夜の詩、秘密の唇と手ほどき~僕は春を売る~女性風俗、男性セラピストと女性の物語

東京報道新聞第5回ライティングコンテスト_特別賞作品

女性用風俗。略して「女風」。

女性風俗の情報サイト『Kaikan』には306店舗、セラピストが5449人登録されている(2024年4月現在)。東京都内でも数店舗しかなかった女性風俗が、コロナ禍で急増。人と会ったり話したりする機会が減り、また出会いの機会が減る中で、女風を利用する女性が増えている。「買われる男たち」と、「買う女たち」。何が両者を引き合わせるのか。人気の男性セラピストに取材した。

待ち合わせ場所に現れた彼は20代のイケメン。身長が180センチと高く、スリムなボディながら筋肉質。2018年の映画『娼年』で、主役を演じた松坂桃李のように、ミステリアスな甘いマスク。女性を信頼させ、たちまち虜にしてしまう、低く心をくすぐられる罪な声。同性から見ても好感を持つことができる爽やかな青年だ。『娼年』は、会員制ボーイズクラブのことが描かれた作品で、女風が認知されるようになったきっかけの一つ。

―――女風って何ですか?
男性キャスト(セラピスト)が、顧客である女性に性的なサービスをする女性風俗店のこと。本番行為(男性器を女性器へ挿入する行為)は禁止されています。店舗を持たず、路上で待ち合わせて自宅やホテルなどでサービスを行うことが多いです。

―――どんな男性セラピストがいるのですか?
店によって、男性セラピストのカラーが違います。20代が多く、爽やかジャニーズ系のセラピストを集めた店や、可愛い系のセラピストから、色気あふれるおじさまセラピストまで20代~50代と幅広くそろえた店も。

―――男性セラピストにはどんな人がいますか?
副業でセラピストをしている人が多く、本業が整体師や美容系、教育や福祉系、医療系などさまざま。モデル系や茶道系、ごく普通のサラリーマンも人も多いです。私? それは秘密です(笑)。

―――どんなコースがあるのですか?
 店によって異なりますが、たとえば性感コースで、90分で約1万5000円から。デートだけのコースが90分で9000円から。初めての方や不安を感じる方は、デートコース+性感コースという組み合わせで利用されています。

―――セラピストの収入を教えてください。
セラピストの取り分は50%が相場です。最も人気の150分コースが2万3000円。このうち、セラピストの取り分は1万1000円。人気セラピストでは月に100万円以上稼ぐことができますが、数は少ないです。月収ですか? それは教えられません(笑)。

―――どうすればセラピストになれるのですか?
身長や体重、年齢や経歴、自己PRや志望動機などをメールで送り、合格すれば二次面接へ。女性講師が最終チェックとなる実技講習を行います。性的な技巧のほか、接客マナーや人格などをチェックされて、合格できると女風デビューとなります。

―――セラピストになるには費用がかかるのですか?
男性セラピストになるには、登録料や実技講習として5~6万円を支払わされます。入店してからも性病検査や更新料を支払わされます。実技講習にかかった費用すら稼ぐことができず、高い登録料を支払わされ、一件も予約を取れずに辞めていく人が多いです。

―――悪質店は多いですか?
 男性セラピストから講習費を取り、これで経営を成り立たせている悪質な女風店も多いです。講習費ゼロ円、性病検査ゼロ円と、ホームページで宣伝しておきながら、実際にはホームページへの登録料として5万円ほど徴収する悪質な店もあります。講習料、性病検査費は無料と言いながら、女性講師の研修はなく、性病検査もありません。

―――なぜセラピストになろうと思ったのですか?
「お金」という人は多いですが、私は違います。私の動機は、クンニリングスが最も得意で上手なこと。心を込めた気持ちいいクンニリングスで「女性を幸福に導きたい」「女性を幸せにしたい」と思ったからです。

―――どんな女性が利用しているのですか?
 女風の主な利用者は、30代~40代の女性です。「中イキをしたい」という高齢の女性や、障がいを持っているがゆえに恋愛やセックスができない女性も。職業も、普通のOLや看護婦、介護士、保育士、CA、モデル、芸能人、学生、主婦とさまざまです。

―――どのような動機で女風を利用しているのですか?
「好きな彼と寝る前に、女風で練習したい」という若い処女の方や、「今の彼では自分の性欲を受け止めてもらえない」「パートナーがいなくて淋しい」という女性がいます。
ある六十代の主婦は、「夫はお殿さまで、これまで性的に満足したことがない。女性として枯れる前に利用したい」と話し、何十年もの夫とのセックスレスに悩み、何カ月も悩んで女風に来たことを打ち明けていました。
「いつも触られるばかりで、させてくれない。思いっきりフェラチオしてもいいですか」といった若い女性もいます。

―――なぜ、女風を利用されるのでしょうか?
「出会い系で会うのは怖いし、性病などのリスクもあるが、女風にはそれがない」「身元がわかる男性なので安心して性の世界に入れる」といった理由があります。

―――彼や夫がいて、女性風俗に行くという罪悪感はないのでしょうか?
 ユーザーの割合は、既婚者と未婚者の割合は半々くらいです。夫がいる女性は、罪悪感を持っていないですね。夫に対する憎しみや恨み。夫の親の介護のために仕事を辞めたのに、感謝されることもなく、タダ働き。自分の人生は何だろう。女としての歓びや幸せは? そんなことに悩み苦しんでいる女性が、女風を利用していることも少なくありません。

―――女風を利用して良かったと思っているのですか?
これまで含蓄されてきた女性たちのフラストレーションが一気に爆発し、彼女たちの性欲が堰をきったようにあふれ出した、そんな感じです。夫や恋人よりも、女性として大切に扱ってくれる男性セラピストに心からの安らぎを感じ、女性風俗に夢中になっています。「一歩踏み出すのは勇気が必要だったが、女風を利用してよかった」と感じていらっしゃる女性は多いです。

インタビューを終えて彼は取材費を受け取ることなく、いつまでも後に引くような爽やかな眼差しで立ち去った。

今、なぜ女性風俗なのか?

私はかつて、キリスト教系の女性団体に入っていた。彼女たちは、東南アジアの女性を買う「買春ツアー」に対し、女性を買う男性に一丸となってNOを突き付けていた。理由を尋ねると、「性の商品化は許さない」ということだった。

男女平等の時代となり、今度は女性がお金で男性を買う時代となった。同じ「性の商品化」なのに、女性が男性を買うことに社会的な非難の声があがってこない。ドラマ化され、マンガ化され、性を買う女性に対して肯定的な見方をしている。

夫婦や恋人の間におけるセックスレス、女性の社会進出で生涯未婚率が増えたこと、性経験年齢の高齢化が、女風の市場拡大につながっている。人肌の恋しさや、快楽や欲望の解放、息抜き、異性と接する練習にも使っている。童貞がソープランドで男としての自信や経験を積もうとしているのと同じだ。

どこにでもいる普通の女性が、身近な男性に期待できなくなった。人の顔色ばかりをうかがい、リスクを恐れている男性に魅力を感じることができない。女性が社会に進出する一方で、社会の裏側で進行しているセックスレスや愛の貧困。「買われる男たち」と、「買う女たち」の間にあるのは、淋しさと疑似恋愛だ。

女風を利用しているのは、あなたの彼女かもしれないし、あなたの妻かもしれない。

ライター:颯光(そうひ)

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