしまうのは、分かるかと思います。実は、貧血は思春期に多くなり、とりわけスポーツを取り組んでいる人が多くなります。スポーツをしっかりやっている人は、貧血とは無縁そうに思えるので、病院でも貧血があるといわれると驚く患者さんが多いのです。
今回は、思春期の貧血について、なぜ起こるのか、どのように予防するのかを解説していきます。
そもそも貧血とは
「貧血」というと漫画やアニメなどで、校長先生の話が長すぎて、ふらついて倒れている場面を想像する方がいらっしゃるかもしれません。
実は、これは医学的には「貧血」とは呼ばないのです。
ふらついて倒れるのは、「起立性低血圧」と呼ばれる状態です。勢いよく立ちあがろうとしたときに、ふらついたことがあるという人は多いと思いますが、これは急に立ち上がったために、重力に従って血液が上に上がりにくくなり、脳の血流が短時間の間減ってしまうことによるものです。長い間立っているときも、脳に血流が行きにくくなり、ふらつくことがあります。
一方で、貧血というのは、血液の中のヘモグロビンという物質が少なくなった状態をいいます。ヘモグロビンは、血液の中の赤血球という細胞の構成成分です。赤血球は、体の中で酸素を運搬する役割を果たしているため、少なくなると、各臓器に酸素を運搬することができなくなり、息切れを起こしたり、体力の低下を感じたりするのです。
参考文献:メルクマニュアル プロフェッショナル版 貧血の病因
貧血の症状
貧血では、酸素を運搬する細胞である赤血球が減少することで、様々な症状が起きます。
まず、酸素運搬がうまくいかないため、運動時に息切れを生じます。また、脳への酸素供給の効率が低下することで、集中力の低下や眩暈などを感じる場合があります。
貧血を疑ったときには、医師は身体診察(体を診て病気がないか確認すること)をします。貧血では、眼瞼結膜(あっかんべをした時に見える下瞼の内側の部分。通常は赤い色をしている)が白くなります。また、皮膚や唇の血色が悪くなり、青白くなります。爪の付け根のあたりが凹んで、スプーンのような形になるスプーンネイルも見られます。他にも、鉄欠乏性貧血の患者の半分に見られる症状として、異食症があります。栄養価のないもの(氷、土、紙)が食べたくなることを指す言葉ですが、貧血の場合には、氷を無性に食べたくなることを指します。この症状の原因は完全には明らかにはなっていませんが、体が不足している栄養素を求める反応だと考えられており、鉄欠乏だと無意識に固いものを食べて、満足感を得ようとしているのではないかといわれています。
参考文献:小児保健研究 第70巻 第4号2011 472−478
思春期に多いスポーツ貧血
体が発展途上の思春期に、スポーツに取り組んでいるときに多くなる貧血は、「スポーツ貧血」と呼ばれています。このスポーツ貧血が起きるのには、いくつかの理由があります。
まずは、スポーツで大量に汗をかくことです。汗にはごく少ない量であるものの、鉄分が含まれています。毎日大量の汗をかくと、出ていく鉄分が多くなるのです。スポーツをする人は筋肉量が多いため、たくさん鉄分が必要になります、さらに、スポーツで走ったり飛んだりする動作が多いと、足の裏が地面に打ち付けられ、足の裏を走る毛細血管の赤血球が壊れます。これらの要因で、スポーツをしている人は貧血になりやすいのです。
ここでは、スポーツ貧血の頻度について表にまとめました。
男子(14.0g/dl未満) | 女子(12.0g/dl未満) | |
中学生 | 22.7%(225人) | 8.6%(225人) |
高校生 | 20.2%(5,984人) | 19.5%(3,903人) |
大学生 | 14.3%(617人) | 15.5%(427人) |
さらに思春期は、スポーツをしていなくても身長が伸び、筋肉が増えて、体が大きく成長する時期です。この時期には、1日に必要な鉄分が、成人の数倍になるといわれており、貧血の発生率も高くなるのです。
参考文献:
運動とスポーツの科学第28巻 第1号 2022
財団法人日本体育協会スポーツ科学専門委員会:国体選手の医・科学サポートに関する研究-第9報-, 日本体育協会スポーツ医・科学研究報告書, No.1, 2001
貧血を予防するために
鉄欠乏の予防には、鉄分をしっかり摂ることが重要です。
鉄分は、肉類、魚介類、藻類、野菜類、豆類に多く含まれています。鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄の2つがあり、そのうち、ヘム鉄は吸収率が良いです。このヘム鉄は、肉類やレバーや魚介類に多く含まれます。野菜などに含まれる非ヘム鉄は、吸収率が低めですが、ビタミンCとともに摂ると吸収が良くなります。しっかり鉄分を取るために、バランスの良い食事を心がけ、インスタント食品や外食に頼らないようにしましょう。過度なダイエットも貧血を引き起こすので注意をしましょう。
参考文献:厚生労働省 e-ヘルスネット
スポーツ貧血も医療機関での検査を
今回は、思春期に多くなるスポーツ貧血について解説しました。
スポーツをしている元気な人には無縁のような気がする貧血ですが、実はリスクが高いのです。息切れやだるさなどの症状が続く人は、貧血の可能性を考え、医療機関での検査を検討しましょう。