「ガラスペン」で有名な大分刑務所が対話重視の体制へ。法改正による変化の実態を刑務官が語る

大分刑務所

とんぼ玉やガラスペンなどのガラス工芸品を製作している大分刑務所。「ものづくり」に強みを持つ矯正施設は、2025年6月に施行された「拘禁刑」により体制が大きく変化しました。対話や傾聴を通じて再犯防止と社会復帰を見据えた取り組みを開始し、受刑者1人ひとりの改善更生を目指すようになりました。

「大分刑務所のガラス工芸品の特色は?」
「拘禁刑導入後、刑務所にはどんな変化があるのか?」
「刑務官自身の役割はどう変わるのか?」

そんな疑問に答えるべく、大分刑務所の現役刑務官たちに話を聞きました。

<目次>

「拘禁刑導入」による実現した単房化

大分刑務所外観

大分刑務所は1280人の収容定員を誇る大規模な矯正施設です。かつては共同室を活用していたため最大で1200人を収容していた時期もありましたが、「拘禁刑」の導入により、共同室を単独室とする運営方針に移行。1000人以上いた収容者は720人に減少しました。

収容者の内訳をみると、65歳以上が全体の2割近くを占めています。3〜4年後には短期刑の受刑者がほとんどいなくなり、事実上「長期刑専用施設」となる見通しです。全国の刑務所の中でも顕著な特徴であり、作業や処遇計画の見直しが必須となっています。

広い敷地内には、管理棟や居住棟、工場棟などが整然と配置されています。プライバシー保護のため通路の真ん中に視線を遮るような仕切りがあり、通路ですれ違っても直接見えないような配慮が施されています。受刑者が生活する棟と刑務作業を行う工場を結ぶ通路は、「家から会社へ通勤する」感覚を持たせるために長く設計されています。

また、使われなくなった共同室を改装し、受刑者と刑務官が対話する「リフレクティングルーム」として活用するなど、施設の柔軟な運用も進められています。こうした取り組みは、拘禁刑の理念である「個別性のある処遇」を具体化する場として機能しています。

社会とのつながりを作るガラス工芸品

ガラスペン(写真提供:大分刑務所)
ガラスペン(写真提供:大分刑務所)

大分刑務所では、受刑者の改善更生を目的とした刑務作業の一環として、多彩な製品を作っています。全国の矯正施設で使われる畳や溶接を中心とした金属加工製品などを手がけています。

その中でも注目されているのが「ガラス工芸品」です。刑務所内で培われた技術によって生み出される製品は、矯正展やふるさと納税の返礼品として一般の消費者にも届けられ、大分刑務所を象徴する製品となっています。

ガラス工芸品の代表的な製品が、繊細な書き味で人気を集めるガラスペン。透明ガラスに色ガラスを溶かし込んで模様を作り、ペン先にはインクを保持するための細かな溝を刻み込むなど、緻密な工程を経て完成します。1本が仕上がるまでに数日を要するため、1ヶ月に作れるのは数本のみです。

アートマーブル(写真提供:大分刑務所)
アートマーブル(写真提供:大分刑務所)

丸みを帯びた美しさが特徴のとんぼ玉は、数か月の訓練で製作可能になることから、比較的多くの受刑者が手がけています。さらに、ガラスの中に星や花などのモチーフを閉じ込める「アートマーブル」と呼ばれる作品もあります。習得に10年近い経験を要するため、完成品を生み出せた受刑者は極めて少ないそうです。

ガラス工芸を教える職員(写真提供:大分刑務所)
ガラス工芸を教える職員(写真提供:大分刑務所)

ガラス工芸品には職員の力も欠かせません。「世の中で売れる製品は何か」を受刑者と共有し、色の組み合わせや新製品のアイデアを共に考えます。たとえば、赤色ガラスを使わずにピンク系を表現する「フューミング技法」など、創意工夫を凝らした取り組みも実践されました。受刑者が手がけたガラス工芸品は、矯正展やCAPIC(矯正協会刑務作業協力事業部)の公式サイトで購入できます。

製品が売れることは、受刑者にとって大きな励みになります。「このガラスペンは評判が良かった」「お客さんが喜んでいた」といった声が伝えられると、受刑者は次の作業に意欲を持って取り組むそうです。

「対話」を重視する取り組みで受刑者との関係性が改善

リフレクティングルームの様子(写真提供:大分刑務所)
リフレクティングルームの様子(写真提供:大分刑務所)

大分刑務所は、拘禁刑の導入をきっかけに「人と人との対話」を重視する処遇へ舵を切りました。刑務官は従来の「規律維持を徹底する存在」から、受刑者一人ひとりの心に寄り添い、社会復帰を見据えた支援を担う存在に変わりつつあります。

