弁護士と警察は対立関係だけじゃない。「法の番人」と「社会の守護者」の知られざる関係性

弁護士と警察は対立関係だけじゃない。「法の番人」と「社会の守護者」の知られざる関係性

一般市民にとって「弁護士」と「警察」と聞くと、どんなイメージをお持ちでしょうか。

弁護士といえば離婚や相続、警察といえば犯人逮捕といった具合に、「なんとなく別の世界の人たち」と感じる人もいれば、「弁護士と警察は、いつもバチバチに喧嘩している」という印象を持つ人もいるでしょう。

もしも子どもが警察官のパパに「ぼく将来弁護士になりたい!」と言ったら、ちょっと複雑な表情を浮かべるかもしれません。教科書的に言えば、どちらも「社会正義」を理念とした職業ですが、その役割や立場は大きく異なります。

今回の記事では、弁護士と警察が果たす役割の違いや、刑事手続きでの関わり方、協力と対立が入り交じる現場をひもといていきます。

<目次>

弁護士と警察の役割・目的の違い

刑事事件で捜査をする警察官

警察官は公共の安全と秩序を維持することを使命とする公務員です。各都道府県警察は警察庁(国家公安委員会所管)の指揮の下で犯罪の予防・捜査・犯人の逮捕などにあたっています。警察官には、現行犯逮捕や令状に基づく捜索・差押えなどを執行する権限があり、犯罪の抑止と検挙を通じて、社会全体の治安を守ることを目的としています。

警察組織全体について定めた警察法の第一条にも、以下のようにその目的が定められています。

第一条
この法律は、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持するため、民主的理念を基調とする警察の管理と運営を保障し、且つ、能率的にその任務を遂行するに足る警察の組織を定めることを目的とする。

一方、弁護士は法の専門家として、個人の権利や利益を擁護することを使命とする民間の職業です。弁護士は刑事・民事問わず幅広い法律業務に携わりますが、特に刑事事件では被疑者・被告人の弁護人となり、その者の利益、人権を守ります。

弁護人の任務は、依頼者の基本的人権の保護です。人権侵害の最たるものが冤罪であり、刑事事件における弁護士の最も重要な役割は、冤罪を防止し、無実の市民が誤って罪に問われたり、自由を奪われたりすることを防ぐことにあります。

警察官が「社会全体の守護者」だとすれば、弁護士は「個人の守護者」と言えます。両者ともに司法制度を支える重要な役割を担っていますが、所属や立場(警察官は行政機関、弁護士は独立した専門職)も、目的も異なるのです。

捜査段階では警察官と検察官が密接に協働し、弁護士は被疑者側に立つため、現場では互いの立場から緊張関係(対立的な関係)が生じることもあります。それでも最終的な目的は、社会正義の実現であることには変わりありません。

警察官のような捜査機関は、「犯罪を抑止し、犯人を検挙することで社会全体の利益を守り、正義を実現する」ことを目的としています。一方、弁護士は「個人の利益を守ることで社会全体を支える」というアプローチを取っています。

ここまで述べると、「弁護士と警察はいつも対立しているのではないか」と思われるかもしれません。ですが、実際には協力関係に近いかたちで活動する場面も少なくないのです。被害者の支援や円滑な事件処理、少年事件における役割分担、さらには冤罪の防止まで協力しあうことができます。なお、本稿における意見は一弁護士の私見であり、全体の意見にわたるものではないことをお断りしておきます。

刑事手続きにおける両者の関わり

刑事手続きに関する書類を書く弁護士

まず、一般的な刑事事件の流れのなかで、警察官と弁護士がどのように接点を持つかを解説しておきます。

事件発生後、まず警察官が捜査を開始し、証拠収集や関係者からの事情聴取(取調べ)を行います。被疑者(容疑者)が判明すれば、警察官はそのものに対する取調べや場合によっては逮捕(通常は裁判官が発付する逮捕状に基づく)を行い、身柄を拘束して捜査を行います。

逮捕・勾留された被疑者には、憲法上、弁護士を依頼する権利(弁護人選任権)が保障されています。警察は逮捕直後に被疑者に対し「弁護士を選任できる」ことを告知する義務があり(刑事訴訟法第30条等)、速やかに弁護人との接見(面会)を認めなくてはなりません。

実務では、被疑者が自費で弁護士を呼べない場合のために、当番弁護士制度(初回無料で当番の弁護士が駆けつける制度)や、国選弁護人制度(勾留決定後の公費による弁護士)があります。

2006年から被疑者国選弁護制度により、身柄拘束中の被疑者にも、早期に弁護人の援助を受ける権利が実効的に保障されるようになり、警察官も被疑者に対して制度を周知して、速やかに弁護士とのアクセスを認めることが求められています。

弁護士は接見を通じて、被疑者に黙秘権などの権利を説明し、不当な取り調べに対処する助言をします。接見とは、拘束されている被疑者と弁護士が警察官の立会なしに面会することで、基本的に時間の制限はありません。緊急の場合には、深夜でも弁護士が接見に応じることがあります。

また、必要に応じて警察官や検察官に対して、「違法な捜査である」と異議・抗議をします。たとえば取調べで身体的・精神的圧迫や、違法な誘導があれば、弁護士は即座に抗議し、場合によっては警察内部の監察室や検察に対して是正の申し入れや、裁判所を通した不服の申立てをします。

起訴後の刑事裁判では、警察官は主に証人として出廷するか、捜査報告書の作成者として関与します。一方、弁護士は被告人の無罪や減刑を主張し、検察側の立証に対して反証を行います。

裁判では、弁護士が警察官の作成した調書の任意性や信用性を争ったり、証人として出廷した警察官に反対尋問を行ったりすることもあります。つまり、公判において警察官と弁護士は「対等な立場」ではなく、「証人」と「訴訟当事者の代理人」という明確に異なる役割を担うことになります。

足立直矢弁護士

投稿者プロフィール

大阪大学法学部卒,軽犯罪から重大犯罪、経済犯罪や収賄事件に至るまで幅広く担当。情状弁護,再犯事件,非行少年の弁護にも注力。時には厳しいアドバイスをすることもあり、依頼者やその家族からの信頼は厚い。

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