【医師の論文解説】入浴関連死における気温や発生率の関係 お風呂の事故を防ぐために

【医師の論文解説】 入浴関連死における 気温や発生率の関係 お風呂の事故を防ぐために

我が国では毎年多くのかたがお風呂で亡くなっています。特に冬場に、高齢者が入浴中に溺れて亡くなる事例が後を絶ちません。

入浴中の事故には気温が関係しています。寒いなかで、血管が収縮している状態で急に熱いお風呂に入ると、血管が開いて、血圧が大幅に下がり、脳への血流が低下。意識を失って溺れてしまう「ヒートショック」と呼ばれる現象が起こっているといわれています。  

このヒートショックをいかに防いでいくかは、とても重要であり、入浴中の事故と気温の関係について分析が重ねられてきました。

今回は、入浴中の事故と気温の関係について調べた研究を紹介します。

論文のタイトル

Yoshiaki Tai,Kenji Obayashi,Yuki Yamagami,et al.Association between outdoor temperature and bath-related drowning deaths in Japan (1995-2020): modifying factors and the role of prefectural characteristics.Environ Health Prev Med.2025:30:55

奈良県立医科大学の田井 義彬氏らは、1995~2020年の日本全国の入浴関連溺死約11万例について、Environmental Health and Preventive Medicine誌2025年の報告です。

研究の背景と目的:我が国の入浴関連死と気温の関係

我が国の高齢化が進行するとともに、入浴に関連する死亡事故は大きな問題となってきています。これまでの研究からは、寒い時期に入浴中の事故が増えることは知られていました。

しかし、具体的に屋外の気温が、どの程度入浴中の死亡事故のリスクに関連するかについては、十分な研究が行われていませんでした。この研究は、気温と入浴中の死亡事故の関係を詳細に明らかにするために、1995年から2020年までの長期間のデータを集めて行われました。

研究の方法:入浴関連死における都道県別ごとの気温との関係

1995年から2020年までの26年間に、全国で発生した「浴槽での偶発的溺死」110,938件を解析しました。また、死亡した日の気温データを気象庁の観測記録から対応づけました。さらに都道府県ごとに「熱い日と寒い日のリスク差」を算出し、それが地域の気候や住宅環境によってどのように変わるかを調べました。解析の項目には、以下のようなものが含まれていました。

  • 屋外の気温と入浴中の溺死事故の発生数の関係 
  • 性別や年齢による影響の違い 
  • 都道府県ごとの特性による違い(住宅環境、暖房設備の普及率、高齢化率の違いなど)  このように多角的に分析をすることで、単に「寒いと危険である」という単純な関係だけでなく、入浴に関連した溺死事故がどのような要因で発生するのかについて、明らかにするための分析を実施しました。

研究の結果:入浴関連死は気温が低い日そして前日との気温差、高齢者との関連

研究の結果、屋外の気温が低いほど、入浴中の溺死事故のリスクが高まることが明確に示されました。最も死亡が多くなるのは、日平均気温が約1.8℃のときで、このときのリスクは気温が30℃前後の日と比較すると、9.7倍もの高値を示していました。つまり、真冬は真夏に比べて、入浴の際の溺死が10倍になるのです。

また、シンプルに気温が低いだけでなく、前日との温度差が多くなると、死亡率が高まるという傾向が示されました。気温が急激に下がると、体がそれに順応しきれず、負荷が増大する可能性が示されました。

年齢別に分析してみると、高齢者ほどの気温の影響を受けやすいことが分かりました。特に65歳以上の方では、気温低下による死亡事故のリスクが顕著でした。高齢になると、体温調節機能や血圧のコントロール能力が低下することが関連していると思われます。  

地域による違いも明確に出ました。寒冷地の北海道では、寒い日のリスク上昇が比較的小さく3.8倍程度にとどまった一方、鹿児島では19.6倍と大きな値が出ました。つまり、暖かい地域ほど、寒い日のリスクが急上昇するという結果が出たのです。暖かい地域であるからといって安心するのではなく、寒暖差が強いときには、より一層注意することが重要です。  

さらに都道府県別の特徴を分析したところ、平均気温が高い地域、住宅の断熱性が低い地域(二重以上のガラスの普及率が低い地域)では、寒い日のリスク上昇が大きいことが分かりました。

研究から得られた知見 :入浴関連死は増加している

今回の研究では、日本全体の26年分という大規模データを用いて、浴槽での溺死と気温の関係を科学的に明らかにしました。冬の寒さや急な冷えこみが、入浴中の死亡リスクを高めること、その影響が地域の気候や住宅環境によって変わることが示されました。  

特に重要な知見として、暖かい地域でも寒い日には入浴関連死亡事故が増加しているという点です。普段寒さになれていない地域では、屋内の断熱が十分でなく、浴室や脱衣所が冷えやすいことが原因として考えられます。  

冬や寒波の時期には浴室や脱衣所をしっかり温める、高齢者の入浴時は家族が声をかけるなど見守りを強化する、地域レベルの取り組みとして、住宅の断熱性能を高めるなどの対策によって、入浴に関連した溺死事故を防ぐことができると示唆されました。  

入浴に関連した溺死事故は、ひとりひとりが意識して対策することで防ぐことができます。今日から対策を始めて悲しい死亡事故を少しでも減らしましょう。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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