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犯罪はなぜ繰り返されるのか。藍綬褒章を受賞した保護司・長濱和徳さんが語る更生のリアル

犯罪や非行をした人の更生を助け、社会への復帰を支えている役割を担っている「保護司」。宮崎県日南市で20年という長きにわたり、つまずいた人々の隣に立ち続けてきた一人の男性がいます。その人物こそ、長濱和徳さん(78歳)です。
2025年、長年の献身的な保護司活動が認められ、藍綬褒章を受章した長濱さん。本業である葬儀社の経営を傍ら、なぜ彼は危険や困難も伴う保護司の活動を続けてきたのでしょうか。
今回は、長濱さんの20年の歩みを振り返りながら、現代社会が抱える犯罪のリアルと、更生に必要な「つながり」の本質について、お話を伺いました。
<目次>
保護司の活動を続けている理由

日南市の地域福祉に長年携わってきた長濱さんの歩みは、決して使命感だけから始まったわけではありません。そこには、地域を支える1人の人間としての実直な理由がありました。
困っている地域の人々に伴走
長濱さんが保護司のバッジを初めて手にしたのは、今から約20年前の平成17年のことでした。それ以前、長濱さんは「民生委員・児童委員」として、地域の子どもから高齢者までを支える活動を続けていました。その活動は14〜15年に及び、熱心な取り組みは周囲から一目置かれる存在だったといいます。
保護司になったきっかけは、先輩からの誘いでした。最初は「今から自分の言うことには『はい』と言って受け入れてほしい」とだけ言われたそうです。保護司は犯罪に関わった人を相手にするため、敬遠されてしまうことも多い仕事でもあります。
「だからこそ普通に頼んだら断られるかもしれないという思いがあったのかもしれません」
長濱さんはそう苦笑しながら、当時を振り返りました。
長濱さんにとって、人のそばに立つことは、特別な決断ではありませんでした。それは、これまでも民生委員として地域のさまざまな困りごとに関わってきた経験があり、さらに父親もまた、長年同じ役割を担っていたからです。「困っている人がいれば手を貸す」という姿勢は、家庭のなかで自然に受け継がれてきたものでした。
さまざまな人生との巡りあい
20年に及ぶ活動で、長濱さんはさまざまな保護対象者と向き合ってきました。ある対象者は、面談の最中に突然暴れ出し、警察を呼ばざるを得ない状況になったこともあったといいます。
その対象者は、遵守事項として禁じられていた飲酒を昼間から重ね、ひどく興奮した状態で面談場所に現れました。長濱さんと別の保護司の2人体制で対応していましたが、注意を促
した途端、相手は叫び出し、収拾のつかない状態に陥ったそうです。長濱さんはこのような経験を通して、「依存症がもたらす困難さ」を何度も痛感してきました。
一方、さまざまな人生と巡り会う分、温かな記憶もあります。それは、日南市の水産高校へ「漁師になりたい」という夢を持ってやってきた17歳の少年との出会い。
彼は慣れない土地で必死に自分を変えようとしていました。しかし、なかなか学校生活に馴染めず、最終的に学校を辞めて地元に戻ったそうです。
その後しばらくして、彼から電話があり、結婚することになったと報告を受けました。さらに、子どもにも恵まれ、今では立派に働いて家族を支えているという話を聞いた瞬間、何物にも代えがたい喜びを感じたと話しました。
更生して前を向いて生きる姿が原動力
命に関わる凶悪な事件を起こした者もいれば、万引きや窃盗を繰り返してしまう者もいる。長濱さんは20年間にわたり、多種多様な背景を持つ対象者と向き合ってきました。それでもなお、なぜ彼はここまで根気強く活動を続けられるのでしょうか。
長濱さんが一番の原動力として挙げたのは「更生して社会に復帰した対象者が、立派に家庭を持ち、仕事に励んでいる姿を見ること」です。長濱さんの元には、今でもかつての対象者たちから電話やメールが届くことがあるそうです。
さらに、無期懲役で30年以上の刑務所生活を経て社会復帰したある男性とは、時々食事会を欠かさず行うのだとか。長濱さんによれば、彼は真面目な性格で、年に一度、贖罪のためのお寺参りに欠かさずに行っているといいます。彼のように、更生のために前を向いて頑張っている人の姿を見ると、「保護司をやってきた甲斐があった」と感じられるそうです。
対象者を長年見て感じる犯罪傾向

