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- 受刑者はどんな生活を送っている?宮崎刑務所の刑務官に聞く刑務作業の実態

「塀の中で、受刑者たちは日々どのような生活を送っているんだろう?」と気になったことはありませんか?
特に、社会復帰の拠点の1つとも言える「工場」での刑務作業は、受刑者にとって大きな意味を持つものです。
「受刑者の1日はどのようなスケジュールで動いているのか?」
「作業する中でトラブルは起きないのか?」
「刑務官は受刑者とどう接しているのか?」
そんな疑問に答えるべく、宮崎刑務所の第三工場の管理を担当して3年半の現役の刑務官にお話を伺いました。
<目次>
受刑者の生活について

社会から隔離された刑務所においては、規律に基づいた厳格なルールが存在します。受刑者たちは毎日決められたスケジュールに沿って生活し、集団の中で自らを律することを学んでいます。
受刑者の1日のスケジュール
受刑者の朝は早く、起床は午前6時45分。そのわずか10分後の6時55分には、全員が整列し、人員の確認を行う「朝の点検」が行われます。
点検後に朝食を済ませると、午前7時40分から、それぞれの持ち場である工場へと順次移動。工場に到着すると作業着に着替え、準備が整い次第、午前の刑務作業が開始されます。
午前11時50分になると作業は一旦中断され、昼食及び休憩の時間が30〜40分間ほど取られます。その後、午後0時40分からは30分間の戸外運動の時間が設けられています。
運動で体を動かした後は、再び工場へ。午後1時20分から午後の作業が再開されます。そして、一日の作業を終え、夕方の点検、夕食、仮就寝、そして午後9時の本就寝、というのが大まかな流れです。
今回お話を伺った刑務官が担当する工場では、高齢の受刑者が多いという特性から、特別な配慮もなされています。他の工場よりも1時間早く作業を切り上げ、入浴日には午後2時30分に作業を終えて入浴するなど、高齢受刑者の体力に合わせたスケジュールが組まれているのです。
さらに、外部から専門の講師を招き、体を動かしながら認知症を予防するためのトレーニングや、身体機能の向上を目的とした運動を行う時間も設けられており、高齢化する被収容者へのきめ細やかな対応が伺えます。
集団処遇がもたらす影響
刑務所での生活や作業は、そのほとんどが「集団」で行われます。この「集団処遇」という環境は、受刑者に大きな影響を与えています。
宮崎刑務所は10人程度で作業する工場が多いですが、全国には50〜60人という規模の工場もあります。その中で一人だけが手を抜いたり、怠けたりすれば、当然ながら非常に目立ちます。「恥ずかしいことはできない」という心理が働き、真面目に取り組まざるを得ない状況が生まれるのです。
皆が黙々と取り組むなかで作業を怠っていれば、すぐに刑務官に注意されます。そうした環境に身を置くことで、集団の中で規律を守って行動する力が自然と身についていくといいます。
工場担当の刑務官の仕事について

受刑者の更生において重要な役割を担うのが、工場です。その現場を束ね、日々の作業を監督するのが「工場担当」の刑務官です。彼らは単なる監視役ではなく、リーダーとして、指導者として、受刑者1人ひとりと向き合っています。
普段の業務内容
多くの受刑者を一度に監督し、処遇する工場担当は、刑務官のキャリアのなかでも花形と言われるポジションのひとつです。リーダーシップと人間力が問われる厳しい現場ですが、今回お話を伺った刑務官も、刑務所への入職当初から工場担当を目指していたといいます。
仕事内容は多岐にわたりますが、最も重要なのは、受刑者たちの「動静視察」です。毎日、一人ひとりの様子に変わりはないか、心身に異常はないかを注意深く観察し、工場内の規律を維持します。そして、規則正しい生活を送らせるための環境を整え、時には厳しく指導を繰り返すことで、彼らを改善更生へと導いていくのです。
刑務官になったきっかけ
今回お話を伺った刑務官は、実は当初、宮崎県警の警察官を目指していたそうです。その後、母校である京都の大学の先輩からの紹介が縁で、京都刑務所で働くことになったのです。
国家公務員である刑務官は、全国転勤が可能です。いつかは故郷の宮崎に工場担当の刑務官として帰ることを目標に、まずは京都でキャリアをスタートさせました。そのなかで花形である工場担当に就くことができ、希望通り工場担当の刑務官として宮崎刑務所への転勤が叶ったそうです。
刑務官として意識していること
業務の中で動静視察は特に重要ですが、その原点にあるのは「絶対に逃がさない」という想いです。あえて意識しているというよりは、もう身体に染みついていて、人数を常に確認するのが癖づいているそうです。
工場担当として多くの受刑者と接するなかで、最も難しいと感じているのは「言うことを聞かない受刑者たちをいかにして納得させるか」という点とのこと。たとえば、刑務官はずらりと整列した受刑者を前に、訓話を行います。その際にも、話を聞いてもらうためには受刑者の心をしっかりと掴まなければいけません。
受刑者たちにとって、担当の刑務官は言わば「窓口」であり、唯一頼ることができる存在でもあります。だからこそ、1人の人間として真摯に向き合い、信頼してもらうことが何よりも大切になります。
もちろん、ただ寄り添うだけでは務まりません。刑務官としての威厳を保ち、規律を守らせる厳しさも必要です。しかし、その力を行使するバランスは非常にデリケートなもの。立場を勘違いし、受刑者に対して不祥事を起こしてしまうケースも過去にはあったといいます。
だからこそ、「公正公平」であることを常に意識しているといいます。全員に対して同じ目線で接する–––そのブレない姿勢こそが、受刑者からの信頼を得て、工場全体の秩序を維持するために不可欠だと考えているのです。
すぐそばで見てきた受刑者の変化

