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社会の一員としての再出発を目指して。沖縄刑務所が挑む社会復帰支援の最前線

刑期を終え、社会へ戻る受刑者たち。彼らが再び地域社会の一員として自立した生活を送るためには、単に刑期を終えるだけでなく、その後の生活を支える支援が不可欠です。刑務所の役割は、受刑者が罪と向き合い、再び社会の一員として更生できるようサポートすることにあります。
「出所後の住まいや仕事はどうやって見つけるのか?」
「社会復帰を阻む壁とは何か?」
「刑務官は受刑者の『再スタート』をどのように支えているのか?」
これらの疑問に答えるべく、沖縄刑務所の社会復帰支援担当刑務官にお話を伺いました。
<目次>
矯正官の仕事に対する想い
受刑者の社会復帰を支援する刑務官の仕事は、その特殊性ゆえに、一般的な認知度が低いのが現状です。しかし、その内側には、受刑者の更生を願い、社会の安全と安心を守るという強い使命感を持った人々の熱い思いが込められています。今回取材した社会復帰支援を担当する刑務官は、どのようなきっかけでこの職に就き、どのようなやりがいを感じ、そして社会に何を伝えたいと願っているのでしょうか。
矯正職員になったきっかけ
今回お話を伺ったのは、社会復帰支援を担当する刑務官です。もともとは、受刑者に作業指導等を行う作業専門官として拝命した後、昇任試験を経て、刑務官になりました。この仕事を志した背景には、「ものづくりへの情熱」と、ある現職の作業専門官との出会いがありました。
元々ものづくり系の学校に通っていた彼は、「ものづくりを通して人は変われる」という信念を持ち続けていました。就職活動中に「作業専門官」という職種を知り、人の成長を支えるこの分野に強く惹かれたといいます。
決定的な転機となったのは、就職活動をしていたときに刑務所の施設見学で現職の作業専門官に出会ったときのこと。「なぜこの仕事をしているのですか?」と尋ねたところ、返ってきた答えは「刑務所をなくすために、この仕事をしている」というものでした。
この言葉に衝撃を受け、刑務所という場が、ただ収容するだけでなく、社会をより良くしようとする人々の努力によって支えられていることを初めて実感したそうです。その強い使命感に触れたことが、「ものづくりで人に向き合いたい」という自身の原点と重なり、この世界で働く決意を固める大きなきっかけとなりました。
社会復帰支援担当の役割

刑務所において、受刑者が刑期を終えて社会に戻る際に直面するさまざまな課題に対し、多角的なサポートを提供するのが社会復帰支援担当の仕事です。社会復帰支援担当には、刑務官のほか、専門的な知識をもった福祉専門官や就労支援スタッフ等がいます。彼らは、出所後の住居の確保から福祉的支援、就労支援まで、受刑者1人ひとりの状況に応じたきめ細やかな支援を通じて、再犯防止と円滑な社会適応を目指しています。
社会復帰支援担当の業務内容
社会復帰支援担当の業務は、多岐にわたります。その根底には、2023年12月の法改正により、刑事施設の長として社会復帰支援が法律上の義務として明記されたことがあります。これは、受刑者の社会復帰を「助ける」というこれまでの取り組みを、より積極的に「義務」として果たすべきであるという社会の要請を反映したものです。
具体的な業務内容は以下の4つの柱から成り立っています。
- 適切な住居の確保
出所後、帰る場所がない受刑者も少なくありません。そうした人々に対し、居住先の調整を行うことで、生活の基盤を築くための第一歩を支援します。
- 福祉的支援
身体的・精神的な課題を抱える受刑者が出所後も適切な福祉サービスや医療を受けられるよう、福祉関係機関や行政との連携を図り、継続的な支援体制を構築します。
- 就労支援
在所中から出所後の就労を確保することが、自立した生活を送るうえで大変重要となります。ハローワークや協力雇用主、職親プロジェクト企業との連携を通じて、就労へつなげます。
- 関係機関との連携
地域生活定着支援センターなどの地域の社会福祉関係機関やハローワークといった専門機関との密接な連携は、受刑者が社会に順応し、孤立することなく生活を送る上で欠かせません。
これらの業務を通じて、社会復帰支援担当刑務官は、受刑者が確かな足取りで新たな人生を歩み出せるよう、伴走者の役割を担っているのです。
就労支援の流れ
社会復帰支援のなかでも中核をなすのが「就労支援」です。これは、受刑者が刑務所を出た後に安定した職に就き、経済的に自立した生活を送るための基盤を築くことを目的としています。そのプロセスは、受刑者の「働きたい」という意欲を引き出し、さまざまな機関との連携のもと、丁寧に進められます。
- 希望確認とアンケート
就労支援は、受刑者本人の「就職したい」という申し出と希望に基づきスタートします。出所3〜6ヶ月前からアンケートを実施し、本人が就労支援を希望した場合、申し込みを受け付けます。
- 審査会
申し込みがあった受刑者に対しては、身体状況や就労への希望の有無などを総合的に審査する「審査会」が開催されます。ここで、支援の対象者を決定し、個別の支援計画が立てられます。
- ハローワークとの連携と求職登録
職業あっせんは公共職業安定所、すなわちハローワークの役割です。沖縄刑務所では、ハローワーク那覇の相談員(ナビゲーター)が刑務所に来所し、受刑者との面接を通じて求職登録を進めます。ハローワークには、一般には公開されない「受刑者専用求人(非公開求人)」も多数寄せられており、これらが受刑者の就職先として検討されます。
- マッチング
受刑者の希望職種、帰住先(県外での新たなスタートを希望するケースも含む)、そして仕事内容に合った求人をハローワークを通じて探し、本人に提示します。受刑者の希望を聞きながら、面接や試験へと進み、最適なマッチングを目指します。
- 協力雇用主・職親プロジェクトとの連携
受刑者の雇用を前提とした「協力雇用主」や、「職親プロジェクト」に参加する企業が存在します。これらの協力的な企業が、受刑者の社会復帰を支えるうえで重要な受け皿となっています。
社会復帰支援担当刑務官は、この一連のプロセスにおいて、受刑者とハローワーク、そして協力企業との間に立ち、円滑なコミュニケーションを促す橋渡し役を担っています。
受刑者への働き掛け

