第3回ライティングコンテスト佳作

二子玉川という街は僕をちょっと背伸びさせてくれる、そんな街だ。

渋谷駅まで15分というアクセスの良さや、玉川玉島屋S・Cと二子玉川ライズが並び立つおかげで「おしゃれな街」とメディアで紹介されるのをよく見るが、2008年の僕がよく遊んでいた頃はそんなことなかった。

二子玉川は1982年の「再開発を考える会」発足から2015年の二子玉川ライズ完成まで33年という長い年月をかけて今の姿になった。大規模な工事は2000年頃から始まり建物や店舗の解体工事や移転が繰り返された。

2006年には当時のメインとなる遊び場である東急ハンズと東急ストアは閉店、動物園の「いぬたま・ねこたま」も閉鎖してしまう。2008年頃の二子玉川は、一番閑散とした時期だっただろう。駅前は外壁が工事の防音壁で覆われていて、オシャレとは縁遠いうす暗い雰囲気を感じた。その並びに一時的に移転となった仮設店舗が並んでいた。

当時中学生の僕はその頃の二子玉川駅をよく利用していた。遊ぶところなどなかったが、僕が通っていたのは仮設店舗の一角にあったラーメン屋「ドラゴン500」さんだ。地元の知る人ぞ知るラーメン屋で、その名の通りラーメン全品500円で食べられた。

月のお小遣い5,000円だった中学生の僕にも優しい値段設定だ。昼過ぎに食べることが多かったので、お客さんはほとんどいなくて静かな店内で店主が片付けや仕込みをしている音だけが響いていた。僕が毎回食べていた塩ラーメンは、目立った具もなくシンプルな盛り付けで、サッパリとした魚介の風味が心地よくて、よく言えばシンプルな味をしていた。

味に関しては中学生の舌など何の参考にもならないが、人に勧めたくなるような絶品グルメという感じではなかった気がする。もはや遠い記憶なので定かではないが、中学生の僕にはそんなことはどうでもよかった。

1人で静かにラーメンをすすり、「ご馳走様」の一言だけ言って店を後にする。なんだかすごく大人になった気がして心地よかった。中学生らしからぬ青春の一コマだが、カッコつけたいお年頃だったもんで「行きつけのラーメン屋」というのに憧れをもっていた。

500円という低価格で通いやすく、お客さんが少ないので隠れ家のような雰囲気も感じられて毎週のように通った。店主も顔を覚えてくれていたかもしれないが、声をかけられなかったのもお気に入りのポイントだ。飯だけ食って帰る様子がストイックな大人を演じられた気がした。

2010年に高架下地区は封鎖されラーメン屋は閉店となってしまう。2015年には二子玉川ライズも完成して、今のオシャレな二子玉川へと発展していった。街の発展は喜ばしいことなのだが今のオシャレな二子玉川では、あの値段と雰囲気のお店は出店できないだろう。二度と体験できない貴重な時間だったと思う。

二子玉川の昔の話を地元の人に聞いてみると、遊園地やスケート場があったとか、もっとさかのぼると馬の水飲み場があったという話を聞いた。もしかしたら今のようにぎわっている二子玉川があるべき姿で、僕の馴染みのある2008年ごろの静かな二子玉川は、珍しい姿だったのかもしれない。

いまの賑わいは街にとっていいことだし、テレビでロケをやっているとつい見てしまうくらいには嬉しいものだ。一方で自分はイレギュラーな体験をできたという優越感もある。静かな二子玉川で青春を過ごしたんだぞ、と。

ところで、大人になって出身が遠い方とも知り合うようになり「地元どこですか?」と聞かれることが増えた。「二子玉川です」と答えると大抵「都会っ子なんですね!」といわれる。子どもの頃はザリガニ釣りだの田植え体験だの、多摩川の河川敷で走り回っていた記憶しかない僕が「都会っ子」と呼ばれるのは、少し違和感があるが「オシャレな街・二子玉川」出身である事には違いない。

「まあね」とだけ返し、イメージアップを図らせてもらっている。未だに二子玉川に背伸びをさせてもらっているのであった。

ライター:アザレア

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