第4回ライティングコンテスト佳作

生成AIという言葉を初めて耳にしたのは、あるエッセイコンテストの募集要項であった。注意事項に「生成AIで作成した作品は応募不可」と書かれていたのだ。それ以来、文芸系のコンテストへの応募を趣味とする私は、募集要項をチェックする度に生成AIについての扱いを気にするようになった。

結果、自身が確認できる範囲ではあるが、エッセイのみならず短歌や川柳等、ほぼ全てのコンテストで生成AIの使用は禁止されていた。確かに生成AIを使った作品を「応募者が考えたオリジナルの作品である」と言えるのかについては難しいところである。例えば、ある者は何日もかけて構想を練り文章を書いたのに落選。

一方、ある者は生成AIにより一瞬でできた文章を少し手直しして受賞。という場合を想定したら、何だか腑に落ちないと感じてしまうのは私だけではないだろう。こうして、私は各主催者の生成AIに対する対応に納得したのであった。

それから数か月後。いつものようにコンテストを探していると、ある新しい試みを取り入れたものを発見した。それは「生成AIで作られた川柳を募集する」というもので、生成AIの認知度の向上や利用者の促進等が目的であるという。

言われてみれば、自分は生成AIの存在について知っているものの、実際に使ったことは一度もなかった。利用したことがないにも関わらず、生成AIによる作品は失格となると理解した気でいた自分が急に恥ずかしくなった。百聞は一見に如かず。私はこのコンテストに応募してみることにした。

インターネットで生成AIの使い方について軽く調べてから、さっそく試してみる。操作は思ったよりも簡単で、「○○についての川柳を作って」と入力するとすぐに返答がきた。そこには三首ほどテーマに沿った川柳が提示されていた。自分で考えたら早くても数十分はかかるのでかなりの時短である。

気になるクオリティであるが、5・7・5の定型で作られているのはもちろん、王道のものからユーモアにあふれたものまであり、まるで老若男女が一首ずつ考えたかのようだった。私は生成AIの技術に驚嘆し、入賞は間違いなしだと確信した。

数か月後、結果が発表された。あの時の自信とは裏腹に応募した川柳は全て選外。入賞者の作品を拝読すると、どれもテーマを的確に捉えた趣深いもので自分が応募した川柳とは雲泥の差であった。

なぜ同じ生成AIを使用しているにもかかわらず、これほどの違いが生じたのか。私は再び生成AIで川柳を作ってみることにした。前回は単純に川柳を作るよう指示しただけだったので、今回は「○○についておもしろい川柳が知りたい」など試しに質問の仕方を色々と工夫してみた。

すると以前よりも個性的な川柳が次々と表示されたのだった。この結果から、生成AIを使えば誰でも創作が可能であるが、人々を楽しませたり感動させたりする”名作”の創作は誰でも可能という訳ではないと痛感した。どんなに良い道具でも使い手次第と言われるように、生成AIもまた利用者によって生み出される作品の質は大きく変わるのである。

以上の経験から、コンテストにおいて生成AIを使用しない作者のオリジナリティを尊重した創作スタイルは伝統的に受け継がれていくだろう。しかし一方で、生成AIの技術には目を見張るものがあり、創作活動において無視し続けることは出来ない。

そこで今後は、生成AIと利用者が共同制作者のような形で創作を行う「生成AI文学」と呼ばれる新たなスタイルが誕生するのではないかと思う。生成AIと利用者のアイデアや文筆力が合わさることで、人間だけでは生み出すことができなかった新たな名作に出会える。その日が今から待ち遠しい。

ライター:桜小町

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