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隣に“元受刑者”が住むということ。地域の反対運動から20年、更生保護施設「がじゅまる沖縄」の役割とは

沖縄の穏やかな住宅街の一角に、社会復帰を目指す人々が一時的に身を寄せ、自らの足で歩き出すための準備を整える場所がある。その施設こそ、更生保護法人「がじゅまる沖縄」だ。
がじゅまる沖縄は法務大臣の認可を受けた更生保護施設である。少年院からの退院者や刑務所からの出所者のうち、身寄りがなく、直ちに自立することが困難な人々を受け入れている。宿泊場所や食事といった物理的なセーフティーネットを提供すると同時に、就労支援や生活習慣の改善指導を行い、彼らが再び社会の輪に戻るための「橋渡し」を担う場所だ。
本記事では、がじゅまる沖縄の施設長、福祉職員、そして心理士へのインタビューを通じ、更生保護の最前線にある実態と、彼らが向き合う現代の社会課題を紐解いていく。
<目次>
更生保護施設とは?がじゅまる沖縄の内部を公開

現在、全国には102の更生保護施設があり、毎年およそ8,000人を受け入れている。これらの施設は、犯罪や非行をした人の「再出発」を支え、新たな被害者を生まない安全・安心な地域社会の実現を目指す場所である。更生保護施設と聞くと、厳格な監視下にある場所を想像するかもしれない。しかし、がじゅまる沖縄の役割は、管理以上に「自立の支援」に重きが置かれている。

「私たちは、行き場のない方々に一定期間、宿泊場所や食事を提供し、就労支援を行いながら、基本的生活習慣を築くお手伝いをしています」と、施設長は語る。

決して施設に入所したからといって、自由が無制限に認められているわけではない。集団生活を円滑に営み、自律心を養うため、施設では一定のルールが設けられている。
- 無断外泊の禁止と門限の厳守
- 飲酒禁止
- 共同生活におけるマナーの遵守
これらは一見当たり前のことに思えるが、依存症や不安定な生活環境にあった入所者にとっては、これらを守り続けること自体が更生への第一歩となる。
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受け入れにあたっては、全国から届く申請書類をもとに厳正な選考が行われる。書類選考の後、オンラインなどで面接を実施。本人の反省の度合い、更生に向けた意欲、そして他の入所者に悪影響を及ぼさないかなどを総合的に判断しているという。現場のスタッフが、入所希望者の言葉の端々に宿る「変わりたい」という意志を慎重に見極めているのがわかる。
地域住民との20年。反対運動から「信頼」への道のり
「更生保護は地域力」を掲げ続けてきたがじゅまる沖縄は、いまでは地域に溶け込んだ存在となっているが、その道のりは決して平坦ではなかった。約20年前の移設時、住宅街のなかに設けられたこの施設に対しては、地域住民から猛烈な反対の声があがったという。
「外から入所者の姿が見えないように目隠しを設置するなど、多くの条件を受け入れてのスタートでした」
そう話しながら、施設長は当時の経緯に触れつつ、該当する窓際などを案内してくれた。

施設の存在が不安を呼ぶのであれば、その不安を一つずつ丁寧に取り除いていくしかない。スタッフと入所者は、地域に迷惑をかけないための指導を徹底すると同時に、地域社会との接点を少しずつ増やしていった。

更生保護女性会と協力した料理教室の開催、さらには施設の一部を地域の会議やスポーツ少年団の活動の場として無料開放するなど、場所を開放することで「顔の見える関係」を築いてきた。

「現在では、地域の方々との関係はかなり良くなっています。対話と交流を積み重ねることが、偏見を解消する唯一の手段でした」
施設長の言葉からは、地域の理解が着実に深まりつつあることがうかがえた。
一方で、「更生保護施設は必要だと思うが自分の住む地域に出来てほしくない」と考える人が一定数いる反面、社会復帰に向けた市民の理解が必要であることも重要だろう。
更生保護の難しさと変容する実態

今回の取材を通して浮き彫りになったのは、入所者の属性変化に伴う「指導の難しさ」だ。
以前は、刑期の途中で仮釈放された「保護観察付」の対象者が多かった。しかし現在は、刑期を満了した「満期出所」や、起訴猶予となった人々が対象となる「更生緊急保護」の割合が逆転し、増加傾向にあるという。
「仮釈放の方は、ルールを守らなければ刑務所に戻されるという危機感から、意識が高い傾向にあります。一方で、更生緊急保護の方は『いつでも施設を出られる(刑務所へ戻らない、入らない)』という感覚があり、指導に対する響き具合に温度差があるのが現状です」
また、入所者の8〜9割がアルコールにまつわる問題を抱えているという点も深刻だ。施設内ではルールを守っていても、仕事が決まり、環境が変わった途端にお酒の誘惑に負けてしまう。それが原因で仕事が続かなくなったり、施設内でトラブルを起こして退所せざるを得なくなったりするケースも少なくない。「やめたいのに、やめられない」という依存症の根深さが、自立への大きな壁となっている。
これに対し、がじゅまる沖縄では以下の3つの柱で再犯防止に取り組んでいる。
- 社会性の回復
SST(ソーシャルスキルトレーニング、生活技能訓練)を通じた、挨拶や謝り方といった基本スキルの習得。生活技能訓練とは、日常生活を安定して営み続けるための力を養う取り組み - 内面の深掘り
毎月実施される「集団処遇(勉強会)」での、依存症理解と振り返り。
集団処遇には、薬物依存回復プログラム、暴力防止プログラム、薬物依存回復訓練、薬害教育、酒害教育、就労支援セミナー、医療・年金相談会、社会奉仕活動、地域交流活動(更生保護女性会の料理教室等)など - 継続的な伴走
退所後も訪問や電話相談を行う「フォローアップ事業」
DV加害の連鎖を断ち切るために、向き合う心理士