時代の移り変わりとともに、刑務所の内側もまた、少しずつその姿を変えています。かつての荒々しい雰囲気は薄れ、受刑者1人ひとりと向き合う時間が増えました。
刑務官は受刑者たちをすぐそばで見ているからこそ、その変化を肌で感じています。ここでは、受刑者たちの気質や、作業を通して見せる心の動きについて、刑務官の視点から紐解いていきます。
昔と今の刑務所の違い
今回お話を伺った刑務官が刑務所に入職した15年以上前は、全国的に受刑者が溢れる「過剰収容」の時代でした。居室は定員を超え、工場も常に満員状態。人が密集する環境では、当然のようにトラブルが頻発していたといいます。
しかし、近年は受刑者数が減少傾向にあり、刑務所内の環境は大きく様変わりしました。1人ひとりの受刑者と向き合う時間が確保できるようになったことで、きめ細やかなサポートが可能になったのです。
その変化を象徴するのが、受刑者に対する「さん付け」の導入です。かつては「おい」「こら」といった呼び方が当たり前だった刑務所。それが今では、職員も受刑者も互いに「さん」を付けて呼び合うようになりました。
当初は戸惑いもあったそうですが、この変化は、職員と受刑者の関係性に良い影響をもたらしているといいます。受刑者は以前よりも刑務官の話に耳を傾け、刑務官は人としての敬意を持って受刑者と接する。この変化が互いの信頼関係の礎となり、施設内での揉め事が大幅に減少する一因にもなっているのです。
刑務作業による心境の変化
宮崎刑務所の三工場では、高齢福祉課程(認知症や身体障害等により自立した生活を営むことが困難な概ね70歳以上の高齢者)・福祉的支援課程(精神上の疾病または障害を有する者)に該当する受刑者が作業を行っています。そのため、一般的な工場よりも基準をぐっと下げ、それぞれの受刑者の特性に合わせた簡単な作業が設定されています。
しかし、なかにはその簡単な作業にも苦戦してしまう受刑者が少なくありません。たとえば、手が不自由で物を掴みづらかったり、認知症の影響で数を数えるのが苦手だったり。そうした受刑者に対し、刑務官からは「失敗してもいいからやってみよう」「頑張れ」と、根気強く声をかけ続けると言います。
トライアンドエラーを何度も繰り返していると、できなかったことができるようになる瞬間が訪れます。その時の受刑者は、本当に嬉しそうで、生き生きとした表情を見せるのだとか。この「できた」という小さな成功体験は、受刑者の自己肯定感を育む上で非常に重要だと言えるでしょう。
受刑者の高齢化
全国的な課題である、受刑者の「高齢化」。宮崎刑務所も例外ではありません。しかし、高齢化は一概に悪いと言い切れるものでもないようです。
「高齢者はおとなしい方が大半なので、人間関係とかの問題があまりなくなったのかなと思います」
人生経験豊富な高齢の受刑者たちは、共同生活を送るうえでの術を心得ています。自ら一歩引くことで、無用な衝突を避け、互いに穏やかな関係を築くのが上手なのだとか。全体的におとなしい傾向にあるため、人間関係における問題もあまりないといいます。
また、若年の受刑者は刑務作業に対して「これはできません」と音を上げる者もいるそうですが、かたや高齢受刑者は非常に辛抱強いのだとか。黙々と粘り強く作業に打ち込むその姿勢は、「若い受刑者も見習うべきだ」と刑務官は語りました。
一般社会へのメッセージ

刑務作業によって生み出された刑務所作業製品は、全国の刑務所や矯正展などで販売され、私たちの手に渡ることもあります。普段、刑務所の内側を知る機会はほとんどありませんが、それらの製品は、社会と刑務所を繋ぐ数少ない接点のひとつです。
受刑者たちは、非常に熱心に刑務作業と向き合っているといいます。休憩時間に入っても、「この作業は難しい」「次の工程は◯◯◯だから…」と受刑者同士で意欲的に話をしているのだとか。1つひとつの製品が、社会に出て、誰かの手に渡り、使ってもらえる。そのことを刑務官が伝え、受刑者自身も理解しているからこそ、彼らは真剣になります。
何気なく手に取るかもしれない製品。その背景には、自らの罪と向き合いながら、黙々と作業に打ち込む受刑者たちの姿と、彼らの更生を信じ、厳しくも温かい眼差しで支え続ける刑務官の存在があります。
すべての製品に込められた、受刑者や刑務官たちの「想い」。だからこそ、「ぜひ刑務所作業製品を手に取ってほしい」と刑務官は一般社会に向けて願っています。
<TEXT/小嶋麻莉恵>
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