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「最果ての監獄」「極寒の地獄」と呼ばれる網走刑務所には、厳しい寒さの中で受刑者が過ごすというイメージが根強い。しかし、雪の積もる門を抜けた先にあるのは、想像とは異なる落ち着いた環境だった。
居室棟内はパネルヒーターで暖められ、受刑者たちは規律正しく淡々と作業に励んでいる。世間が抱く印象を刑務官に問うと、「北海道だと内陸の方がずっと寒い。慣れればここは日常です」と、拍子抜けするほど穏やかな答えが返ってきた。
一般的に抱かれがちなイメージとは異なる、網走刑務所の実情を伝えていきたい。

<目次>
雪かきの風景、白銀の壁との対峙

居室棟の外へ出ると「サクッ、サクッ」という軽快な音が響いていた。網走の雪はサラサラで、湿り気や重さはない。だが、ひとたび降り始めると雪で地面が覆われて、数十センチの壁が瞬く間にできあがる。ここの雪かきは単なる雑用ではない。刑務所の機能を維持するために欠かせない業務だ。
この役目を任うのは、施設の修繕を担う「営繕(えいぜん)」や、内部の美化を司る「内掃(ないそう)」の作業に従事する受刑者たちだ。1日のうち3時間から4時間もの時間を継続的な除雪作業に費やしている。

「塀のそばに雪を溜めてはいけないんです。積み上がれば、それが脱走の足場になりかねませんから」
刑務官の説明からは、豪雪地帯特有の事情がうかがえる。一見すると美しい雪原も、ここでは警備上のリスクに直結するのだ。

また、広大な中庭や通路の除雪を怠れば、緊急車両の通行を妨げ、受刑者の命に関わる事態を招きかねない。網走刑務所の冬の平穏は、こうした地道な仕事によって支えられている。
「最果ての寒さ」を遮るパネルヒーター

居室棟へ戻ると、そこには外の冷気を忘れさせるような暖かい空気が流れていた。網走の冬を支えるもう一つの主役、それは窓際に設置された「パネルヒーター」だ。
「これがあるおかげで、窓からの冷たい冷気が遮断されるんです」
案内された居室棟の窓下には、整然と並ぶパネルがあった。内部には温かなお湯が循環しており、手をかざすと、微かなぬくもりが伝わってくる。表面温度は40度程度。触れても火傷をするような熱さはなく、あくまで空間の温度を一定に保つための熱源だ。

社会では「網走の冬は、凍える部屋で毛布にくるまる受刑者」という過酷なイメージを抱かれることもあるが、実は近代的な生活が送られている。空調管理された室内では、受刑者たちは普段の服装のまま過ごしている。通常時の受刑服の下に、防寒用の下着を着用している者もいる。
この適切な温度管理は、決して「甘やかし」ではない。健康を損なえば、更生のための日々のスケジュールが止まってしまう。計画通りに作業や教育を進め、受刑者の更生を1日でも早く実現するために必要な環境なのである。
施設全体に熱を供給するボイラー設備

パネルヒーターが放つ熱を辿っていくと、施設の一角にある「ボイラー室」に行き着く。ここは網走刑務所における「心臓部」とも言える場所だ。
「受刑者が動き出す前、外気温が低い早朝4時には、すでにボイラーに火を灯します」
管理を委託された民間企業の技術者たちが、誰よりも早く現場に入り、巨大な装置を始動させる。ここから生み出される蒸気とお湯は、施設内に張り巡らされた配管を通り、居室棟や炊場、浴場など、広大な施設へと送り届けられる。
「圧力の調整には一刻の猶予も許されません。わずかなミスが、命に関わる蒸気事故を引き起こす可能性があるからです」
驚くべきは、その作業環境だ。夏場ともなれば、室内は40度を超えることすらあるという。極寒の地で、高温環境下で作業にあたる技術者がいる。その日々の業務によって、刑務所の秩序と受刑者の健康は保たれている。
木の香に包まれた「職人」の日常

木の香りが漂う第三工場は、名物「ニポポ人形」の製作拠点だ。冬の朝、作業開始直後の室内には厳しい冷気が満ちているが、暖房機と灯油ストーブが始動すれば一気に部屋の空気は暖まる。

室温が安定すれば、受刑者たちは普段の服装で作業に没頭できる。この「温もり」は単なる防寒ではなく、繊細な彫刻を支えるための不可欠な設備だ。かじかむ指先では、細かな彫刻作業は難しい。

外は氷点下の白銀世界だが、壁一枚隔てた内側には、ストーブの熱気と木を削る静かな音が満ちていた。

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