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- 【医師の論文解説】赤ちゃんは親の歌で癒される 子どもの発達・親子関係と音楽療法
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赤ちゃんをあやしているときに、自然と歌を口ずさんでしまう。
子どもがいる人は、何度もその様な経験をしていると思います。
子守唄や「いないいないばあ」に合わせた歌は、昔から世界中で歌われ、親しまれてきました。このような歌は、赤ちゃんの発達や情緒に良い経験を与えていると、古くから考えられてきましたが、その効果を科学的に調べた研究は、これまであまり多くありませんでした。
実は、赤ちゃんに対して歌を歌うことは、単なる愛着形成にとどまらない大きな効果をもたらすことが分かったのです。
今回は、日常生活のなかで、保護者が赤ちゃんに向けて歌を歌うことが、赤ちゃんの気分にどのような影響を与えるのかを、解析した研究について解説します。
論文
ニュージーランド、オークランド大学のSamuel Mehr氏らが、2025年7月「Child Development」誌に報告した論文です。
子どもの情緒や発達に音楽が良い影響を与える?
子どもの情緒や発達に、音楽が良い影響を与える。
この様な仮説は、古くから存在しています。実際に、過去の研究では、乳児に音楽を聞かせるとリラックスする、泣き止む、親子の絆が深まるといった報告がありました。
しかし、こうした研究の多くは実験室で行われており、普段の生活のなかでの自然なやりとりを反映しているとは限りません。また、親が赤ちゃんに歌を歌うことが、本当に赤ちゃんの気分を良くするのか、それとも単に落ち着かせるだけなのか、因果関係をはっきり示した研究はほとんどありませんでした。
そこで今回の研究では、赤ちゃんの日常のなかで親が歌を歌うことが、赤ちゃんの気分にどのような影響を与えるのかを調べることを目的としました。その際、実験室ではなく家庭で、しかも赤ちゃんと親のその時々の気分をリアルタイムで記録するという新しい方法を用いて、より正確なデータを集めました。
家で親が歌を歌った様子を判定
研究に参加したのは、アメリカに住む110組の親子で、赤ちゃんの平均年齢は生後3か月半ほどでした。研究は10週間にわたって行われ、親子はランダムに2つのグループに分けられました。1つのグループには「赤ちゃんにもっと歌を歌ってあげてください」と指示し、もう1つのグループは特に歌に関する指示は行いませんでした。
実験に参加した親はスマートフォンを使って、そのときの赤ちゃんの様子や自分の気分をこまめに記録してもらいました。1日に数回、アプリが通知を送り、そのタイミングで親は赤ちゃんの機嫌や泣きやすさ、そして自分の気分を入力しました。さらに、歌を歌ったかどうか、ぐずったときにどんな対応をしたかなども記録してもらいました。これらの記録から普段の生活の中でどのように歌が使われ、その結果、赤ちゃんの気分にどんな変化があるのかを詳しく調べました。
親が歌を歌えば、赤ちゃんはポジティブになる
10週間の観察の結果、歌を増やすように指示されたグループでは、特に支持されなかったグループと比較した赤ちゃんの気分が、よりポジティブになったことが分かりました。具体的な変化として、親が歌を歌った後の赤ちゃんの様子を記録すると、歌わなかったときと比べて「ご機嫌」「リラックスしている」といったポジティブな状態が多く見られました。
一方で、親自身の気分については、歌うことによる大きな変化は見られませんでした。つまり、歌うことで親が元気になったというより、主に赤ちゃんに良い影響が出たということです。
さらに、ぐずったときの対応の仕方にも変化がありました。
介入グループの親は、赤ちゃんが泣いたときに「歌を歌う」という方法を選ぶ頻度が、明らかに増えていました。これは、何度も赤ちゃんに対して歌うことを繰り返すにつれて、歌うことが実際に赤ちゃんを落ち着かせるのに役立ち、その効果を実感したからだと考えられます。
親が歌を歌うことで親子関係に相乗効果
「親が赤ちゃんに歌を歌うことは、赤ちゃんの気分を良くする効果がある」という昔からある仮説が、この研究で正しいことが明らかになりました。また、その効果はほんの一時的なものではなく、日常生活のなかで繰り返されることで、赤ちゃんの情緒をより安定させることも示唆されました。
一方で、歌うことの親の気分への影響は、それほど大きくありませんでした。しかし、親子のやりとりのなかで歌を取り入れることは、赤ちゃんの情緒的な健康にプラスになるという点で非常に価値があります。赤ちゃんの機嫌を良くするための効果的なツールとして、歌を取り入れることで、育児の負担を軽減でき、長期的には親の気分に良い影響がある可能性があります。
また、この研究では、スマートフォンの使用やリアルタイムの調査により、実験室ではなく、家庭での自然なデータが得られました。今後、同様の実験手段を用いて、赤ちゃんとの関わり方や音楽の使い方について、さらなる研究が進む可能性があります。



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