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- 銀杏7個でも中毒に?致死率25%の「銀杏中毒」の危険性

秋の味覚として、茶碗蒸しやおつまみなどで親しまれている銀杏(ギンナン)ですが、美味しさとは裏腹に、ときに命に関わる重篤な中毒を引き起こす可能性があることをご存知でしょうか。
この記事では、なぜ銀杏で中毒が起きるのか、どのような症状が出るのか、そして「〇個なら安全」という明確な基準が存在しない理由について、詳しく解説します。
【銀杏中毒とは?】主な症状と発症までの時間
銀杏中毒とは、銀杏の実(種子)を食べ過ぎることによって引き起こされる中毒症状の総称です。公益財団法人⽇本中毒情報センター中毒110番には、2013年から2022年の10年間で、銀杏中毒を心配する相談が281件寄せられています。相談は、銀杏が旬を迎える10月〜12月に集中しており、約7割が5歳以下の子どもでした。なかには、嘔吐やけいれんといった症状がみられた例も報告されています。
主な症状は、食べてから1~12時間程度(多くは6時間以内)で現れ、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状のほか、めまい、けいれん、呼吸が早くなるなどの症状が出ます。対処が遅れると死亡するケースもあり、これまでの報告では致死率は約25%ともいわれている状況です。
【銀杏中毒のメカニズム】子どもは要注意
銀杏中毒は、銀杏に含まれる毒性成分によって引き起こされます。この成分は、私たちの体内で重要な働きをするビタミンの作用を妨害してしまいます。
①ビタミンB6欠乏を引き起こす毒性メカニズム
銀杏中毒の原因物質は、「4′-メトキシピリドキシン(MPN)」(別名ギンコトキシン)という有毒成分です。
MPNは、私たちが活動するために不可欠なビタミンB6にとても似た構造をしています。そのため、体がMPNをビタミンB6と間違えて取り込んでしまい、ビタミンB6の本来の働きを阻害してしまいます。結果として、ビタミンB6欠乏症と同じ状態に陥るのです。
ビタミンB6が不足すると、脳の興奮を抑える神経伝達物質GABA(ギャバ)が作れなくなり、脳の興奮を抑えられなくなります。脳の過剰な興奮が、重篤な銀杏中毒の症状であるけいれんとして現れるのです。
MPNは熱に強いため、炒ったり茹でたりといった通常の加熱調理をしても、毒性はなくなりません。
②「何個まで安全」という基準はない
「銀杏は何個までなら安全ですか?」という質問をよく受けますが、結論から言うと「医学的・科学的に確立された安全な摂取は存在しない」というのが答えです。「年齢の数まで」や「大人なら〇〇粒」といった俗説を耳にすることがありますが、何の科学的根拠もない経験則に過ぎません。
中毒の起こりやすさには大きな個人差があり、特に子どもは感受性が高く、極めてリスクが高いといえます。日本中毒情報センターの報告では、5歳以下の子どもが6~7個食べただけで、けいれんが出現した例も把握しているとのことです。また、偏食や酒の多飲などで慢性的にビタミンB6が不足している人や、抗菌薬の服用などで腸内細菌のバランスが崩れ、体内での生成量が減っている人も、発症リスクが高いと考えられます。
小児では7個以上、成人では40個以上の摂取で発症するという報告もありますが、あくまで経験則に基づいた目安であり、これ以下なら安全ということではありません。
銀杏中毒の治療と家庭でできる予防策
銀杏中毒は、ビタミンB6の欠乏によって引き起こされるため、病院での治療法が確立されています。しかし、最も重要なのは未然に防ぐことです。
①【銀杏中毒の治療】けいれんが起きたときはすぐに救急車を呼ぶ
銀杏中毒が疑われる場合、病院では原因物質(MPN)によって欠乏したビタミンB6(ピリドキシン)を点滴で投与する治療が行われます。もし、家族や自身が銀杏を食べた後(特に12時間以内)にけいれんを起こした場合は、ためらわずにすぐに救急車(119番)を呼んでください。
救急隊や医師には、診断と治療のために「銀杏を食べたこと」、そして可能であれば「いつ頃、どれくらいの量を食べたか」を正確に伝えてください。
けいれん中は、安全な場所に寝かせ、衣服を緩めます。嘔吐による窒息を防ぐため、顔(体)を横向きにしてください。けいれんを止めようと、無理に口の中に物や指を入れるのは危険ですのでやめましょう。
②家庭でできる銀杏中毒の予防策
家庭では、子どもには極力食べさせないようにしましょう。特に5歳以下の乳幼児は感受性が高いため、与えないのがおすすめです。
また、大人であっても、一度に大量に食べるのは避けてください。美味しくても節度を持ち、適量を楽しむことが大切です。
【小児科医から】銀杏は適量を守って、食べよう
銀杏中毒は、秋の味覚に潜む危険な中毒であり、致死率が25%ともいわれる見過ごせない健康リスクです。原因は、ギンナンに含まれるMPNという毒素が、体内のビタミンB6の働きを阻害し、脳の興奮を抑えられなくなることで「けいれん」を引き起こすためです。なお、銀杏中毒ではビタミンB6製剤の注射薬を使用します。しかし、ビタミンB6製剤は非常に安価な薬剤ですが、ビタミンB6欠乏症以外に使用しないため、在庫が期限切れで廃棄になってしまうことがほとんどで、在庫がない病院も多いです。
筆者の勤務する病院では、筆者の専門診療領域が小児神経疾患であるため、「ビタミンB6依存性けいれん」の診療経験があり、常に在庫があるのが経営状況がどの病院も苦しいなかでむしろ珍しい状況です。
銀杏に「何個まで安全」という基準はなく、特に子どもには危険なため、注意する必要があります。
いずれにしても銀杏は適量を守り、節度をもって楽しむことが大切です。万が一、食後に体調の異変を感じたら、すぐに医療機関を受診するようにしてください。
参考文献
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2.内閣府.食品安全委員会. 香港食物環境衛生署食物安全センター、イチョウの実中毒に関する報告を公表
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8.Wada K, et al:An antivitamin B6, 4’-methoxypyridoxine, from the seed of Ginkgo biloba L. Chem Pharm Bull (Tokyo), 33:3555-3557, 1985
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11.山陰放送.ギンナン中毒「結構死ぬ…死亡率は約13%」小さな子どもは特に…医師が「食べ過ぎ注意」呼びかけ 昔は「年齢の数以上ギンナンを食べるな」
12.北海道医療大学. 銀杏(ぎんなん)食中毒とは
13.日本赤十字社.けいれん

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について」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)-150x112.png)











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