“たらこ唇”が好きなのは女性だけ!? 唇のボリュームと魅力に関する心理学研究

“たらこ唇”が好きなのは女性だけ!?

“ふっくら”した唇、“ぼってり”した唇、もっと言えば、“たらこ唇”になりたいと望む女性は案外多いようだ。女性のメイクにおいても唇は目元や眉毛と並ぶ重要なパーツだが、新たな研究では唇の形状の魅力が検証されている。男性の目から見ると女性のコスメ商品はある意味では奇々怪々(!?)でもあるのだが、その中でも特に奇異なコスメが「リッププランパー」である。

<目次>

ふっくらした唇は女性の間で好まれていた

女性の間で好まれていたふっくらした唇

リッププランパーとは唇をふっくらとさせるためのリップ製品で、ヒアルロン酸やカプサイシンなどの成分が配合されており、唇のボリューム感がアップし、ツヤとハリも向上すると謳われている。保湿効果もあるため口紅の下地や、リップクリームの代わりとしても使用できるということだ。

唐辛子に含まれるカプサイシンが含まれたリッププランパーは、驚いたことにカプサイシンで皮膚を刺激し、腫れるメカニズムを利用して唇を大きくすることを意図しているという。そのため使用者の中から唇の痛みやかゆみ、赤み、皮むけなどの症状も報告されているようだ。リッププランパーは肌の弱い人には注意が必要なコスメのようである。

唇を腫れさせてまでふっくらと見せたいのは、やはりそれだけふっくらした唇になりたい女性が多いからだろう。その中には唇の美容整形に踏み切る女性も少なくない。

顔の魅力にとって唇はどれほどの地位を占めているのか。新たな研究では唇という局所的な顔のパーツが女性と男性の顔の魅力の認識をどのように変えているのかを実験を通じて検証している。

シドニー大学とクイーンズランド大学の研究チームは、今年8月に『Proceedings of the Royal Society B』で研究成果を発表した。唇という局所的な特徴のみを操作することで、顔全体の魅力度評価が変化するかどうかを検証する一連の実験が行われた。

第1段階の実験では、まず男女それぞれ12人ずつ、計24人の無表情の顔画像が用意された。研究チームはそれぞれの顔画像の唇のサイズをデジタル画像加工技術で拡大または縮小することで、7つのバージョンを作成。さまざまな唇のサイズに加工された計168種類の顔画像を、32名の実験参加者(男性16人、女性16人)がそれぞれごく短時間視聴し、魅力度を評価した。

回答を分析した結果、性別に基づく明確なパターンが見られた。平均すると、女性の顔は「唇がわずかに膨らんでいるとき」が最も魅力的であると評価された。一方で、男性の顔は「唇がわずかに縮小しているとき」が最も魅力的と評価された。これらの結果は、顔の特徴が男性らしさや女性らしさと関連し、それが美の認識に影響を与えるという従来の考え方と一致している。

研究チームはその後、男性と女性の参加者の評価を分けてデータを分析し、男女の好みの違いをより詳細に検証した。女性の顔において、よりふっくらとした唇への好みは、ほぼ完全に女性参加者によって決定されていた。つまり唇がふっくらした女性が好きなのは女性であり、唇をふっくらさせるのは決して“男ウケ”を狙ってのことではないのだ。

女性参加者は、唇を膨らませた女性の顔に高い評価を与えているのだが、一方で男性参加者は女性のふっくらとした唇への有意な好みを示さず、唇の大きさを変えていない無修正の女性の顔に最も高い評価を与える傾向があった。

男性の顔にも同様の効果が見られ、男性の顔において唇が薄いことへの好意は男性参加者において最も強く見られた。また男女共に同性の顔に対してより高く、より一貫した評価を与える傾向があり、これは、同じ社会集団に属する人々を評価する際の合意度や精度が高いことを示唆している。

最初に長く見た顔画像で“美の基準”が再設定される

適度にふくらんだ唇

2つめの実験では変化した唇を見せることで、人の魅力の認識が変化するかどうかが検証された。この実験では特定の画像を長時間見続けることで、その後の認識が一時的に変化する現象である「視覚順応(visual adaptation)」と呼ばれる手法が用いられた。

参加者は最初に、適度に唇が膨らんだ顔画像、または適度に唇が薄い顔画像のいずれかを15秒間見せられた。続いて、7種類の唇サイズの顔画像をすべて見て、それぞれの魅力度を評価した。

