
2025年10月から全国の都道府県で最低賃金が初めて1000円を超えることになりましたが、この歴史的な引き上げは新たな課題を浮き彫りにしています。最も深刻な問題は、従来の10月一斉発効が崩れ、地域によって発効時期が最大6か月も異なることです。
通常であれば全国の多くの地域で10月中に新しい最低賃金が適用されますが、今年度は栃木県のみが10月1日から適用を開始し、多くの地域が11月以降にずれ込んでいます。最も遅い秋田県では2026年3月31日となっており、これは中小企業への配慮として準備期間を最大限確保するためです。
この発効時期の遅れは、低賃金労働者の賃上げを遅らせることになり、地域間での賃金格差が一時的に拡大する懸念があります。同じ仕事をしていても、住んでいる地域によって賃金上昇のタイミングが異なるという新たな不平等が生まれています。
厚生労働省の審議会では、各地で大幅な引き上げになることを見越して「発効日は地方審議会で十分に議論を」と要請していましたが、これが結果的に地域格差の拡大を招く結果となりました。特に熊本県と大分県では82円と81円の大幅引き上げを決定したものの、発効は2026年1月1日まで延期されており、県内の低賃金労働者は3か月間待たされることになります。
過去最大となる66円の引き上げは、特に中小企業にとって深刻な経営圧迫をもたらしています。日本商工会議所のデータによると、企業が利益を人件費にどれだけ配分しているかを示す「労働分配率」は、大企業が概ね30%台であるのに対し、中小企業は70%台という高い水準にあります。
これは中小企業が既に限られた利益の中で相当高い割合で人件費を負担していることを意味しており、最低賃金の引き上げは中小企業にとって深刻な経営課題となっています。日本商工会議所が3月に公表した調査結果では、政府目標の1500円について「対応は不可能」もしくは「対応は困難」と回答した企業の割合が7割に達しました。
飲食店や小売業では、アルバイトやパートタイム労働者が多く働いているため、人件費の上昇が直接経営に大きな影響を与えると懸念されています。一部のスーパーでは赤字に陥るとの試算も出ており、「賃金の支払能力を上げられない会社は淘汰される」という厳しい現実に直面しています。
中小企業庁の3月調査によると、原材料費や人件費などの増加分を取引価格や販売価格に反映できる比率である「価格転嫁率」は52.4%にとどまり、増加分を全額反映できた企業は25.7%に過ぎませんでした。この状況下で最低賃金の大幅引き上げが実施されれば、設備投資の後回しや雇用調整につながる可能性が高まっています。
年収の壁問題の深刻化と働き控えの拡大
最低賃金の引き上げは、パートタイム労働者にとって「年収の壁」に早く到達する問題を深刻化させています。従来の年収103万円の壁は今年から123万円に引き上げられましたが、最低賃金上昇により多くの労働者がより早く社会保険の適用ラインに達することになります。
特に106万円の壁と130万円の壁により、働く時間を制限する「働き控え」の傾向が拡大する懸念があります。最低賃金が上がることで収入は増加しますが、扶養から外れて社会保険に加入することになれば、逆に手取りが減るケースも発生しており、これは労働力不足をさらに加速させる要因となっています。
1週間に20時間働くパートタイマーの場合、時給50円の上昇で年間約5万円の負担増となり、10人雇用している企業では50万円の負担増となります。さらに社会保険に加入すれば企業と従業員それぞれが保険料を負担することになり、「踏んだり蹴ったり」の状況となっています。












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