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- 野生のシャチにも“サービス精神”があるのか?シャチが人間に見せる驚きの行動とは

シャチは高い知能を持ち、水族館の人気者として人々を魅了してきた。その一方で、近年は国内外で飼育やショーのあり方が見直され、思いがけない研究結果も発表されている。私たちが知っている以上に、シャチには不思議な一面があるのかもしれない。本記事では、そんなシャチをめぐる興味深い現実を追ってみたい。
<目次>
日本国内にオスのシャチがいなくなる
欧米で根強い反捕鯨運動だが、捕鯨に反対する根拠としてクジラやイルカの知能の高さがあげられている。動物が視覚的な自己認知の能力を持っているかどうかを確かめるテストである「ミラーテスト」に類人猿と並んで、イルカとシャチが合格している。とすればイルカやシャチは確かに高知脳なのだろう。
エンターテインメントの分野でもご存知のようにイルカやシャチは水族館の人気者であり、芸を教えても呑み込みが早いことでも知られている。千葉県の水族館「鴨川シーワールド」でもシャチのショーは人気で、閉館後の水族館で行われる特別プログラム「シャチプレミアムプラン」もあり、シャチへの給餌体験や記念撮影などが楽しめるということだ。

一方で、名古屋港水族館で飼育されていた国内唯一のオスのシャチ「アース」が死亡したこともニュースになった。アースは鴨川シーワールドで生まれ、2015年から名古屋港水族館で飼育されていた。体長6メートル、体重3.7トンで、国内で最大級のシャチとして人気を集めていたが、残念ながら2025年8月3日に16歳で死亡した。
名古屋港水族館ではシャチのダイナミックなジャンプや、力強い泳ぎなどを観察できるシャチの公開トレーニングが人気であったが、アースの死後はトレーニングは中止されている。同館所属のメスのシャチ「リン」はシャチプールで観覧できる。
アースの死は別の意味でも波紋を呼んでいる。オスのアースの死によって、現在、日本国内のシャチはメス6頭のみとなったのだ。これはすなわち、現状では国内でシャチの子供は生まれてこないことになる。
どこからかオスのシャチを連れてこなければならないのだろうか。可能性としては人工繁殖を前提に海外からの精子提供も検討されてくるが、しかしこの件については一筋縄ではいかない状況にあるようだ。
イルカ・シャチのショーを禁止する動きは世界的に広まっており、たとえばメキシコでは2025年6月にイルカショーなど海洋哺乳類を使った見せ物を禁止する法案が可決され、フランスでは2026年12月からイルカ・シャチのショーを禁止する法律が施行される予定である。
海外では、飼育下のイルカやシャチをサンクチュアリ(海域を利用した保護区)に解放する動きがあり支持を得ている。ずっと水族館で育った個体は独力でエサを捕食することが難しいため、そのまま海に放つことはできない。しかし、人間の管理下にありながらもより自然に近い広い海域で動物たちを保護するサンクチュアリで過ごさせるという選択は、確かに無難な措置のように思える。
昨年に閉園したフランスのシーワールド「マリランド」で飼われていたシャチが日本へ送られる計画も一度は検討されたが、高まる動物保護の観点から中止されている。
こうした世の流れを受けて、日本国内での繁殖のためにオスのシャチを新たに飼育するのかどうかはかなり微妙な判断になりそうだ。日本では今のところイルカやシャチのショーを禁止する動きはないが、こうしたことから徐々に下火になっていくのかもしれない。
イルカやシャチに自己顕示欲と“サービス精神”がある!?
イルカやシャチのショーが一部からよく思われないのは、それが“見世物”であるからだという言い分もあるだろう。イルカやシャチが調教によってショーへの出演を強要され、搾取されているのだとすれば確かにその通りだ。
では彼らにとってショーは“苦役”なのだろうか。筆者も何度か水族館でイルカショーを見物したことがあるが、当然だがイルカが“苦役”として、嫌々ながら演目を行っているようには見えなかった。むしろこれ見よがしに健全な自己顕示欲を満たしながら、得意げにジャンプをしているようにも見えることもあったと思う。
エンターテインメントと非人道的な“見世物”の違いは、出演者が望んで演じているかどうかにもあるが、エンターテイナーであるということは、ある種の自己顕示欲を満たしている一面もあるだろう。
自己顕示欲の前提にあるのは他人の目であり、広い意味では他者に影響を及ぼして関係性を育む意欲がその根底にあり、そのひとつに“サービス精神”もあるだろう。
ショーのイルカやシャチにはある種の自己顕示欲と“サービス精神”があるようにも見えなくはないがいかがだろうか。もしそうであればイルカショーは決して動物の搾取ではなく立派なエンターテインメントということにもなる。

