日常に潜むネットの罠から身を守るには?愛知県警に聞くサイバー犯罪対策の最前線

愛知県警の建物

現代社会において、インターネットは私たちの生活に深く浸透し、その利便性は計り知れません。しかしその一方で、その光の裏側ではサイバー犯罪が巧妙さを増し、市民の財産や個人情報を静かに脅かしています。

こうした状況に対し、愛知県警は多角的なアプローチでサイバー犯罪対策に挑んでいます。専門的な技術を持つ人材の確保、一般市民への啓発活動、そして未来を担う若者たちの力を借りた新たな防犯活動など、その取り組みは広範に及びます。

今回は愛知県警職員に、大学生向けのイベント実施の背景から、サイバー犯罪の実態、そして未来に向けた展望について詳しく話を伺いました。

<目次>

サイバー犯罪の概要

東京報道新聞の取材でサイバー犯罪について話す愛知県警職員

現代を生きる人々にとって必要不可欠ともいえるインターネットやデジタル技術。しかし、その利便性の裏側で、サイバー犯罪は巧妙化し、私たちの日常を脅かす存在となっています。愛知県警も、日々寄せられるサイバー関連の相談に追われ、その対策に頭を悩ませているそうです。

増加し続ける警察への相談件数

愛知県警には、インターネットを通じた詐欺や悪質商法に関する相談が後を絶ちません。令和4年には約14,000件、令和5年には約12,000件、令和6年も同程度の相談が寄せられており、そのうち5,000〜6,000件が悪質商法に関するものです。相談内容の多くは、「インターネットで注文した商品が届かない」「購入先が偽サイトだった」といった典型的な詐欺事案が中心です。

警察はこれらの相談を受けると、該当サイトのURLを警察庁に報告し、警察庁からセキュリティ会社へ情報が提供されます。セキュリティ会社は、一般利用者がそのサイトにアクセスできないように、注意喚起の表示をしたり、閲覧しにくい状況にしたりといった対策を講じています。

こうした相談件数が増加した背景には、コロナ禍で自宅にいる時間が増え、インターネット利用が浸透したことが背景にあると推測されます。しかし、詐欺サイトの多くは海外にサーバーがあるため、国際照会が必要となるなど、摘発のハードルが高いのが現状です。

若者だけがターゲットではない闇バイト

東京報道新聞の取材で闇バイトについて話す愛知県警職員

実は「闇バイト」は若者だけの問題ではありません。30代、40代、さらには80代の高齢者まで、金銭的な困窮につけこまれ、幅広い年代の人々がターゲットとなっています。実際には自身の口座を売却させられたり、詐欺事件の「受け子」として被害者から現金を受け取りに行かせられたりするケースが確認されています。

安易な気持ちで闇バイトに応募してしまうと、多額の報酬を約束されても、実際にはほとんど支払われず、交通費しか支給されないというケースも珍しくありません。​​さらに深刻なのは、一度応募してしまうと、犯罪組織に個人情報を握られ、脅迫によって辞められなくなる危険性があることです。

また現場で突然、強盗などの凶悪な犯罪行為を強要されることもあり、応募者が知らず知らずのうちに重大な犯罪の加害者になってしまう例も発生しています。警察は、闇バイトへの応募は絶対に避けるべきだと強く警告をしています。少しでも怪しいと感じた場合は、自分で判断せず、すぐに周囲の人や警察に相談することが大切です。

日常に潜むフィッシング詐欺

フィッシング詐欺は、大手企業や金融機関、ショッピングサイトなどを装った偽のメールやSMSを通じて偽サイトへ誘導し、IDやパスワード、クレジットカード情報などの個人情報を騙し取る手口です。一度、これらの情報が詐欺グループに渡ると、ダークウェブなどで売買され、不正送金や不正利用といった被害に発展します。残念ながら、盗まれた情報は取り戻すことが非常に困難なのが現状です。

この手の詐欺は年齢層に関係なく、誰もが被害に遭う可能性があります。偽サイトは年々巧妙化しており、本物と見分けがつかないケースも多いため、利用者一人ひとりの注意が欠かせません。

警察は、フィッシング詐欺から身を守るためのポイントとして、以下の2点を強調しています。

1.メールやSMSに記載されたリンクは安易にクリックしない
最近では、金融機関でさえ直接リンクを貼って個人情報を要求することはほとんどありません。不審な場合は、公式サイトを自分で検索してアクセスする習慣を持つことが重要です。

2. パスワードを使い回さない
万が一、どこかから情報が漏洩しても、他のアカウントへの被害拡大を防ぐことができます。日頃からこれらの点に注意し、自身の情報管理を徹底することが、詐欺被害から身を守るうえで極めて重要です。

