ビル・ゲイツ氏、インドAIサミット基調講演を直前辞退 エプスタイン文書公表で疑惑強まる中

講演で登壇者が使用するマイク

米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が、インドで開催中の「AIインパクトサミット(India AI Impact Summit 2026)」で19日に予定されていた基調講演を、開始数時間前になって辞退したことが明らかになりました。 ゲイツ氏の慈善団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団は、声明で「サミットの主要な優先事項に焦点が当たり続けるようにするため」と説明し、具体的な理由には踏み込みませんでした。 一方で、ゲイツ氏は、性犯罪で有罪判決を受けた後に勾留中に死亡した米富豪ジェフリー・エプスタイン氏に関する新たな文書が公開される中で、その関係性を巡る疑惑の渦中にあります。

インド政府は当初、ゲイツ氏の招待を見直したと報じられ、エプスタイン関連文書、いわゆる「エプスタイン文書」に氏の名前が含まれていることが影響したとされています。 一時は、サミット公式サイトからゲイツ氏のプロフィールが削除されるなど、出席の有無を巡り混乱も生じました。 ゲイツ財団はその後、「予定通り登壇する」と火消しに追われましたが、最終的には基調講演の辞退が発表されました。

エプスタイン氏を巡っては、米司法省が1月末に300万ページ超とされる関連文書の一部を公開し、その中に2013年のメール下書きが含まれていました。 これらの下書きは、エプスタイン氏が自身宛てに書いたメモとされ、ゲイツ氏に対し性的な出会いを持ちかけたり、妻に性病を隠すための薬の入手を手助けしたなどと主張する内容が含まれていると報じられています。 実際に送信されたメールか、誰が書いたのかは明らかになっておらず、文書の性質についても専門家の間で評価が分かれています。

ゲイツ氏側は、こうした記述について「全く馬鹿げており、完全に虚偽だ」と強く否定しており、広報担当者は「文書が示しているのは、エプスタイン氏がゲイツ氏との継続的な関係構築に失敗し、名誉を傷つけようとしたことだけだ」と主張しています。 ゲイツ氏は過去にも、エプスタイン氏と知り合いであったことを「判断ミスだった」と述べ、関係を持ったこと自体を後悔していると語っていました。

一方、今回のAIサミット自体も、運営上の混乱が目立っています。会期中、展示ホールの一般公開が突然中止されたほか、会場の導線や交通手配を巡る不手際に参加者から苦情が相次いだと報じられています。 半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)も出席を取りやめるなど、看板級の登壇者の不参加が相次ぎ、インド政府の準備不足への批判も強まっています。

それでも、サミットではインドのAI産業育成に向け、インド企業や米マイクロソフトなどが合計1000億ドル超規模の投資計画を表明するなど、経済・技術面でのインパクトは一定程度保たれています。 しかし、世界的な著名人を巻き込んだエプスタイン文書の波紋が、テクノロジーとガバナンスを議論する場にも影を落とした形であり、企業や政府が「誰を招き、誰と距離を置くのか」という判断の難しさが改めて浮き彫りになっていると言えます。

「ダボスのコンシェルジュ」が残した人脈の影

今回のゲイツ氏の辞退判断の背景として、エプスタイン氏が長年にわたり世界の政財界人脈に食い込んできた実態も無視できない状況です。 ブルームバーグなどの報道によると、エプスタイン氏は世界経済フォーラム(ダボス会議)の裏側で自らを「ダボスのコンシェルジュ」と称し、富豪や政府高官の間で面会の仲介役を務めてきたとされています。 宿泊先の手配から、億万長者や要人との会合の橋渡しまで担い、その見返りとして、自身の知人の肩書きや地位の向上を求めるケースもあったといいます。

報道が伝えるメールのやり取りでは、エプスタイン氏が科学者や金融関係者らにダボス会議での面会相手を推薦したり、反対に、自らの人脈を利用したいとする側から「ダボスのコンシェルジュ」宛てに依頼が寄せられたりする様子が浮かび上がっています。 その中には、後にビル&メリンダ・ゲイツ財団の顧問を務めたとされる人物が、ゲイツ氏との面会仲介を求めたとされる記述も含まれており、エプスタイン氏のネットワークとゲイツ氏の名前が交差する場面が点として現れています。

もっとも、これらのメールから、実際にどこまで面会が実現したのか、具体的なビジネスや政策決定に影響したのかについては、明確な証拠が示されているわけではありません。 また、関係者の一部は、エプスタイン氏の犯罪行為や過去については把握しておらず、知っていれば会食には応じなかったと説明しています。 人脈形成の場としての国際会議が、同時にスキャンダルの温床ともなりうる構造が改めて浮き彫りになった格好です。

今回のAIサミットを巡る混乱は、デジタル技術やAIの未来を語る場においても、登壇者の過去の言動や関係性への世論の目がかつてなく厳しくなっている現実を示しています。 大規模な国際会議や企業イベントでは、今後、コンプライアンスや人権尊重の観点から招待者選定の基準や透明性を一層高めることが求められそうです。

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