拘禁刑の理念を体現する取り組みとして、「リフレクティング」と呼ばれる対話プログラムを導入しています。これは受刑者が自らの言葉で過去を振り返り、今後どう生きるかを考える時間です。受刑者のことを知っている刑務官や教育専門官、社会福祉士達が合計で6回のセッションを行います。

他者を傷つける発言や誹謗中傷は禁じられていますが、それ以外は、自由に話すことができます。職員は傾聴に徹し、評価や判定を行うことがないため、受刑者の中にはこれまで語らなかった胸の内を打ち明ける人も出てきます。そのため職員自身が「目の前の人をどう支援すべきか」を考える契機にもなっているそうです。

(写真提供:大分刑務所)
(写真提供:大分刑務所)

もう1つの大きな変化が、「さん付け」で受刑者を呼ぶようになったことです。呼び方が変わったことによる影響は想像以上に大きいものがあります。刑務官の言葉遣いは自然と柔らかくなり、声かけの回数も増えました。受刑者側も「自分が人として扱われている」と感じやすくなり、心を開くきっかけになるといいます。小さな呼称の変化が、矯正現場の空気を変えました。

(写真提供:大分刑務所)
(写真提供:大分刑務所)

一方で、人手不足という課題にも直面しています。大分刑務所では約720名の被収容者に対し、処遇に関わる職員は約160名にとどまっており、短期刑の受刑者への個別指導に十分な時間を割くことができていません。

また、工場には処遇課程の異なる受刑者も収容されているため、全員に同じ教育や指導を行うのは難しいといいます。さらに、長期刑の受刑者が施設内で高齢化するケースが増えており、犯罪性の改善指導と高齢者ケアを両立する難しさも実感しているそうです。

職員の教育にも時間が必要です。少年院の職員を講師に招いた研修などを実施していますが、リフレクティングをはじめとするスキルを習得した職員はまだ一部のみです。全員が技術を身につけるには時間を要すると見られています。

高齢化などの課題に向けて

(写真提供:大分刑務所)
(写真提供:大分刑務所)

こうした課題を抱えながらも、刑務官たちは未来を見据えています。特に重視しているのは、受刑者の高齢化に対応した処遇のあり方です。体力を必要とするガラス工芸や畳製作を続けることは難しくなりつつあり、今後は座ってできる作業や新製品開発へのシフトを検討しています。

また、社会との接点を持つ取り組みも強化したいといいます。単に製品を作って終わりではなく、消費者の反応を伝えたり、商品開発のアイデアを受刑者と一緒に考えたりすることが、社会復帰に向けた意識を育む大切なプロセスとなります。

塀の向こう側で積み重ねられる一つひとつの声かけや作業の工夫が、やがて受刑者の人生を変える一歩につながる。その想いを胸に、大分刑務所の刑務官たちは日々受刑者と向き合い続けています。

受刑者等専用求人誌「Chance!!」(チャンス)の広告バナー

<TEXT/小嶋麻莉恵>

関連記事

コメントは利用できません。

最近のおすすめ記事

  1. 「第65回全国矯正展」の横断幕
    2025年12月に東京国際フォーラムにて「第65回全国矯正展」が開催されました。主催は法務省の「社会…
  2. 【刑事弁護の最前線】 再犯防止に向けた 弁護士の役割と 社会との連携
    犯罪の件数が減っている一方で、再び罪を犯す人の割合は高止まりしています。k今回は、刑事手続きの基本を…
  3. 加藤孝さん 顔写真
    かつて子どもへ性加害を行った男性が、自らの歪んだ認知と向き合い、更生と再犯防止に取り組む姿を通して、…

おすすめ記事

  1. 網走刑務所で刑務作業を行う受刑者

    2025-7-21

    網走刑務所とはどんな場所?現役職員に聞いた歴史と受刑者の今

    強固な警備体制や凶悪事件の受刑者が収容されるイメージもある網走刑務所。映画やドラマなどの影響で、怖い…
  2. モー娘。北川莉央、活動休止継続を発表 12月復帰目指し準備進行中

    2025-9-12

    モー娘。北川莉央、活動休止継続を発表 12月復帰目指し準備進行中

    アイドルグループ「モーニング娘。'25」の北川莉央(21)が、当初予定していた今秋の活動再開を延期し…
  3. 2023年11月23日木に栃木県の喜連川社会復帰促進センターで開催された「令和5年度きつれがわ矯正展」

    2024-1-15

    刑務所の中まで見れるイベント「きつれがわ矯正展」とは?

    2023年11月23日(木)に開催された「令和5年度きつれがわ矯正展」。年に一度、喜連川社会復帰促進…

2025年度矯正展まとめ

2024年に開催された全国矯正展の様子

【結果】コンテスト

【結果発表】ライティングコンテスト企画2025年9-10月(大阪・関西万博 第4回)

アーカイブ

ページ上部へ戻る