“協力”と“緊張”が同居する。弁護士と警察の関係を読み解く

“協力”と“緊張”が同居する。弁護士と警察の関係を読み解く

前回の記事では、弁護士と警察がそれぞれの立場でどのような役割を担い、刑事手続きのなかでどのように関わり合っているのかをご紹介しました。多くの方が「対立する存在」と捉えがちな両者ですが、実際には協力しながら事件の解決に向けて動く場面もあります。

今回は、私が実際に警察官や検察官といった捜査機関と協働し、「うまくいった」と実感できた具体的な事例を取り上げます。示談交渉や被害届対応など、刑事事件の現場で弁護士が果たす役割を、リアルなケースを通してお話しします。

<目次>

少年事件での連携と役割分担

家庭裁判所

少年事件(少年犯罪)においても、警察官と弁護士の関わりには大人の刑事事件とは異なる特徴があります。20歳未満(18歳以上の場合は例外アリ)の非行少年事件では、原則として家庭裁判所が保護処分を決定する少年審判の手続に付されます。その過程で、警察官・検察官・家庭裁判所・弁護士が連携して少年の更生と保護を図ります。

警察官は非行の発覚時に捜査を行い、必要に応じて少年を逮捕・補導して事件を家庭裁判所に送致します。全国の各警察署では少年事件の捜査を担当する部署として「少年係」等が設置され、児童相談所や学校とも連絡を取りつつ、再非行防止のための働きかけも行います。地元の警察署の警察官が、小中学校で「防犯教室」などの授業を行うこともあるでしょう。

各都道府県の警察署では「少年サポートセンター」など相談窓口が設けられ、事件に関する相談や、補導歴のある少年やその保護者にカウンセリングや指導を提供しています。これら警察の取り組みは、治安維持というより少年の立ち直り支援に重点が置かれています。

一方で弁護士(付添人)の役割も重要です。少年には家庭裁判所での審判手続において弁護士の援助を受ける権利が認められています。重大事件では、国選付添人制度(国費で弁護士を付ける)が利用できますし、身柄拘束(観護措置)中の少年には「当番付添人」制度も用意されています。付添人弁護士は、審判に臨む少年やその保護者らに代わって裁判所と交渉や調整を行い、少年に有利な処遇を引き出すために尽力します。

警察官としても、少年事件では福祉的観点を重視する必要があるため、弁護士からの申入れに耳を傾け、少年や保護者との面会調整などで協力する姿勢が求められます。また、少年事件では「チーム支援」の考え方が広がっています。地域の少年サポートセンターのメンバー(少年補導員や心理職)と弁護士が情報交換し、非行の背景に家庭問題や学校でのいじめ等がある場合は関係機関と協働で解決策を探ることもあります。

たとえば、学校内暴力のケースで、スクールロイヤー(学校顧問弁護士)と警察署の少年係が連携し、被害生徒のケアと加害生徒の指導方針について学校と協議するといった実践例があります。少年法の理念は「あくまで少年の矯正と健全育成を図ること」ですから、警察も弁護士も「非行を憎んで人を憎まず」の精神で、将来ある少年の立ち直りに向け協力することが理想とされています。

両者の関係性における課題と対立点

取調室のライト

上述のようにさまざまな場面で協力関係が見られる一方、警察と弁護士の関係には伝統的に対立や緊張も存在します。とりわけ刑事弁護人(被疑者・被告人の弁護をする弁護士)と捜査機関である警察官は、個別の事件においてしばしば真っ向から対立する立場になります。本稿の趣旨からやや逸脱するかもしれませんが、「警察」―「弁護士」という対立軸について少しお話しします。

警察官は「事件の真相解明と犯人検挙」という使命の下、被疑者から自白を引き出そうとします。一方で刑事弁護人は「依頼人の権利と利益を守る」ため、不利益な供述はさせず証拠の合法性を精査し、依頼人が不当に有罪にされないよう奔走します。この構造上、取り調べ室では警察官vs弁護士(実際には警察対被疑者)の攻防が繰り広げられることになり、しばしば緊迫した関係になるのは避けられません。

特に問題となりやすいのが取調べの在り方です。日本の刑事手続では長年、密室の取調べにおいて警察官が被疑者を半ば脅しながら自白を迫り、弁護士はその場に立ち会えないという構造が続いてきました。このため、取調べ中に警察官が被疑者に暴言を吐いたり、嘘の情報を与えて誘導尋問をしたりする不適切な事例が過去に指摘されています。

近年立て続いている再審無罪事件や冤罪事件等を見ても,警察官や検察官が都合の悪い証拠について目を瞑り、自分たちが思い描いた事件の全体図に固執してしまい、無実の市民に自白させていたということが明らかになっています。一部の裁判例では、当時の警察に対する痛烈な批判も述べられています。判決の中で裁判所が捜査機関を批判することは極めて異例なことです。

