睡眠中の「脳のごみ」排出を約1割高める新薬配合、人で世界初の実証

睡眠中の「脳のごみ」排出を約1割高める新薬配合、人で世界初の実証

米研究チームが、睡眠中に脳内の老廃物を排出する働きを薬で高めることに世界で初めて成功したとする研究結果を発表しました。アルツハイマー病の発症には、脳内に蓄積する「アミロイドβ」や「タウ」と呼ばれるタンパク質が深く関わっていることが知られており、これらは「脳のごみ」と表現されることもあります。近年、睡眠中に脳内の老廃物を洗い流す「グリンパティック系」と呼ばれる浄化システムが存在し、深い睡眠時にこの機能が活性化することが分かってきました。

研究を行ったのは、米バイオテクノロジー企業Applied Cognitionと米ワシントン州立大学などのチームです。チームはまず、鎮静薬「デクスメデトミジン」を高齢者に投与して深い睡眠を増やす臨床試験を行いましたが、全身の血圧が下がり、脳の血管が拡張してしまうことで、血管周囲の老廃物の通り道が圧迫され、期待した排出効果は得られませんでした。そこで、血圧低下を防ぐ薬「ミドドリン」を組み合わせた新たな配合剤「ACX-02」を用いることで、深い睡眠を保ちながら血圧を正常範囲に維持する方法を検証しました。

高齢者を対象に4時間15分の睡眠機会を設け、ACX-02を投与したところ、脳血管の過度な拡張を防ぎつつ脳液の循環を保つ「脳の掃除」に理想的な状態を作り出すことに成功しました。血液中の成分変化を分析した結果、1回の睡眠セッション中に脳から血液へ排出されるアミロイドβは約8.45%、タウは約9.66%増加したと報告されています。人間の体内で、薬によってグリンパティック系の機能を意図的に高め、アルツハイマー病関連タンパク質の排出増加を定量的に示したのは、これが初めてとされています。

認知症予防への期待と今後の課題

アミロイドβやタウの蓄積がアルツハイマー病などの認知症リスクと関係することは、これまでの研究で繰り返し指摘されており、十分な睡眠が認知症予防に重要だとする見解も広がっています。今回の結果は、睡眠中の「脳のごみ」排出を薬で補助することで、将来的に認知症リスクを下げる新しい予防・治療法につながる可能性を示したものです。一方で、ACX-02はまだ研究段階の配合であり、長期使用時の安全性や、実際に認知機能低下や発症率をどの程度抑えられるかなど、多くの課題が残されています。

また、深い睡眠そのものが脳の老廃物排出に重要であることから、日常的には睡眠時間と睡眠の質を確保する生活習慣の見直しも、依然として基本的な対策だと専門家は指摘しています。今後、この新しい薬の配合に関する大規模な臨床試験の結果とともに、生活習慣の改善と薬物療法をどう組み合わせて認知症予防に生かすかが問われていくことになりそうです。

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