社会復帰支援担当刑務官の仕事においては、受刑者1人ひとりと向き合い、コミュニケーションを通じて。その内面に働き掛けることが、支援の成否を分ける重要な要素となります。特に、就労に対する意識の醸成や、人間としての成長を促す接し方は、彼らの社会復帰に不可欠なプロセスです。
就労に対する理解促進
受刑者の中には、これまでの人生で定職に就いた経験が乏しく、仕事に対する理解や責任感が希薄な者も少なくありません。社会復帰支援担当刑務官は、そうした受刑者に対して、仕事の重要性を根気強く説くことから始めます。
人間力のある接し方
受刑者と向き合ううえで、最も重要となるのが刑務官自身の「人間力」だといいます。単に制度やルールを説明するだけでなく、受刑者1人ひとりの心に寄り添い、彼らが前向きな気持ちを持てるような働きかけが求められます。
これは、社会復帰支援だけでなく、刑務所内で行われる全ての処遇に共通することだと言えるでしょう。受刑者が抱える問題は複雑であり、画一的な対応では解決できません。それぞれの個性や背景を理解し、その人にとって何が最善かを常に考えながら、人間対人間の関係性の中で信頼を築いていくこと。この人間力こそが、刑務官の仕事の根幹を成しているのです。
矯正の仕事のやりがい
矯正職員のやりがいは、受刑者の「未来」に直接貢献できることにあります。特に印象深いのは、過去に担当した出所者から届く感謝の手紙だといいます。職業訓練で得た技術を活かして定職に就き、家族ができたという報告は、「信じて関わり続けて良かった」と心から実感する瞬間であり、日々の業務の大きな原動力となっています。
また、就職の内定が決まった際に、それを本人に伝えた時の受刑者の笑顔や、それまでとは異なる前向きな姿勢を見ることも、大きなやりがいのひとつです。彼らが希望を見出し、新たな人生のスタートラインに立つ瞬間に立ち会えることは、この仕事でしか味わえない喜びだといいます。
「出所者が幸せになってほしい」という心からの願いを持って支援すること。これが、形式的な業務に終わらせず、受刑者の真の更生を促すうえで不可欠な意識だといいます。叱咤激励や日々の声かけ、時には厳しく、しかし常に受刑者の未来を信じる姿勢で接することが、彼らの行動変容のきっかけとなるのです。
「新たな被害者を一人でも生まないように」という強い使命感も、仕事のモチベーションとなっています。受刑者が社会復帰後、二度と罪を犯すことなく、安定した生活を送れるよう支援することが、ひいては社会全体の安全と安心につながると信じています。
そして、出所時に受刑者の後ろ姿を見送りながら「もう戻ってこないで」と心の中で語りかけ、もし次に会うなら刑務所の中ではなく、社会で再会できることを願う。この思いこそが、受刑者の真の更生を願う刑務官の深く温かい心情を物語っています。
一般社会に対して願うこと
社会復帰支援担当刑務官は、一般社会に対して「刑務所のことをもっと多くの人に知ってほしい」という強い思いを抱いているとのこと。刑務官や刑務所の仕事は、多くの人々にとって閉鎖的で、なかなか実態が見えにくいものです。
警察官と刑務官の違いさえも十分に理解されていないという現状に対し、学生を対象とした施設参観の機会を増やすなど、矯正職員の仕事の魅力を積極的に発信していくことの重要性を感じています。
刑務所で反省はできますが、真の更生は社会に出てから始まります。しかし、社会が受刑者を受け入れなければ、彼らは再び孤立し、罪を犯してしまう可能性が高まります。
1人でも多くの人に矯正の取り組みの大切さや、受刑者を受け入れることの重要性を知ってほしいと願っています。それは、社会の安全と安心を守るうえで、刑務官の仕事がいかに欠かせないものであるかというメッセージでもあります。
沖縄刑務所では、2025年12月13〜14日に沖縄で開催される「九州矯正展」への来場を促進するなど、広報を強化しています。これは、地域社会と刑務所との距離を縮め、矯正行政の取組と地域との共生について理解を深めるための重要な一歩となるでしょう。
新たな取り組みと展望

