その昔、私は大変に勉強が嫌いな子供だった。

国語の漢字を書くのは面倒くさいだけ、算数の計算はつまらない。そんなわけで国語も算数も嫌いで成績も悪く、親も半ばあきらめていたのではないか。だからもし、小学校5年生でT先生に出会わなかったら、あのままずっと勉強嫌いのまま大人になっていったのかもしれない。

5年生になった時、担任のT先生は「勉強帳」というのを提案した。そこには自分にとって勉強だと思うものを何でも書いてよい。教科書にあるような漢字の書き取りや計算だけでなく、好きな本を纏めてみても良いし、自分の書きたいことを作文に書いても良い。それも、体験したことばかりでなく、想像したことを文章にしてもよいのだという。

これは面白そうだと思った。文章を書くことは前々から好きだったのだが、学校でテーマを決めて、よい子らしいことを書くとほめられる作文というものはさほど面白くなかった。何でも書いてよいのなら何でも書いてやろう。そう思って、たまたま自分で育てていた豆の木について「大きくなった豆」という題で観察日記風に書いてみた。それがよい作文ということで、先生が皆の前で読んでくれたのはうれしい想い出である。

それからというもの、自分で好きなこと、興味のあることを探して、勉強帳に次々と書くようになった。勉強帳は各自が家で買った大学ノートであったが、それにはナンバーを付けるようになっていて、何々ちゃんはもう勉強帳が何冊目になりましたよと先生が発表することもはげみになった。オレは勉強していない…と自慢するのは受験校のひねた生徒がよくやることで、昭和30年代の公立小学校の生徒は勉強をする子がよい子と信じて疑わなかったのだ。

それまでは、自分は勉強が嫌いで、できない子だと思っていたのだが、次第に勉強が好きになっていった。そして中学生になると、勉強の内容も身近なものから、学問的な匂いのするものへと進化していく。そうなると、学校に行くたびに新しいことを覚えるのが楽しくて仕方ない。

よく暗記中心はよくないとか、つめこみ型の勉強は不毛だという人もいるが私はそうは思わない。まず知識を学ぶ。それは決して断片的な知識ではなく、考え方の筋道というものも、それもまた一種の知識である。そしてその知識を基にして自分なりに考えていく。学びて思わざれば則ちくらし、思いて学ばざれば則ちあやうし…と昔の人はよいことを言ったものである。

自分は単なる勉強好きであり、別に優秀なわけでも頭がよいわけでもない。なにしろ国語も算数もできなかった元小学生である。それに、その勉強だって、望んだとおりの成果がでていたわけではない。

けれども、勉強をして損をしたと考えたことは、ただ一度もない。損得ということだけに限定をしても、勉強をしていたおかげで就職についての選択肢が広がったし、とにもかくしも、自立できる職業に就くこともできた。

その一方で、かかった費用といえば、自分で好きに勉強をしてきたので、塾なども行かなかったし、参考書を買うくらいのものであった。その参考書でさえ、ときには古本で間に合わせたりもした。そういうふうに考えてみると、勉強くらいコスパのよいものはない。

私に勉強することの楽しさを教えてくれたT先生には、いまでも感謝している。それにつけても、気になるのは昨今の教員不足のニュースである。小中学校の教員が不足している、なり手がいないという話を聞くたびに、この国や社会の将来が不安になる。

小中学校の教師というものは時には人の一生を左右するほどの影響力を持つ。私のように、勉強することの楽しさを小学校や中学校の教師を通じて知ったという人も多いだろう。そのためにも、やはり教師は若者にとって魅力的な職業であり、よい人材が集うことが必要なのではないか。

ライター名:皆川まな

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