20年という月日は、社会のありようを大きく変えました。それは犯罪の質や、対象者たちが抱える問題の変化にも如実に表れています。長濱さんは、日々彼らと向き合うなかで、統計数字だけでは見えてこない更生保護の難しさを痛感しています。
事件数は減っても繰り返される再犯
長濱さんが一番に指摘したのは、全国的な事件の数は減っているものの、再犯率が下がらない現状。法務省の統計でも「再犯率は約50%弱」と高い水準で高止まりしているのがわかります。
「一度過ちを犯した人が、再び社会のレールから外れてしまう…」その負の連鎖を断ち切ることが、どれほど難しいのか。長濱さんは自身の経験を交えながら語りました。
長濱さんが担当した対象者には、10犯を超える前科を持つ人もいました。多くは、凶悪な事件というよりも、友達の財布からお札を抜き取ってしまうなど、比較的軽度な窃盗を繰り返してしまうケースだったといいます。
さらに、現代の課題として「デジタル化」の影響も無視できません。今や誰もがスマートフォンを持つ時代。長濱さんによれば、近年は端末をきっかけとした少年事件が確実に増えているそうです。保護司は年配の世代が多いですが、近年の対象者は若年齢化しているため、彼らの考え方や行動にどう対応していくかが大きな課題といえるでしょう。
対象者の裏側に潜む共通点
なぜ、対象者は過ちを繰り返してしまうのか。長濱さんと対話を重ねるなかで行き着いた結論は、「家庭環境」でした。
対象者の多くは、親の離婚や放任といった不安定な家庭環境で育っています。さらに背景をたどっていくと、親自身もまた、十分な支えを得られないまま育ってきたケースが少なくないことが見えてきます。長濱さんはそうした状況に触れるたび、負の連鎖が世代を超えて続いている現実を痛感するといいます。
その例として、長濱さんの脳裏に浮かんだある少年がいました。彼は家庭環境が複雑で、母親が二度の離婚。孤独感の末、少年は気づいたら悪い仲間と関わるようになっていきました。
長濱さんは、その少年を「根は優しい人」と語りますが、同時に見えてきたのが「流されやすさ」。周囲から誘われると断ることができず、悪い方へと足を踏み入れてしまいます。インタビューを通して、家庭環境と「周囲への流されやすさ」が、多くの対象者に共通する特徴であることが見えてきました。
保護司として未来に込める願い

現在78歳の長濱さんは、本来の定年である75歳を超え、「特例再任」という形で今もなお保護司として現場に立ち続けています。80歳近くまで活動を続けることを決めたその目には、これからの更生保護制度、そして地域社会に向けた切実な願いがありました。
すべての人に「人権」を
長濱さんが、活動を通して大切にしてきたのは、対象者を1人の人間として尊重することです。現在は、刑務所でも受刑者を「さん」付けで呼ぶルールに変わったそうですが、長濱さんもまた、過去に罪を犯したという理由だけで人を見下してはならないと、常に心に留めてきました。「人権はすべての人に保障されるべきものである」という想いが、そこには滲んでいます。
また長濱さんは、世間の噂や偏見で人を判断する風潮にも警鐘を鳴らしています。スマートフォンの普及などにより、事実でないことが簡単に広まってしまう今の時代。「確証のない話を信じ込まず、自分の目と耳で確かめた事実をもって初めて判断するべきだ」と語りました。
保護司の待遇に求めるもの
さらには、ボランティア精神に頼っている現在の保護司制度にも厳しい視線を向けています。特に、2024年5月に滋賀県で起きた保護司刺傷事件は、全国の保護司に大きな衝撃を与えました。長濱さんはこの事件について「保護司の担い手不足に拍車をかける出来事だった」と振り返ります。
現在の保護司制度では、面談や会議に出席した際に支払われるのは、わずかな実費弁償金のみ。いわゆる手当や報酬は一切ありません。責任の重さや活動量を考えれば、決して十分とは言えないのが実情です。長濱さんは、実費弁償金の単価を見直すなど、現場の負担が少しでも減ることを願っているといいます。
つながりは絶やさない
長濱さんが対象者などに繰り返し伝えている言葉があります。それは「いい加減」という生き方。
現代社会を生きる人たちは、真面目すぎて自分を追い込んでしまうケースが多いといいます。ストレスを抱え、うつ病などの病気を患ってしまうことも少なくありません。「いい加減」という言葉はつい誤解されがちですが、長濱さんが伝えたいのは、「ほどほどでいい」「無理をしすぎなくていい」ということ。その言葉には、長年人と向き合ってきたからこそ生まれた、やさしい距離感が感じられます。
「人に迷惑をかけない範囲で、自分に対していい加減(=ほどほど)であることは、生きていくうえでとても大事。真剣に考えすぎてしまうと、頭がおかしくなってしまうこともある。呼吸をするように、ふっと力を抜く瞬間を作らないといけない」
そう語る長濱さんの言葉には、保護司として積み重ねてきた年月の重みが、確かに伝わってきました。
この温かさがあるからこそ、対象者たちは任期が終わっても長濱さんを頼り続けるのかもしれません。80歳で保護司を退任した後も、「顧問のような存在として関わりたい」と語るその姿勢は、支えることが生き方そのものであることを物語っています。
(TEXT/小嶋麻莉恵)




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