サイバー犯罪を防ぐための愛知県警の取り組み

愛知県警

巧妙化するサイバー犯罪に対し、愛知県警は多角的なアプローチで対策を強化しています。捜査能力の向上はもちろんのこと、一般市民への啓発活動や、若者たちの力を借りた新たな防犯活動にも注力しています。

専門的技術を持った人材の積極採用

現代の犯罪捜査において、スマートフォンやパソコンなどのデジタルデータの解析は必要不可欠です。脅迫や強要、ストーカー事件、さらには交通事故に至るまで、多くの事件でデジタル解析が求められます。しかし、通常の警察官だけでは、高度化する解析ニーズに対応しきれないという課題があります。

そこで愛知県警は、平成25年から「情報技術区分」という、デジタル解析に特化した専門職員の採用を積極的に進めてきました。現在、愛知県内には56名の職員が在籍し、スマートフォンやパソコンの解析、壊れた動画の修復など、多岐にわたる専門業務を担っています。

たとえば教師がインターネット上で不適切な動画を共有していた事件や、カンボジアでの闇バイト詐欺の一斉取り締まりで押収された90台ものスマートフォンの解析など、県内で発生する多くの刑事事件の根幹を支えています。

一般市民に向けた啓発活動

愛知県警は、サイバー犯罪から市民を守るため、さまざまな啓発活動を展開しています。そのひとつが、「イベントの開催」です。

たとえば、地元のスポーツチームと協力し、試合会場で来場者向けにチラシを配布したり、チームのSNSで防犯情報を発信してもらったりと幅広い層へ啓発を行っています。また小学校へ赴いて授業を行う際には、子どもたちが飽きないようにすごろく形式の教材を使うなど、楽しく知識を身につけられる工夫も凝らしているそうです。

さらに、企業からの要請に応じて、社員や顧客を対象としたサイバー講話を実施したり、中小企業向けには「サイバー防犯診断」を提供したりしています。これは、企業のセキュリティ担当者からヒアリングを行い、システムの脆弱性や対策状況を診断したうえで、具体的な改善点をアドバイスする取り組みです。

県内大学生を対象としたイベント実施の背景

愛知県警には、平成24年2月から県内の大学生を対象とした「大学生サイバーボランティア」制度を設けており、現在14大学から約140名が登録しています。当初は、防犯イベントの補助や小学校での防犯講話の手伝い、広報資料の作成などが主な活動内容でした。しかし、大人数のボランティアを有効に活用しきれていないという課題も抱えていました。

一方で、県民からの詐欺サイトに関する相談は年間10,000件以上にものぼり、警察庁への報告を通じて、セキュリティ会社による閲覧防止措置が取られていました。そこで、「詐欺サイトを見つける」という活動であれば、多数のサイバーボランティアの力を最大限に生かせるのではないかと考え、新たに「SCAM WEBSITE DISCOVER CHALLENGE~詐欺サイトを探し出せ~」というイベントを企画しました。

このイベントでは、競技形式を取り入れることで、学生たちのモチベーションを高め、より多くの詐欺サイトを発見・報告してもらうことを目指しています。初めての試みであったこともあり、学生たちに詐欺サイトの見つけ方をどのように伝えるかという点では試行錯誤もありました。

しかし、蓋を開けてみれば、予想をはるかに超える反響があり、学生たちは教えられた方法だけでなく、自ら効率的な発見方法を編み出すなど、非常に高い熱意で取り組んでいたそうです。このイベントは、サイバーボランティアの新たな活動の可能性を広げるとともに、警察が市民と連携してサイバー犯罪に立ち向かううえで、大きなヒントを与えてくれる取り組みとなりました。

今後の展望

サイバー犯罪は、今や警察業務全体と切り離して考えることのできない分野となっています。愛知県警ではこうした認識のもと、今後さらにサイバー対策に注力していく方針です。

組織全体としては、人材の確保と全体のレベルアップが喫緊の課題であり、情報技術部門の職員を増やすだけでなく、全ての警察官がサイバー関連の基礎知識を身につけることも重要だと考えています。

そして愛知県警は、2025年4月に「サイバー局」を新設しました。これは、サイバー事案の重要性を県警として極めて重く受け止めている証拠です。新しい情報技術への対応や積極的な人材育成を図り、組織全体のサイバー対応力を高めていくことこそ今後の大きな目標なのだそうです。

愛知県警は、悪質な犯罪をひとつでも多く検挙し、「安心して暮らせる安全な愛知」を実現していくことが与えられた使命だと捉えています。また、一般市民がサイバー犯罪の相談窓口の存在をもっと気軽に知れるよう、情報発信力もさらに強化していく必要性を感じています。

<TEXT/小嶋麻莉恵>

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