21日、厚生労働省の専門部会がアルツハイマー病の新たな治療薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」の製造販売に関する薬事承認を了承しました。この治療薬は、日本の製薬大手エーザイと米国の製薬会社バイオジェンが共同で開発を進めたものです。
今後正式に承認されれば、国内ではアルツハイマー病の原因とされる物質に直接作用して排除する初めての治療薬となります。厚生労働省の公式な承認は近日中に行われる予定で、年内の使用開始が期待されます。
アルツハイマー病は認知症の大部分を占める疾患の1つで、この病気は「アミロイドベータ(Aβ)」という異常なたんぱく質の脳内蓄積が原因とされます。神経細胞が次第に死滅し、その結果として思考や記憶の機能が失われていくと考えられています。
「レカネマブ」の効果として、体内の免疫反応を利用してAβを排除し、病気の進行を遅延させることが期待されています。しかし、一度壊れた神経細胞を修復する効果はないため、根本的な治療とは言えません。
投与対象者は、脳内でAβの蓄積が確認されたアルツハイマー病の初期段階の患者や、軽度認知障害(MCI)の人です。進行度が高い患者はこの対象外となります。
エーザイの臨床試験では症状の悪化が27%低減
エーザイなどの研究グループが行った臨床試験では、約1,800人の参加者を2つのグループに分け、片方にはレカネマブを2週間に1回、もう片方には偽薬を投与しました。1年半後の症状を比べてみると、レカネマブを投与した患者は症状の悪化を27%抑えられていました。
しかし、レカネマブを投与された約2割の患者には、脳の小さな出血や浮腫(むくみ)などの副作用が確認されました。専門家からは「脳に副作用が出ているかどうかをMRIの画像で確かめられるよう、医師は画像を読む訓練をすべきだ」と提言されています。
エーザイは今年の1月に、承認手続きを厚生労働省に申請しました。一定の基準を満たす医薬品の審査を優先的に行う「優先審査」の制度が適用され、手続き期間が短縮されました。エーザイの推計によれば、2030年頃にはMCI患者や早期アルツハイマー病患者の約1%、約6万人にレカネマブが投与されるとのことです。
認知症患者やその家族をサポートする公益社団法人「認知症の人と家族の会」の鎌田松代代表は、「認知症の本人や家族にとって、レカネマブは大きな道を開くものになると思う」と述べています。