弁護士から見ると「供述の任意性(自由意思によるものか)が疑わしい」場面でも、警察はしばしば強引に取調べを続けようとするため、双方の主張が衝突します。実際、弁護士を対象としたある調査では、6割以上の弁護士が「依頼人に対する警察の取調べに不満を感じたことがある」と答えており、その理由として「高圧的な態度・暴言」「誘導的な取り調べ」「弁護士と依頼人の信頼関係を揺さぶる発言」などが多数報告されています。

たとえば、ある弁護士は警察官から被疑者に対し「弁護士は責任取らないぞ」と言われたケースを挙げています。これは「どうせ弁護士に従って黙秘しても、困るのはお前(被疑者)だ。弁護士は何もしてくれない」と被疑者を脅し、自白を引き出そうとするもので、弁護士と依頼人の信頼関係を損ねる常套手段です。このような手法は弁護士からも強く批判されており、警察内部でも不適切な取り調べとして問題視されています。

また、証拠開示や捜査情報の取り扱いでも対立があります。従来、日本の刑事裁判では検察側が「自分たちが持っている証拠を、どこまで弁護側に開示するか」を決めることができ、「検察による証拠隠し」が自由にできてしまうような状況でした。弁護士会は長年これに異議を唱え、全面的な証拠開示を要求してきました。

その結果、2005年の刑事訴訟法改正で公判前整理手続が導入され、裁判員裁判のような重大事件などについて、検察官の手持ち証拠の一覧開示や、重要証拠の開示が義務付けられるようになりました。

警察は、証拠開示の拡大によって捜査協力者の身元が明らかになったり、捜査手法の秘匿性が損なわれたりするおそれがあることから、これまで慎重な立場を取ってきました。しかし現在では、「適正な開示は公正な裁判のために必要である」との認識が広まりつつあります。

このような証拠開示(ディスカバリー)は欧米の刑事裁判では当たり前のことですが、日本の刑事司法ではまだまだ不十分です。弁護士としても「検察官は有罪のための証拠しか出さず、不利な証拠(無罪を裏付ける証拠)は隠しているのでは」と疑念を感じるような場面もあり、この点ではやはり対立関係は続いていくでしょう。

さらに、制度への見解の相違もあります。たとえば「取り調べへの弁護人立ち会い制度」をめぐっては、日弁連(日本弁護士連合会)が欧米にならって導入を求めていますが、警察側は「捜査に支障が出る」「真相解明が困難になる」と反対しています。これも「個人の人権重視」の弁護士と「犯人検挙」の警察官という立場の違いによる対立点と言えるでしょう。

なおがき〜困った依頼人たち〜

依頼人と話す弁護士

弁護士と警察官との「協働」といえるのか微妙なケースですが、少し「困った」人たちを紹介します。

ある万引き事件で、犯人として疑われている方から依頼を受けました。その方は警察官の取調べでも「自分はやっていない」と主張しているのに、警察官はまったく聞き入れてくれないというのです。どうやら、すでに警察官の取調べでも相当揉めている(話がうまくかみ合わない)様子でした。

「さてどうしたものか」と思い、ひとまず私は担当の警察官と話をしてみることにしました。本人が「やっていない」と否認している事件ですから、警察官としても“戦闘モード”になっているのではないかと考えていたのですが、実際に話してみると、意外にもさまざまなことを率直に語ってくれました。詳細は割愛しますが、警察官から聞いた話の限りでは、“ほぼ黒”といっても差し支えないようなものでした。

さらに私は「はたまた,どうしたもんか」と思い、依頼者と再度話してみました。

私「担当警察官と話してみました。警察としては○○や××の証拠を押さえているようです。これらの証拠に立ち向かっていくためには今後の取調べで…」

依「そうなんですか?いや~そこまでわかっているんだったらさっぱり全部認めるのに、無駄に突っ張っちゃったなぁ~」

後日、同じ警察官と話した際に、「この前、先生とお話ししてから○○さん(依頼者)の取調べがえらくスムーズになったんですよ、どうも」と、あまり嬉しくない感謝の言葉をいただくことになりました。

別に、私は警察官のためにアドバイスをしたつもりはありません。そもそも、不合理な弁解を続けることが本人の利益にならない場合もあります。実際、私の目から見ても、「もっとこういう点を取り調べで聞けばいいのに」「こう聞けばうまく話が引き出せるのに」と思うことはあります。

考えてみると皮肉な話ですが、弁護士としての経験や視点というのは、突き詰めていくと、警察官や検察官のそれと似てくるのかもしれません。

足立直矢弁護士

投稿者プロフィール

大阪大学法学部卒,軽犯罪から重大犯罪、経済犯罪や収賄事件に至るまで幅広く担当。情状弁護,再犯事件,非行少年の弁護にも注力。時には厳しいアドバイスをすることもあり、依頼者やその家族からの信頼は厚い。

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