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- 加害者側の弁護士と警察官が協力するケースも。示談と事件解決の実例紹介

前回の記事では、弁護士と警察がそれぞれどのような役割を担い、刑事手続きのなかでどのように関わり合っているのかをご紹介しました。多くの方が「対立する存在」とイメージしがちな両者ですが、実際には協力して動く場面も少なくありません。
ここからは、私自身が警察官や検察官といった捜査機関と協働し、「うまくいった」と実感できた具体的な事例についてお話ししていきます。
<目次>
弁護士が果たす役割は「示談の橋渡し」
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刑事事件・犯罪捜査の中で警察官と弁護士が協力するとすれば、弁護士が「被害者の代理人」となった時をイメージするのではないでしょうか。多くの場合ではその通りでしょう。弁護士は被害者の代理人として告発状や告訴状を作成し、捜査機関はそれを基に捜査を行います。
捜査の結果を踏まえて、弁護士は加害者に対して慰謝料などの損害賠償請求を行う…これはとても“スムーズな”事件の流れであり、被害者代理人である弁護士のモデルケースです。
一方、そうではなく、「加害者側の弁護士として」警察官と協働できる場合があるとしたらどうでしょうか。例として多いわけではないですが、いくつか事例を取り上げましょう
※個別の事案の特定にならないように、一部事実を改変しています
ケース① 示談したいけどできない?
ある男性が元交際相手の女性に対して、つきまとい行為を繰り返してしまい、警告処分を受けました。男性は真摯に反省して、相手に対して謝罪や示談をする意思がありました。一方、その女性も被害に遭って引越しなどをしたため、費用等の請求をしたいそうです。
男性が警察官に「相手に誠意を持って対応したいのだがどうしたらいいか」と聞くと、「ストーカー行為をしたのだから、相手との連絡を取り次げるわけがない」と言われてしまいました。
このような状況は、刑事事件ではよくあることです。加害者は示談を望んでおり、被害者も許すわけではないものの、弁償は受け取りたいと考えている。しかし、当事者同士で直接連絡を取ることはできない、あるいは取りたくないというパターンです。こうした場面こそ、弁護士の出番です。代理人として一方の当事者の立場で間に入り、冷静に話し合いの場を設けることができます。
被害者の方にも安心して話し合いに臨んでいただけるように、「あなたの個人情報やあなたが望まない事柄は、加害者に伝えないでいることもできる」とお伝えしています。また、警察官の方にも、「加害者代理人がどういう立場の人なのか」を丁寧に説明していただいています。弁護士はたとえ加害者側の代理人であっても、「被害者が適正な被害弁償を受けるべきである」という社会正義の意識を持って職務にあたっています。
警察との協力関係がもたらした円満な収束
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ケース② その被害届、本当に受理して良い?
ある方が取引先との契約トラブルから金銭賠償に発展。双方で賠償額について折り合いがつかず、最終的には一方が「詐欺にあった」と被害届を提出し、警察沙汰にまでなってしまいました。
このようなケースも、刑事事件としてよくある事例のひとつです(現職の警察官が苦笑いする様子が目に浮かびます)。通常、この種の案件では、警察も被害届を直ちに受理するかどうか、慎重に判断することになると思います。
本件では、「先生、警察に被害届を出されたんです」と言うことで私に相談があり、弁護人として依頼を受けました。当初私は、警察官が「被害届を受理してはいけないような事案なのに、事実を曲解して依頼者を犯人と決めつけている」のかと思い、早速、事情を確認しようと警察へ電話しました。
ところが、担当警察官の対応は私の予想とはまったく異なり、「先生、この被害届はどうしたらいいんでしょうか?」という反応だったのです。
詳しく話を聞くと、どうやら被害者の方が「詐欺取引だ!」と主張し、強く被害届の提出を求めてきたため、やむを得ず受理したようです。ただ、実際のところ内容はよく分からず、そもそも詐欺にあたるのかどうかも判断がつかず、警察としてもどう対応すべきか困っているとのことでした。
そこで私は、まず状況を整理する必要があると考え、担当の警察官に本件の経緯を伝えました。特に、刑事と民事の問題をきちんと分けて考える必要がある点を丁寧に説明しました。
その後は、警察官と私のあいだで役割を明確にし、それぞれの対応を進めることに。警察からは刑事事件としては扱えないとの判断が示され、私のほうでは民事上の責任として返金の意思を伝えました。こうして双方の立場が整理され、この件はひとまずの終結を迎えています。
もしあのとき、私が意固地になって「警察の対応は納得できない」と突っぱねていたら、あるいは警察官の側が「これは詐欺に違いない」と決めつけていたら、円満に収められるはずだったこの件も、余計に複雑になっていたかもしれません。
加害者側の弁護士は被害者を守る存在でもある
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本記事で紹介したいずれのケースも、私は加害者側の弁護士として対応にあたりましたが、決して警察官と対立していたわけではありません。むしろ、互いに協力的な姿勢で関わることができたからこそ、円満な形で終えることができたのだと感じています。
しかし、残念ながら一部の警察の方は「弁護士が就くってことは、何かやましい気持ちがあるんじゃないか」「うちは捜査中の事件について示談なんてさせません」という考えをお持ちのようです。
ぜひ一度考えていただきたいのですが、我々弁護士は(少なくとも私は)、被害者に対してなにか危害を加えてやろうなどと考えている者ではありません。ましてや、守秘義務と高度の職業倫理を背負っています。万が一、加害者に対して、ストーカー被害者の連絡先等を教えようものなら、一発で弁護士バッチが吹っ飛んでしまいます。
私は常々、示談交渉の場において「被害者にとっても利益になる場合がある」と考えています。これは決してポジショントークではありません。実際、ある意味では加害者と被害者の考えが一致している部分も存在します。しかし、刑事事件化してしまっているため、当事者同士を直接会わせることができず、接触も許されないという状況が生まれてしまっているのです。
「被害弁償は受けたい。でも、相手と直接会うのは避けたいし、自分で弁護士を立てるのも少し気が重い……」
そんなふうに感じている被害者の方にとって、加害者側の代理人弁護士の存在は、ある意味で“渡りに船”となるのではないでしょうか。弁護士を「加害者の味方=悪の手先」と決めつけず、少しだけでも話を聞いていただけたら嬉しいです。













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