結果は、非常に強い視覚順応効果を示していた。最初にふっくらした唇の顔画像を見た参加者は、総じてふっくらした唇を持つ顔をより好むようになっていた。同様に、最初に薄い唇の顔画像を見た参加者は、その後、薄い唇を持つ顔を好む傾向が見られた。つまり、魅力的な唇の大きさに関する脳内の基準が、最初の視覚体験によって再調整されたのである。

この効果は、最初に見せられた顔画像と評価対象の顔画像が同一人物である場合に最も強く現れた。一方で、異なる人物の場合にも、その傾向は統計的に有意に見られた。これは、視覚順応がさまざまな顔に一般化され、より広範な魅力認識に影響を与える可能性を示唆している。

人の外見は社会的な交流において重要な役割を果たしているが、脳が魅力を判断する際の正確なプロセスは完全には解明されていない。多くの科学的モデルは、我々は顔を個々のパーツの集合体としてではなく、顔全体を総合的に認識していることを示唆している。

しかし現実世界では人々、特に女性は化粧、美容整形、あるいは注入治療などで局所的な顔のパーツの魅力向上にフォーカスしがちである。この一見矛盾する現象を検証するために、最後の実験では顔の印象が脳内で全体的に処理されているのかどうかを検証するために計画された。

唇にも醜形障害のリスクがある

唇をチェックする女性

研究チームは、唇を顔全体の文脈から切り離して評価するために、唇のみを露出させ、その他の部分をマスクで覆った一連の顔画像を用意し、参加者にそれらを評価させた。

その分析の結果、唇だけへの視覚的な順応であっても、その後の顔全体に対する魅力の評価が変化する可能性があることが明らかになった。この結果は、顔が一体として処理されるという従来の考え方に一石を投じるものであり、脳が唇のような個々のパーツを独立して処理できること、さらにそのパーツの特徴が顔全体の魅力判断に影響を及ぼし得ることを示唆している。

研究チームはこの視覚順応のメカニズムは、感覚系が環境に適応する意味で有効であるものの、現代社会においては意図しない結果をもたらす可能性があると指摘する。

「生物学的限界を超えて人工的に拡大された歪んだ唇を目にすると、適応した観察者にとってはよりふっくらとした唇へのさらなる拡大のみが魅力的であると認識されるという反復的なプロセスが開始される可能性がある」(研究論文より)

つまり、よりふっくらした唇へと好みがエスカレートする可能性があるのだ。これは最終的に唇への醜形障害(ディスモルフィア)へと発展するリスクを孕む。

醜形障害の代表的な例は、メディアなどでスリムな人物の体型を頻繁に目にすることで、標準体型の基準が極端に変化してしまう身体醜形障害(Body dysmorphic disorder、BDD)である。つまり若い女性の“痩せ過ぎ問題”だ。

今回の研究は、このような視覚的な適応現象が身体全体だけでなく、顔の個々のパーツにも当てはまる可能性を示唆している。たとえば、美容整形手術によって外見が変化すると、本人の魅力に対する認識もその新たな外見に適応し、それがさらなる変化を求める動機となり、整形を繰り返す一因となることが考えられる。実際に、唇のボリュームを増す施術を複数回受ける女性も見られる。

「美容整形がより身近になるにつれ、こうした介入がどのように私たちの認識を形成し、非現実的な美の基準につながる可能性があるかを理解することが重要です」と、研究チームのデイヴィッド・アレイス氏は、心理学メディア「PsyPost」で説明する。

今後の研究ではこの適応プロセスの長期的な影響と、それが潜在的な身体醜形障害にどのように寄与しているのかを探ることが思い描かれているという。ふっくらした唇がいくら魅力的であったとしても「過ぎたるはなお及ばざるが如し」の視点を忘れてはならないのだろう。

※研究論文
Distortions of lip size bias perceived facial attractiveness
※参考記事
Surprising finding emerges from psychology study on lip size and attractiveness

仲田しんじフリーライター

投稿者プロフィール

雑誌編集者などを経て1999年よりフリーライターとして活動。現在はweb媒体がメイン。サイエンスからオカルトまで幅広いテーマで執筆。ネット上の研究論文を読むのが趣味。大型自動二輪免許を持っている。

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