JAXAの月面探査機「SLIM(スリム)」が運用を終了 高精度着陸技術を世界に証明
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月面探査機「SLIM(スリム)」が、その使命を終えました。世界で初めて実現した高精度着陸技術と、過酷な月の夜を3度も乗り越えた実績は、日本の月面開発における大きなアドバンテージとなるでしょう。
SLIMの開発はJAXAが主導し、三菱電機がシステム開発と製造を担当しました。これまでの探査機は着陸地点から数km離れることもありましたが、SLIMでは過去の月面画像を活用して機体の位置を正確に把握する技術を採用。100m以内の「ピンポイント着陸」を目指した挑戦でした。
機体の軽量化にも注力し、燃料を含めて約700kgに抑えています。2023年に月面着陸を成功させたインドの探査機と比べても、約半分の重さです。
2023年9月、日本の主力ロケット「H2A」に載せられたSLIMは、2024年1月20日、世界で5番目となる月面着陸を達成しました。メインエンジンのトラブルで逆さまの状態での着地となりましたが、1週間ほどで太陽光発電を開始。月面の画像や岩石のデータを地球に送信することができました。
SLIMは予想以上の活躍を見せ、2月、3月、4月と3度にわたって「越夜」を成功させました。しかし、5月以降は通信が途絶え、8月23日にプロジェクトは幕を閉じました。
SLIMの功績は、高精度着陸技術の実証と、長期探査に繋がる越夜技術の獲得への足掛かりを作ったことです。月の水資源探査や将来の火星探査の基盤として、日本の月面開発に大きな一石を投じたといえるでしょう。
月面着陸直前に小型ロボット「LEV-1」と「LEV-2」を放出
SLIMは月面着陸直前に、2台の小型ロボット「LEV-1」と「LEV-2」を放出しました。LEV-1はバネの力で月面を跳ね回り、従来のロボットでは探索が難しい地下空洞などの調査が期待されています。
一方、LEV-2は玩具メーカーのタカラトミーなどが開発に携わり、わずか約250gという世界最小サイズを実現。LEV-2がSLIMを撮影し、その画像をLEV-1経由で地球に送信しました。
SLIMの科学調査によって、日本の月探査における存在感が高まることが期待されます。会津大学の大竹真紀子教授らは、SLIMが撮影した月面の岩石に地球内部の鉱物が含まれていたという発見を5月に発表しました。
笹川平和財団の角南篤理事長は、「もしSLIMが失敗していたら、日本の宇宙開発に打撃となった」と指摘しています。H3ロケットの打ち上げ失敗やispace社の月面着陸失敗など、日本の宇宙開発は低迷していましたが、SLIMの成功がその流れを変える転機となりました。
今後の課題としては、主エンジンの異常原因の究明と安全な着陸技術の確立が挙げられます。また、日本の月面開発を戦略的に進めていく必要があります。
文部科学省は7月、SLIMの技術を国内企業に移転する方針などを月探査の考え方としてまとめました。三菱総合研究所の内田敦主席研究員は、「官が開発した技術を活用して民間がビジネスとして花開かせるロールモデルになればいい」と期待を寄せています。