坂村健氏、TRONの過去と未来を語る|これからは、AIの理想の上司になることが必須?

「2024 TRON Symposiumで基調講演「AI✖TRON」を行う坂村健氏

2024年12月11日〜13日までの3日間、『2024 TRON Symposium』が開催されました。

1984年から始まったTRONプロジェクトは、2024年で40周年。今までの会場は東京ミッドタウン ホールでしたが、2024年から東京 渋谷PARCO DGビル カンファレンスホールに場所を移しての開催です。

本記事では、坂村健氏が行った基調講演「AI✖TRON」─ 2024年のTRONプロジェクトと今後の展望 ─の模様についてお伝えします。

<目次>

TRONプロジェクトの40年の歴史

TRON プロジェクト40年の歴史について講演する坂村健氏。
TRONプロジェクト40年の歴史について語る坂村氏

TRONプロジェクトは、1984年にプロジェクトリーダーである坂村氏を中心として始まった文化プロジェクトです。40年にわたる歴史のなかで、国内外の1,000を超える企業や組織と協力しながら、社会に貢献してきました。

TRONは、「The Real-time Operating system Nucleus」の略で、日本初の組み込み型OSとして開発されました。さまざまな機械の中に組み込まれており、動作制御やデータ収集を可能にする革新的な技術です。

TRONの最大の特徴は、無償で公開していることにあります。これにより、多くの開発者や企業が自由に利用できる環境を提供し、技術の普及と社会の発展を促してきました。坂村氏は「自由に使える技術で、社会を発展させたい」とその思いを語っています。

坂村氏がプロジェクトリーダとして研究開発した「TRON電脳住宅」(1989年12月竣工)が、2024年にIEEEマイルストーンとして認定されました。昨年は、1984年に坂村氏のもと提案された「TRONリアルタイムOS ファミリー」が認定されており、2年連続でIEEEマイルストーンの認定を受ける快挙となります。

IEEEマイルストーンとは?
IEEEの広範な活動分野である電気・電子の分野の画期的なイノベーションの中で、公開から少なくとも25年以上経過し、社会や産業の発展に多大な貢献をした歴史的業績を認定する制度。

引用:トロンフォーラム

昨年、IEEEマイルストーンに認定されたのは、1984年に提案し、広範囲に実装された「TRON Real-time Operating System Family, 1984」です。この技術は改良を重ね、現在も進化を続けています。

TRONの技術は、日常生活から先端技術分野まで幅広く活用されています。たとえば、小惑星探査機「はやぶさ」や、H3ロケットなどの航空宇宙機器、トヨタのエンジン制御装置、デジタルカメラ、プリンター、電子楽器といった多様な機器にも採用されています

TRONとAIとの連携~環境のロボット化とIoTデバイスにおける活用

AITronの融合がもたらす新たな可能性について語る坂村氏
TRONとAIの融合についての可能性を語る坂村氏

本講演で坂村氏は、生成AIとTRONの融合がもたらす新たな可能性について触れていました。特に、ロボットの分野で盛んに研究されている「VLAモデル(Vision-Language-Action)」に着目し、視覚や言語を行動に翻訳する技術と、AIによる環境のロボット化を結びつける未来像を描いています。

坂村氏は、「大量の統計データから、想定する会話を予測する機能をアクションに結びつけたい」と述べました。その例として、コーヒーをこぼした際に、アームロボットに拭くものを持ってくるよう命令すると、AIがスポンジなど手近にある最適な物を選択してユーザーに持ってくるという仕組みを挙げています。

このVLAモデルの延長線で、独自の「CLA(Context Language Action)」モデルが持つ可能性に触れ、「状況や環境、状態を言語に変換し、それを行動に結びつけるモデルを作り上げ、IoTの基盤に組み込みたい」と語り、住宅環境への応用を見据えています。

このモデルでは、ユーザーからの音声での指示・質問・相談、ジェスチャーや視線などの情報をAIが読み取り、IoTの環境に指示するAPI(Application Programming Interface)に翻訳する仕組みを構築しています。

TRON電脳住宅の過去と未来

TRON電脳住宅の過去と未来について語る坂村健氏
TRON電脳住宅の過去と未来について語る坂村氏

講演では、TRONを活用したスマートハウスについても言及されました。坂村氏は、「環境を総体的に捉え、スマートフォンの機能を超える世界を実現する時代が来るのではないか」との考えから、TRON電脳住宅を計画したと語っています。

このスマートハウスの前身は、1989年に坂村氏が竹中工務店などと共同で作ったTRON電脳住宅です。住宅内のすべての設備をネットワークでつなぎ、一元的に制御できる仕組みを実現しました。

当時はまだインターネットが解放されておらず、高速なLANもありませんでした。マイクロプロセッサの性能も非常に低かったのです。そのため、未来の環境を当時の技術で実現するために、地下に大規模なコンピューター室を設け、スター結合で機器接続を行う必要がありました。

坂村氏は、「TOTOと連携してトイレに健康状態を分析する装置を組みこんで、NTTと組んでネットワーク遠隔医療が可能になった未来のシュミレーションを行った」と、当時の取り組みを振り返りました。

「この技術をさらに発展させたのが、現在のスマートハウスです。今の時代は、スマホにアプリを集約する形だが、これからはネットワークでつないで分散することにより、さまざまな活用を促す計画をしている最中です」

2つのスマートハウスの実証実験が進行中

進行中のスマートハウスについて話す坂村氏
現在進行中の2つのスマートハウスの実証実験について語る坂村氏

現在、スマートハウスにおける2つの実証実験が進行中です。

1つはUR都市機構と提携し、2030年の普及を目指すスマートハウス、もう1つは、長谷工コーポレーションとの連携によるスマートハウスです。

これらのプロジェクトでは、実際にモデルハウスに住んでもらい、電気・水道・ガスの使用パターンや、起床・就寝のタイミングといった行動パターンを、詳細にデータ化しています。そのデータをAIに学習させて、住環境におけるさまざまな状況認識をする実証実験が行われています。

坂村氏は、「今のAIは推測するのが得意なので、その特長を生かしてあらゆる状況の推論が可能になる」と語り、AI技術を活用したスマートハウスの可能性に期待を寄せています。

組み込みエンジニア不足の問題をAIの力で解消~今後求められるのはAIを使いこなす判断力~

AIを使いこなす判断力の必要性を語る坂村氏
「今後求められるのはAIを使いこなす人間側の判断力」と語る坂村氏

基調講演の最後に坂村氏は、組み込みエンジニアの数が減少している現状に強い危機感を示しました。その解決策のひとつとして、TRONプロジェクトではコンピューターとAIを連携させ、組み込みOSシステムの開発を効率化する方法を模索していると語りました。

具体的には、プログラミングコードとその説明文をAIに作成させ、システムの実装までを自動化する取り組みです。坂村氏は、「生成AIを活用して、組み込みOSをより効率的に利用できるシステムを構築したい」と述べ、AI技術の可能性に意欲を示しました。

さらに、AI活用の展望についても触れ、「今後の技術者は、AIを使いこなせる人とそうでない人で二極化が進む」と予測。「生成AIで自分の思考力を高められる。AIにとって理想的な『上司』になれるよう、もっと活用してほしい」とメッセージを送りました。

講演の最後には、TRONプロジェクトを支える組織の方へ感謝を述べ、坂村氏の熱意と未来への期待が込められた言葉で締めくくられました。

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