
1966年に静岡県で発生した一家4人殺害事件で死刑が確定していた袴田巌氏(88)の再審について、検察当局は8日、無罪判決に控訴しない方針を明らかにしました。これにより、9日に上訴権が放棄され、事件から実に58年の時を経て、袴田巌氏の無罪が確定する見通しとなりました。
最高検察庁の畝本直美検事総長は談話を発表し、静岡地裁の無罪判決について「判決は多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容と思われる」と語っています。
その一方で、袴田巌氏に対して「相当な長期間、不安定な状況に置かれた点について申し訳なく思っている」と謝罪しています。最高検は今後、再審手続きを検証していくとのことです。
静岡県警察本部の津田隆好本部長は9日、無罪が確定した袴田巌氏に対し、警察として直接謝罪の意を伝える意向を明らかにしました。津田本部長は報道陣に対し、「袴田さんが長きにわたって、法的地位が不安定な状況に置かれていたことについて、申し訳なく思っている」と述べ、袴田巌氏本人にその思いを伝えたいとしています。
また、事件の被害者遺族に対しては、最終的に犯人が特定できなかったことを遺憾に思うと話しました。証拠の捏造については検事総長の談話に委ねる一方、再審請求の長期化については事実関係の確認に取り組む姿勢を示しました。
津田隆好本部長は、「今回の教訓をしっかり受け止め、適正な捜査を推進して県民の信頼を得ていきたい」と決意を語りました。
袴田巌氏の死刑確定から無罪確定まで
袴田巌氏は1980年に死刑が確定し、翌年に再審請求を行っていましたが、確定判決が覆るまでに44年もの歳月を要したことは極めて異例といえます。再審の最大の争点となったのは、事件から約1年2ヶ月後に現場近くの工場のみそタンクから発見された、血痕付きの「5点の衣類」の評価でした。
静岡地裁は9月26日、この衣類などを捜査機関による証拠の捏造と認定し、袴田巌氏に無罪判決を言い渡していました。死刑確定事件での再審無罪は戦後5例目で、これまでの4件でも検察側は控訴を断念しています。
ネット上では、「控訴断念は当然のこととは言え、本当に良かった」「無実の罪で死刑囚として過ごした時間は戻らないと思うとなんともやるせない思いになる」「全ての関係者はこの件での反省を肝に銘じ、自らの職責について改めて考えて欲しい」などの意見が寄せられています。