被害者支援と再犯防止の最前線。弁護士と警察が制度の枠組みで連携する理由

被害者に手を差し出す弁護士

前回の記事では、加害者側の弁護士と警察官が協力し、示談や事件解決につながった実例をご紹介しました。対立する立場と見られがちな両者ですが、実務の現場では互いの役割を理解し合い、連携して問題を解決するケースも少なくありません。

ここからは、そうした協力関係の背景にある制度そのものについて、弁護士の立場から詳しく解説していきます。

<目次>

犯罪被害者支援で警察と弁護士が担う役割

弁護士に相談する被害者

警察官と弁護士は「犯罪被害者支援」という共通の目的において協力関係を築くことがあります。犯罪に遭った被害者やその遺族は、捜査や公判手続に不慣れで精神的にも深い傷を負っていることが多いため、警察・弁護士双方からのサポートが不可欠です。

まず警察には、各都道府県の警察本部や警察署に被害者支援の担当部署・係が設置され、被害者に対する情報提供や相談支援を行っています。事件直後から、警察官は被害者に対し必要な制度を案内し、支援機関へつなぐ役割を果たしています。

このように、警察は「被害者支援の窓口」として、被害者と弁護士など専門家との橋渡しを行っています。検察庁内にも被害者支援部門が設置されており、検察庁から弁護士会に対して「被害者代理人弁護士の紹介」の問い合わせが来ることもあります。

弁護士会や法テラス(日本司法支援センター)も積極的に犯罪被害者の支援に関わっています。弁護士会には「犯罪被害者支援委員会」が設置され、各地で被害者支援に熱意と知見のある弁護士を「協力弁護士」として登録する取り組みがあります。

法テラスは、全国どこからでも被害者が無料で法律相談を受けられる窓口を提供しています。また、経済的に余裕のない被害者に対しては、弁護士費用を立て替える援助制度(被害者参加制度・国選代理人制度)も用意されています。

特に近年では「被害者参加制度」が利用されています。この制度では、一定の重大事件の被害者や遺族が刑事裁判に「被害者参加人」として裁判に加わり、被告人への質問や意見陳述ができるようになりました。当然ですがこの制度内でも代理人弁護士を活用することができます。

制度として被害者が刑事裁判に主体的に参加しやすくなったことに伴い、弁護士費用の負担を軽減するための扶助制度も整備されました。自分のたくわえで弁護士に依頼できないという場合には、公費で弁護士に依頼して被害者参加することができます。被害者が希望すれば、警察官はこの制度の利用を案内します。

これまで被害者は刑事裁判において、あくまで「証人」として扱われ、当事者とは見なされていないという指摘がありました。被害者参加制度により、被害者が加害者の裁判に当事者として参加し、刑罰に関する意見を述べることも可能になりました。自らが被害に遭った裁判に主体的に参加することで、「自分が関与して手続きが進められた」という意識を持てるようになることが期待されています。

二次被害防止と安全確保に欠かせない協働体制

被害者の話を聞く心理カウンセラー

事件後の二次被害防止や心のケアにも警察と弁護士は協力可能です。警察官は心理カウンセラー等と連携しながら被害者のメンタルサポートに努め、弁護士は損害賠償請求や各種給付金制度を利用するための法的手続きを支援します。両者が情報を共有し、それぞれの専門性を活かすことで、被害者は刑事・民事両面で充実した支援を受けられるのです。

たとえば、弁護士が代理人として加害者に対する損害賠償請求を行う場合、警察官から提供された捜査記録や証拠が役立つこともあります。逆に、被害者が加害者からの報復不安を訴えていれば、弁護士が警察官と連絡を取り、適切な保護措置を依頼するといった協働も行われています。

実際に私も被害者の代理人として活動を行う時には,警察や検察での捜査記録を確認させてもらうことがありますし(事案によっては警察に「もうちょっと見せてよ!」とワガママを言ってしまったことがありますが)、担当警察官の方と被害者の安全確保のために、さまざまな協議をしたことがあります。

