「東京こころフェス2025」が映し出す“心”の世界。変わりゆくメンタルヘルスの現在地

依存症のひとがみている世界展

厚生労働省が「精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会」に用いた参考資料『精神保健医療福祉の現状等について』によれば、精神疾患を有する総患者数は、約603.0万人に達しています(2025年1月15日時点)。

同じく厚生労働省が発表した調査結果によれば、自殺やうつ病での休職、失業などによる2009年の経済的損失額は、推計で約2.7兆円にものぼるとされています(厚生労働省『自殺・うつ対策の経済的便益 (自殺・うつによる社会的損失)の推計』2010年)。

今やメンタルヘルス対策を行わないことが、その人にとって「損失」につながりかねない時代です。近年、メンタルヘルスへの社会的関心は年々高まり、その重要性はもはや広く共有されています。

<目次>

依存症のひとがみている世界展/うつ病の世界展

こうした時代背景のなか、2025年11月22月(土)・23日(日)両日、業界最大級のエンタメ×メンタルヘルスイベント、「東京こころフェス」が開催されました。

依存症のひとがみている世界展

筆者自身、20年ほど前から精神科通院を開始しました。現在もASDと複雑性PTSDの治療のため、月1回ずつの精神科通院と心理カウンセリングが欠かせません。


今回は、当事者として、そして精神科通院患者としての視点を交えながら、11月22日(土)に来場した「東京こころフェス」の様子をレポートします。

会場には「こころエキスポ」として、メンタル疾患にまつわる複数の展示が並び、それぞれが来場者に深い問いを投げかけていました。主な展示は以下の6つです。

1.依存症のひとがみている世界展
2.うつ病の世界展
3.#恐怖と癒しの絵画をつぶやくよ
4.死にたい理由展
5.住人がいなくなる部屋
6.生きる理由展

アルコール依存症、性依存症、スマホ・SNS依存症、ゲーム依存症、糖質依存症……。さまざまな〝依存症〟の当事者が「みている世界」を再現した写真が展示されていました。

性依存症のひとがみている世界
性依存症のひとがみている世界

人は誰しもが心に関する「素朴理論」を持っていると言われています。心=脳は人間であれば必ず持っているものである以上、「心はこうあるべきだ」と一家言を持つ人は多いのではないでしょうか。

たとえば「依存症患者は自制心の少ない、だらしのない人間である」や、もはや古典とも化したうつ病へのスティグマ「うつは甘え」といった理論もそのひとつでしょう。

しかし今回の展示を見れば明らかなように、依存症やうつ病に罹患することによって、脳内に映し出される世界そのものが変容してしまうのです。これは、意志の力だけでどうにかできる問題ではありません。展示を通して依存症治療の苦しみを疑似体験し、治療の必要性を実感することで患者への支援につなげる。それこそ、患者への理解と支援の第一歩になるのだと感じました。

うつ病のひとがみている世界。重苦しい雰囲気が漂う。
うつ病のひとがみている世界。重苦しい雰囲気が漂う。

じぶんにあった“メンタルケア”に出合える場所

今回の出展は全部で37ブースでした。もちろん現代社会におけるメンタルヘルスサービスは37個に留まらず、公的・民間、無料有料含め多くのサービスが存在します。これほど充実しているのをみると、「大丈夫かもしれない」といった素朴ながらも強い安心感が湧いてきます。

また補足をすると、薬機法や医療法でも規定されている通り、特定のサービスが医療を代替することはできません。サービス主体がそのように喧伝することも法律で禁じられています。

メンタル疾患の治療は食事・運動・睡眠を整えた上で、医療・福祉サービスを受けることが基本です。つまり、生活習慣が崩れていたり、医療的な治療が必要な状態であれば、特定のサービス「だけ」でメンタル疾患が治癒に向かうことは、通常はありえないと考えられます。

ニューロリワーク様
ニューロリワーク様
うつCAFE様
うつCAFE様

ACT療法で心の重荷を軽くする。ゆうきゆう医師が示す実践テクニック

ゆうきゆう医師
ゆうきゆう医師

東京こころフェスを監修する「ゆうメンタルクリニック」総院長・ゆうきゆう医師に、個別にお時間をいただきインタビューを行いました。

ゆうき医師は、精神科の受診には高いハードルを感じる人が多い現状に触れ「メンタル疾患の当事者と社会のあいだにある“距離”を少しでも縮めたかった」と語ります。今は元気に働けている人でも、誰しもメンタル疾患にかかる可能性があるため、気負わず参加できるイベントにしたかったという思いがあるそうです。

ニューロダイバーシティについて伺うと、精神医学は「正常」と「異常」の線引きが難しい領域であり、基準は「本人が困っているかどうか」だと話します。軽い症状でもつらさを抱える人もいれば、重い障害があっても特性を活かして活躍する人もいます。どのような状態であっても、困りごとがあるなら気軽に精神科を頼ってほしいというメッセージを強調していました。

また、ゆうきゆう医師による講演では、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)療法について触れていました。

脳を広大な海へとなぞらえ、つらい記憶を「広大な海を泳ぐ一匹の魚」としてイメージをし直す方法や、トラウマやいやな感情に「名前をつける」技法など、イラストを駆使しながら、ためになる心理学的テクニックがわかりやすく紹介されました。

特に印象的だったのは「価値観はアイスクリームのフレーバーのように、良いも悪いもない」という表現です。

多くの人が、無意識のうちに自分や他者の言動に対して価値判断を下してしまい、それに基づいて自分を責めてしまうことがあります。特に、精神的な困難を抱える方にとっては、その傾向が顕著になる場合もあるようです。しかし、そうした価値判断は本質的に不毛なものであると、改めて気づかされる内容でした。

講演でも触れられていましたが、人生の時間には限りがあります。だからこそ、一人ひとりが自分にとって心地よい価値観を選び、それに基づいた生き方を主体的に選択していくことが大切であると感じました。

2025年が早くも年の瀬を迎えようとしています。東京こころフェスを通じ、メンタルヘルスがもつ可能性と、その広がりを実感した一日となりました。

参考:
厚生労働省『精神保健医療福祉の現状等について』2025年
自殺・うつ対策の経済的便益の推計方法について(メモVer.1) 2010年4月12日
みきいちたろう『発達性トラウマ「生きづらさ」の正体【自分を責めてしまいがちな方へ】』ディスカヴァー携書、2023年

延岡佑里子パラレルワーカー

投稿者プロフィール

会社員、行政書士、ライターのパラレルワーカー。ASD当事者。働くことが大好きです。
趣味は歴史、ボカロ、英語学習です。

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