【医師の論文解説】歯の本数と死因の深い関係 入れ歯使用で病気のリスクが減少する理由とは?

歯の本数と死因の深い関係 入れ歯使用で病気のリスクが減少する理由とは?

皆さん、食事で「硬いものが噛みにくくなった」と感じることはありませんか? あるいは、「入れ歯を作るのが面倒で、抜けたままにしている」「合わない入れ歯を外したままにしている」ということはないでしょうか。

歯の本数が減ること、そして入れ歯を適切に使わないことが、将来の寿命やがん・心臓病・肺炎のリスクに大きく関わっていることが、最新の研究で明らかになりました。

今回は、日本の大規模なデータに基づいた、私たちの健康に直結する興味深い研究を紹介します。

残存歯数(残っている歯の本数)と歯科補綴物(入れ歯やブリッジなど)の使用状況が、その後の死因別死亡率とどのように関連するか検証

今回紹介するのは、2025年11月に東北大学大学院のFaiz Abdurrahman氏らによって世界で5番目に多く引用されているジャーナルである「Scientific Reports」に掲載された論文です。

日本の大規模な高齢者データを解析し、残存歯数(残っている歯の本数)と歯科補綴物(入れ歯やブリッジなど)の使用状況が、その後の死因別死亡率とどのように関連しているかを詳細に検証した研究です。

歯の喪失と入れ歯の使用が、寿命に影響する

本研究は、高齢者において「歯の喪失」が全死亡および特定の原因による死亡リスクの増加と関連していること、そして、歯科補綴物(入れ歯など)の使用によって、全死亡および特定の原因による死亡リスクが軽減(減弱)される可能性があることを明らかにしました。

たとえ歯を失ってしまっても、放置せずに入れ歯などで噛む機能を補うことが、長生きにつながる可能性が示唆されたのです。

1.研究方法

研究グループは、日本老年学的評価研究(JAGES)に参加した高齢者を対象に、7年間の追跡調査をしました。これは数万人規模のデータを扱う信頼性の高いコホート研究です。

解析では、自分の歯が20本以上ある人を基準グループとし、「歯が0〜9本の人」「10〜19本の人」に分類。さらに、それぞれのグループで「入れ歯を使っているか、いないか」によって、その後の死亡リスクがどう変わるかを比較検討しました。

2.研究結果

解析の結果、以下の事実が判明しました。

  • 全死亡リスクの上昇
    歯が少なく(0〜9本)、かつ入れ歯を使っていない人は、歯が20本以上ある人に比べて、死亡リスクが統計的に有意に高いことが分かりました。
  • 入れ歯によるリスク軽減
    一方で、同じように歯が少ない(0〜9本)人でも、入れ歯を使っている人においては、死亡リスクの上昇が抑えられていました。つまり、歯が少なくても補綴物を使用することで、死亡との関連が弱まることが示されたのです。
  • 死因別のリスク
    より詳細に見ると、歯が0~9本で入れ歯を使用していない高齢者は、がん、心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)、呼吸器疾患(肺炎など)、および外傷(転倒など)による死亡リスクが有意に高いことが分かりました(ハザード比:1.31~1.91、すべてp < 0.05)。

*注意点  本研究は観察研究であるため、直接的な因果関係(入れ歯をすれば必ず長生きできるなど)を証明するものではありませんが、歯の健康管理が全身の寿命に関与していることを示すものといえます。

歯がないことは命にかかわる

この研究の結果から、口腔機能の低下が全身の健康を脅かす、いくつかのメカニズムが考えられます。

第一に、栄養の問題です。歯を失い噛めなくなると、肉や野菜、食物繊維の摂取が減り、炭水化物に偏りがちになります。これが低栄養やフレイル(虚弱)を進行させ、免疫力や体力を低下させます。
第二に、炎症と誤嚥です。口腔ケア不足や歯周病は、体内での慢性的な炎症を引き起こし、血管を傷つけて動脈硬化や心疾患のリスクを高めます。また、噛む力・飲み込む力が落ちれば、誤嚥性肺炎のリスクにも直接関係します。第三に、転倒リスクです。噛み合わせは全身のバランス感覚や筋力に影響するため、歯を失うと転倒しやすくなり、大腿骨骨折などの重篤な外傷につながりやすくなります。

この結果を裏付けるように、大阪大学の2025年の研究でも、残存歯がない高齢者は、21本以上の歯がある人に比べて、死亡リスクが約1.7倍も高いという結果が報告されています。

お口の健康は、全身を守る

この研究で、歯の喪失は死因別死亡リスクを高めるものの、入れ歯などの適切な対処でそのリスクを軽減できる可能性が見えてきました。

「もう歳だから仕方ない」と諦めないでください。歯が抜けたらすぐに入れ歯を作る、合わない入れ歯は調整して使えるようにする、こういった行動の一つひとつが、将来のがんや心臓病、肺炎から身を守ります。

このように歯科診療は、お口の健康を守り、ひいては全身の健康と快適な生活を維持するために不可欠です。痛くなってから治療するのではなく、病気を未然に防ぐ「予防」の観点から、その重要性が高まっています。

参考文献:
Faiz Abdurrahman,Taro Kusama,Yudai Tamada,et al.Tooth loss, dental prosthesis use, and cause-specific mortality in older Japanese adults: a 7-year cohort study.Scientific reports. 2025 Nov 19;15(1);40650. pii: 40650.

Naoko Otsuki,Ryohei Yamamoto,Tomoaki Mameno,et al. Assessing the effectivity of counting the number of teeth with their conditions to predict mortality: the OHSAKA study. BMC Oral Health. 2025 Nov 24;25(1):1982.

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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