犯罪被害者支援の現場では、このように警察官と弁護士(加害者代理人の立場でも、被害者代理人の立場でも)が、お互いの強みを活かしながら共同できる余地があるのです。

再犯防止に向けた協働の取り組み

弁護士

再犯防止(更生支援)の分野でも、警察官と弁護士の新たな協働が生まれています。犯罪者が刑期を終え社会復帰するとき、再び犯罪に手を染めないよう支援することは社会正義の重要な課題です。従来、この領域は保護観察所や更生保護施設、NPOなど福祉・行政の担当と見られがちでしたが、近年では弁護士も積極的に関与するようになりました。

その代表例が「よりそい弁護士」制度です。これは刑事事件の弁護活動が終わった後も、弁護士が引き続き元受刑者や保護観察対象者に寄り添い、社会復帰と再犯防止のための支援を行う取り組みです。

たとえば、執行猶予判決を受けたクライアントに弁護士が同行して、保護観察所や生活保護の窓口で手続きを手伝ったり、刑務所の出所者について刑務所職員と協力して、帰住先(住居)や入院先を確保する手配をしたりします。

従来こうした活動は弁護士によるボランティアに委ねられてきましたが、近年、各地の弁護士会で制度化が進み、兵庫県弁護士会や愛知県弁護士会などでは、弁護士に一定の報酬が支払われるようになりました。愛知県では導入3年目までに150件以上の支援実績が報告されており、2021年には札幌弁護士会でも同様の制度が発足しています。

「よりそい弁護士」は、刑事弁護から更生支援へ切れ目なく関わる点に特色があります。弁護士は福祉・行政分野の専門家(刑務所や保護観察所、自治体の福祉担当、NPOスタッフなど)とネットワークを組み、一員として活動します。

具体的には、依頼者が抱える借金問題の整理や身分証明書の取得支援など、法律の専門家でなければ対応が難しい部分を担いつつ、生活面の相談については他の支援機関と連携して対処します。

このように複合的な支援を行うことで、本人が「普通の社会生活」に戻り、再犯を防ぐサポートとなることが期待されています。それはひいては、新たな犯罪被害者を生まない安全な地域社会づくりにもつながります。国も2017年に「再犯防止推進計画」を策定し、「誰一人取り残さない社会の実現」を掲げ、官民の緊密な連携の重要性を強調しています。

警察官も、地域警察活動を通じて更生者の見守りや就労支援団体との連携に取り組んでおり、弁護士と情報を共有しながら個別のケースに対応することもあります。たとえば、少年時代に非行歴のある若者について、警察の少年育成担当者と弁護士が協議し、更生プログラムを検討するケースなどが報告されています。

また、検察庁と弁護士会が定期協議会を開き、地域の事情に応じた再犯防止連携体制を協議する取組も行われています。このように、再犯防止は「犯罪者VS法律家」の対立構造を越えて、社会全体で元加害者を支える協働が模索されている分野と言えるでしょう。

私が実際に担当した方の中にも、アルコール依存症、薬物依存症、性依存症のように、再犯防止のために特別な措置を必要とする人は多くいました。そのような事件・被疑者と接した際に私は、警察官や検察官との対話・コミュニケーションを大事にしています。

このような人々を医療や専門的なケアにつなげていくには、弁護士一人の力では限界があるためです。さまざまな立場からの働きかけが重要になります。

たとえば、警察官は、社会復帰後の受け入れ体制の整備や、被疑者の家族への情報提供・注意喚起を担い、検察官は事件そのものへの影響を考慮します。弁護士は、今後の人生において更生が最も重要であることや、家族との関係調整などに取り組みます。

それぞれ異なる立場から被疑者・被告人に働きかけ、支援することで、同じ犯罪を繰り返させないためのセーフティネットを築く必要があります。そのために多くの人々が、たとえ警察官という立場であっても関与することは、決して不利益ではなく、むしろ不可欠なのです。

足立直矢弁護士

投稿者プロフィール

大阪大学法学部卒,軽犯罪から重大犯罪、経済犯罪や収賄事件に至るまで幅広く担当。情状弁護,再犯事件,非行少年の弁護にも注力。時には厳しいアドバイスをすることもあり、依頼者やその家族からの信頼は厚い。

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