『新潟市水族館 マリンピア日本海』の裏側に密着!災害時における安全管理の取り組みとは?

令和6年の能登半島地震により、石川県の施設は甚大な被害を受けた。その復興の道のりのなかで、『のとじま臨海公園水族館』からカリフォルニアアシカを受け入れたのが、新潟県の新潟市に位置する水族館『マリンピア日本海』である。日本海を望む雄大な立地にあり、新潟の地域に根差した魚を中心に海獣など多彩な水生生物を展示している。

今回の震災を受けて、同館が果たした役割とは何か。また、将来起こりうる災害に対して、どのような備えを進めているのか。館長を務める野村卓之氏に密着取材を行い、被災動物の受け入れ経緯と、マリンピア日本海の災害対策について詳しく聞いた。

<目次>

「何か協力できることを」水族館の協力体制

マリンピア日本海がのとじま臨海公園水族館より受け入れたカリフォルニアアシカのコウスケ
のとじま臨海公園水族館より受け入れたカリフォルニアアシカのコウスケ

マリンピア日本海とのとじま臨海公園水族館は、10年以上前から協力体制があった。2012年にマリンピア日本海がリニューアルする際にサメを預けたり、生物収集の拠点として赴いたりするなど、のとじま臨海公園水族館とは活発な交流があったという。

「お世話になりっぱなしの水族館が被災したのだから、とにかく何か協力できることはないかと思い、受け入れる流れになりました」

震災直後、のとじま臨海公園水族館は被災状況を鑑みて『預かってほしい生き物リスト』を作成し、日本動物園水族館協会(JAZA)と日本水族館協会(JAA)に提出。各協会が加盟水族館と調整し、なるべく移動の負担が少ない近隣施設に預け先を振り分けていった。

「最初は新潟も被災しているからと、マリンピア日本海は候補から外されたのですが、深刻な被害はなく、受け入れ可能と再度申し出たところ、カリフォルニアアシカの受け入れが決まりました」と野村館長は振り返った。

災害時におけるJAZAとJAAの迅速な調整と、各水族館の協力体制が功を奏した形だ。今回のケースは、有事の際の水族館同士の連携の重要性を示す好例といえるだろう。

マリンピア日本海のトド・アシカのスペース
仕切りを用いてアシカのスペースを確保

「カリフォルニアアシカのコウスケは、輸送した初日から餌を食べてくれました。現在、活発で体調も安定しています。職員一同、安心しました」と、野村館長は胸をなでおろす。

マリンピア日本海がカリフォルニアアシカの収容スペースを有していることと、人員が十分であることが預け先の決定に大きく左右した。

東日本大震災の教訓から生まれた災害対策

実は同館には、2011年東日本大震災の教訓から生まれた災害対策がある。

「あの時は、ものすごい揺れで水槽の水があふれたり、魚がパニックで異常な泳ぎ方をしたりしました」と、当時の状況を振り返る。飼育生物の生命に影響はなかったものの、避難対策の甘さが浮き彫りになったという。

マリンピア日本海の2階(海抜12m)にある避難場所
2階 避難場所

現在は、職員全員に“垂直避難”を徹底している。有事の際は、海抜12mに位置する建物の2階に避難することに統一した。

以前は近隣にある海抜13mの護国神社を避難場所としていたところ、「日本海側の津波は到達が早い特徴があるとわかりました。避難が間に合わないおそれがあるため、より早く避難できる当館2階のスペースに変更しました」と、野村館長はその経緯を説明する。

さらに同館では、『東京都葛西臨海水族園』と『名古屋港水族館』との3園館で大規模災害相互救援に関する広域連携基本協定を結び、災害発生時の相互の応急対策について協力体制を築いている。

「災害対策に大事な視点は、過去の事例から学ぶことです。常にアップデートしていくのが肝要だと思います。有事の際には、まずはお客様の安全確保に努めます。職員が的確に動けるように訓練に励んでいきます」

マリンピア日本海の水温管理システム
水温管理システム

停電対策としては自家発電機材を所有しているが、2日間分の燃料しか蓄えられないのが現状だという。

「停電すると生命維持装置が使えなくなります。水質管理のための循環装置などが停止したとき、可能な限りケアをしてどこまで生き物が耐えられるかどうかが心配であります」

日本海側に位置する同館では、特に冬場は毎日のように強風対策を講じているという。また、台風の報道があれば、屋外にある吹き飛ばされそうなものは屋内にしまうなどの対策を進める。プールに異物が混入すると、イルカが食べてしまう危険性があるため、飼育員が適宜対応する。

飼育員は「発信力」が大事

飼育員たちはただ生物を飼育するだけでなく、その生息背景や自然環境に関する詳細な情報を伝える役割も担っている。「発信力」が飼育員にとって欠かせないものであり、生物に関する情報を、正確かつわかりやすく「展示」して伝えることが求められる。

こうした考えに基づき、同館では「飼育員」を「展示スタッフ」と呼ぶ。イルカショーやトドの給餌などでは、展示スタッフによる丁寧な解説が楽しめる。生き物の健康を管理するプロフェッショナルによる、わかりやすい解説つきのショーは見応えがあり、利用者にも好評だ。

マリンピア日本海の展示スタッフによるイルカショーの様子
イルカショーにてイルカの体のつくりを解説する展示スタッフ

さらに、海岸に漂着した生物の調査や、山や川、池などの淡水エリアに生息する希少な淡水魚の継続的な調査も展示スタッフの重要な業務の一部となっている。これらの活動を通じて、展示スタッフは生物の増減や生息地の変化を記録し、環境保全のためのデータを提供している。

「動物に出産の兆候が見られたら、24時間体制で記録をつけます。世界初のバイカルアザラシの出産後は、試行錯誤しながら飼育しました」

マリンピア日本海は、地域の自然を守り、次世代に伝えるための教育の場としての役割を果たしている。「多様性に富んだ新潟の自然を発信する存在でありたい」との思いから、来館者には自然の重要性を認識し、小さな発見を通じて自然保護の意識を高めてもらいたいと野村館長は語る。

限られた予算の中で、地域性を活かした企画展示などを実現しているマリンピア日本海。展示スタッフの日々の努力と地道な取り組みが、マリンピア日本海の魅力につながっているといえるだろう。


新潟市水族館 マリンピア日本海
住所:〒951-8555 新潟市中央区西船見町5932-445
電話:025-222-7500
アクセス:JR新潟駅より新潟交通路線バス 水族館線「水族館前」下車後すぐ
公式サイト https://www.marinepia.or.jp/

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