受刑者の社会復帰を支援するうえで、既存の枠組みにとらわれず、常に新たな視点や技術を取り入れることが求められています。沖縄刑務所の社会復帰支援担当刑務官は、デジタル技術の活用や、より効果的な支援体制の構築に向けて、さまざまな取り組みと展望を描いています。
メタバースを用いた就労支援
近年刑務所では、先進的な取り組みとして、仮想空間(メタバース)を用いた就労支援プログラムを導入しています。これは、複数の企業が合同説明会をインターネット上の仮想空間内で実施するというもので、受刑者にとっては画期的な情報収集の場となっています。
このメタバースの活用には、いくつかの大きな利点があります。
- 効率的な情報収集
一度に多くの企業の情報を得られるため、就職活動の効率が格段に向上します。
- デジタル社会への適応
デバイスの操作を通じて、デジタル化が進む社会への適応を促す効果も期待できます。
- 時間・費用の削減
県外企業の担当者が実際に来所する際にかかる時間や費用を削減できるため、より多くの企業が参加しやすくなります。
- 個人情報保護
アバターを利用するため、受刑者の顔が外部に知られることなく、個人情報保護の観点からも安心です。
このシステムは、日本財団の職親プロジェクトが提供しており、刑務所側の設備投資の負担を軽減しながら、受刑者に新たな機会を提供しています。
しかし、いくつかの課題もあります。たとえば、対面でのやり取りで得られる温度感や空気感が伝わりにくいこと。また、使用できる端末が限られているため、現状では多くても2名程度の受刑者にしか利用の機会を提供できない状況です。
より多くの受刑者が利用できるよう、物理的な設備投資の必要性も認識されています。それでも、刑務所にいながらにして外の世界とつながり、多様な就職情報を得られるメタバースは、受刑者にとって大きな可能性を秘めた支援ツールと言えるでしょう。
今後注力したいこと
社会復帰支援担当刑務官は、受刑者1人ひとりの真の更生と社会復帰を目指し、今後も多岐にわたる課題に取り組んでいくと語りました。
最も重要な課題のひとつは、単に就職先を見つけることではなく、出所後に職場に定着するような支援策を模索し、着実に実行していくことです。実際、内定を得て就職しても、会社に通わなくなったり、早期に離職してしまうケースが少なくないという現実があります。
そのため受刑者一人ひとりの特性に応じた、きめ細やかなサポート体制の構築が求められています。早期離職を防ぐための具体的な方策として、在所中に内定先や関連業種での職場体験を実施するなど、ミスマッチを防ぎ、実際の仕事のイメージとのギャップを埋めるための具体的な取り組みをさらに強化していく考えです。
次に、地域社会との連携をさらに深めることも不可欠です。地域包括支援センターなどの地元機関との連携を強化し、具体的な事例検討や関係機関の来所機会を増やすことで、より重層的な支援体制を構築します。特に沖縄では地元に帰る受刑者が多いため、地域コミュニティ全体で彼らを支える仕組みづくりが不可欠となります。

社会復帰支援担当刑務官は、「新たな被害者を1人でも生まないように」という強い信念のもと、受刑者が社会の中で安定した生活を築き、再犯に至らない未来を実現するため、日々たゆまぬ努力を重ねています。

(TEXT/小嶋麻莉恵)

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