がじゅまる沖縄の大きな特徴は、通常の更生保護事業に加え、沖縄県から「DV防止対策事業」を委託されている点にある。
「当施設では、DV加害者に対する電話相談やカウンセリング、グループワークをすべて無料で提供しています。また、県内の中高生に向けた『デートDV予防啓発講座』にも力を入れています」
そう話してくれたのは、この施設で勤務をしている心理士の女性だ。
がじゅまる沖縄は、被害者支援だけでなく、「加害者にならないための視点(加害防止)を重視している。特に、同じ学校内で問題が起きた場合、被害者と加害者を完全に引き離すことは難しいためだ。
多くの更生保護施設に福祉職員の配置は進んでいる一方、心理士が常駐しているケースは珍しいという。
「単にルールを守らせるだけでは不十分です。本人のトラウマや心理的背景を理解し、自分のモヤモヤを自分で処理できる『セルフコントロール能力』を育てることが、10年後の再犯防止につながります」
そう語る心理士は、思い通りにならないときに相手をコントロールしようとする行為もDVに含まれると指摘する。その背景には、アルコールや薬物の乱用が深く関わっているケースも少なくないという。
こうした課題に対応するため、がじゅまる沖縄は依存症回復施設「沖縄ダルク」とも密接に連携している。ダルクのメンバーがDV講座のスタッフとして関わることで、依存症と人間関係のトラブルをセットで解決できる「ワンストップ」の支援体制を目指しているそうだ。
運営の課題とこれからの展望

更生保護という社会的に欠かせない役割を担いながらも、その運営基盤は常に揺らいでいる。
「最大の課題は、職員の待遇面と資金面です。国からの運営費は入所率が高くなければ成り立ちませんし、建物の減価償却費なども補助の対象外です。職員の熱意やボランティア精神に頼らざるを得ない現状があります」
施設長が今後の展望として最優先に挙げたのは、「職員が働きやすい環境づくり」だった。支援者自身が心身ともに健康でなければ、入所者の複雑な背景に寄り添い続けることはできないからだ。その一方で、地域社会や若い世代とのつながりも、さらに深めていきたいという。
そのような思いを持っている施設長は、以下のように今後の展望を語った。
「今後は大学生やボランティア団体(BBS)との交流を広げ、自立できた退所者の体験談を共有する機会も作りたい。がじゅまる沖縄を、より社会に開かれた場所にしていきたい」
社会全体で描く更生の形

また、刑法を専門分野とする沖縄大学の富山侑美准教授は、監事としてこの施設の運営を見守り、デザインや教育の視点から「更生」をサポートしようとしている。富山准教授は、世間が抱く「犯罪者像」の固定観念に縛られず、視野を広げることの重要性を指摘する。
「私たちが罪を犯した人を想像するとき、自分のイメージに合わせて、その視野から更生について考えてしまいます。でも私たちの想像外のさまざまな理由で罪を犯した人たちがいて、被害に遭われた方がいて、その中で社会復帰を考えなければならないという難しい問題があります。私たちが視野を広げていくことが大事。まずは、私自身や学生が更生保護施設で働く皆さんにお話を聞いて、社会のことをよく考えていきたいです」
刑務所を出た後の世界は、決して甘いものではない。偏見、依存症、そして孤独…。がじゅまる沖縄で日々繰り返されるのは、それら一つひとつの壁に対し、対話とトレーニングで穴を開けていくような、地道で気の遠くなるような営みだ。
がじゅまる沖縄の取り組みは、単なる「元受刑者の収容」ではなく、私たちが目を背けがちな社会の歪みや、依存、孤独という課題に正面から向き合う作業そのものである。施設が地域との20年におよぶ対話で築いてきたのは、物理的な壁を低くすることではなく、心の壁を溶かしていくプロセスだった。
加害の背景にある痛みに寄り添い、適切な支援につなげることは、巡り巡って新たな被害者を生まない安全な街づくりへと直結している。更生を施設の中だけの出来事で終わらせないために私たちができるのは、彼らが歩み始めた細い道を、色眼鏡で見ることなく、社会の一員として静かに見守り続けることなのかもしれない。

|ライター:秋谷進(たちばな台クリニック小児科)-150x112.png)
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