
ANAホールディングス(ANAHD)は、災害時の被害状況把握やインフラ点検に特化した新たなドローン事業に乗り出す方針です。高速かつ長距離飛行が可能な固定翼付きの小型ドローンを活用し、山間部や半島部など従来のヘリコプターや回転翼ドローンではカバーしづらかったエリアの調査を効率化します。スイスの産業用ドローンメーカーと国内での広域測量・点検サービスに向けた覚書を結び、企業や自治体向けに売り込む考えです。
使用する機体は、翼幅約1.2メートル、重さ約5.2キロで、1人で持ち運び可能なサイズです。機体には高精度カメラを搭載し、老朽化が進む橋梁や鉄塔などインフラ設備の点検を行い、微細なひび割れや変状を検知することで異常の早期発見に役立てます。2025年10月には、長崎県の雲仙・普賢岳(水無川)で実証実験を実施し、約30分の飛行で約150ヘクタール(東京ドーム約32個分)の範囲を網羅し、砂防施設の細かなひび割れや状態変化を確認できたといいます。
ANAHDは、2024年の能登半島地震でも大型ドローンを用いた空撮観測を実施しましたが、現地への機体搬入に時間がかかるなどの課題が浮き彫りになりました。この経験を踏まえ、より機動的に運用できる固定翼付き小型ドローンを導入することで、迅速な立ち上げと広域調査を両立させる狙いです。固定翼付き小型機は、ヘリコプターより小回りが利き、固定翼を持たない小型ドローンよりも広いエリアを短時間でカバーできるのが特徴です。
ANAHDは中期経営戦略で、ドローン事業の商用サービス開始を2027年前後に位置づけており、固定翼機による広域測量・点検を柱の一つとしています。物流分野でも、翼幅約7メートル級の大型ドローンを活用し、2028年度までに全国規模のドローン物流網を構築する計画を進めています。平時は離島などに医薬品や生活物資を運び、災害時には孤立地域への救援物資輸送や被災状況の確認を担う「未来の社会インフラ」を目指すとしています。
広がる固定翼ドローン活用 政府は国家資格創設を検討
固定翼付きドローンの事業活用は、他企業にも広がっています。伊藤忠商事は、測量大手パスコやイエロースキャン・ジャパンと協業し、固定翼式ドローンを用いた航空測量の実用化に向けた基本合意書を締結しました。航続距離と安定性に優れる固定翼機を活かし、広域での高精度な地形データ取得を目指すもので、将来的には平常時の測量や物流に加え、災害時の被害把握への応用も視野に入れています。
鉄道分野でも、JR東日本が豪雪地帯の沿線斜面における積雪状況の確認や雪崩リスク分析などに固定翼付きドローンを活用する実証実験を進めていると報じられています。広範囲を短時間で撮影できる特性が、保守・防災業務の効率化につながると期待されています。
こうした市場拡大を背景に、政府は固定翼付きドローンに特化した新たな国家資格(技能証明)を年内にも創設する方向で調整しているとされています。現在は、滑走路を使う難易度の高い無人航空機向け資格が必要で参入障壁が高いことから、より取得しやすい制度設計で事業利用の普及を後押しする狙いです。災害大国である日本において、ANAHDをはじめとする民間企業の取り組みと制度整備がかみ合うことで、ドローンがインフラ点検と防災・減災の重要なツールとして定着するかが問われています。









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