スイスで年内にも、医療従事者の介助なしで安楽死を可能にするポータブル型カプセル「サルコ」が初めて実用化される見通しです。自殺ほう助団体が明らかにしました。
サルコは2019年に初公開された宇宙船のような機器で、ボタンを押すとカプセル内部の酸素が窒素に置き換えられ、低酸素症によって死に至ります。スイスでは一般的に自殺ほう助が合法化されており、自殺ほう助の権利を訴える団体「ザ・ラスト・リゾート」は、サルコの国内使用に法的障害はないとの見方を示しています。
ただし、安楽死を希望する場合は、精神状態の評価と判断力の有無の確認が法律で義務付けられています。サルコを利用する際は、カプセルの中で自動化された一連の質問に回答します。
サルコを開発したのは、スイスの自殺ほう助団体「エグジット・インターナショナル」の創設者、フィリップ・ニチキ氏です。フィリップ・ニチキ氏によると、カプセル内では「死を希望する場合はこのボタンを押してください」という音声案内が流れるとのことです。
ボタンを押すと、カプセル内の酸素濃度が急速に低下し、約30秒で21%から0.05%まで下がります。その後、意識を失い、約5分で死に至ります。
カプセル内では、酸素レベルや心拍数、血中酸素飽和度が常にモニタリングされており、利用者の死が速やかに確認できます。フィリップ・ニチキ氏は、「一度ボタンを押したら、もはや取り消すことはできない」と強調しました。
サルコの利用を求める待機者が増加 利用料は窒素代の約3,100円
安楽死を可能にするサルコの利用を求める待機者が増えていると、ザ・ラスト・リゾートのフローリアン・ウィレットCEOが明かしました。同社の諮問委員会メンバーで弁護士のフィオナ・スチュワート氏は、年内に初の利用者が出る見通しだと述べています。
ただし、具体的な日時や場所、利用者の詳細は公表されない予定です。フィオナ・スチュワート氏は、「スイスで穏やかな死を希望している利用者をめぐって報道合戦が起きることは望んでいない」と話しました。
サルコの利用可能年齢は50歳以上ですが、18歳以上で重病の場合は例外も検討されています。サルコを所有するエグジット・インターナショナルは寄付金で運営され、利用料は窒素代の18スイス・フラン(約3,100円)のみになる見込みです。
サルコの使用をめぐっては、スイスで法的・倫理的な議論が再燃しています。フィオナ・スチュワート氏は、「自殺ほう助を医療の対象から切り離すことを目指している。サルコなら医師の立ち会いは不要だ」と主張しました。
オランダで12年かけて開発されたサルコは、研究開発に65万ユーロ(約1億500万円)以上が投じられました。1年間の試験運用では、人間や動物への使用はなかったとのことです。