野生のシャチが人間に見せる驚きの行動
興味深いことに最近の研究により、シャチに“サービス精神”があるかもしれないことが示唆されている。なんと、野生のシャチが人間にエサを与えてくれるというのだ。
カナダ、ニュージーランド、メキシコの合同研究チームが2025年6月に「Journal of Comparative Psychology」で発表した研究では、驚くべきことに野生のシャチが人間にエサを差し出す様子が繰り返し目撃されていることを報告している。シャチは人間との間に何らかの関係を築こうとしているのだろうか。
研究チームによれば、米カリフォルニアからニュージーランドの海域からノルウェーやパタゴニアに至るまでの世界中の海で、シャチが水中、船上、さらには陸上へと魚、エイ、イカを人間に運んでくるという事例が過去20年に34件記録されているという。その中には、人間が一度拒否した後も、シャチがまるで反応を待っているかのように何度も試みるケースもあったのだ。
シャチのこの不思議な寛大さはどこから来るものなのか。研究チームはこれは文化的なものか、遊び心、あるいはもっと深い何かの兆候かもしれないと考えている。
「シャチはよくエサを分け合います。これは向社会的行動であり、シャチ同士の関係を築く手段なのです」と、研究筆頭著者のジャレッド・タワーズ氏は説明する。
「人間ともエサを分け合うのは、シャチが人間との関係構築にも関心を持っていることを示しているのかもしれません」
研究チームがそれぞれの事例を注意深く分析したところ、エサを与えられた人間が水中にいたケースが11件、人間がボートに乗っていたケースが21件、人間が岸辺に立っていたケースが2件であった。これらの瞬間の一部は写真や動画で記録され、そのほかのケースでは詳細なインタビューを通じて共有された。
いずれの場合も、シャチは人間に近づいてきて目の前にエサを落とす行為を行っていた。1件を除くすべてのケースにおいて、シャチはエサを与えた後、何が起こるか人間の様子を観察していた。また7件のケースでは、人間が一度エサを拒否した後も、シャチは複数回、エサを差し出したということだ。

イヌやネコなどの家畜は人間にエサや獲物を持ってくることがあるが、この研究は、非家畜動物における同様の行動を詳細に記述した初めての研究である。研究チームによると、シャチは知的で社会的な動物であり、エサの共有を通じて親族や血縁関係のない個体と関係を築くという。またシャチは自分よりもはるかに大きな獲物を狩ることが多く、そのためエサが余ってしまうこともあり、それもまた“気前の良さ”の一因であるかもしれないという。
「人間に物を与えることは、シャチが習得した文化的行動を実践し、探索したり遊んだりする機会を同時に与え、そうすることで人間について学び、人間を操ったり、人間との関係を築いたりする機会にもなり得ます」と、研究者らは記している。
やはりシャチには羽振りの良い“サービス精神”があるのだろうか。ショーで豪快なジャンプを見せつけてくるシャチであれば、そんな気持ちを抱いていても不思議ではない。
※研究論文
https://psycnet.apa.org/fulltext/2026-29805-001.html
※参考記事
https://scitechdaily.com/killer-whales-are-giving-fish-to-humans-worldwide-whats-going-on/





|ライター:秋谷進(たちばな台クリニック小児科)-150x112.png)


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