第4回ライティングコンテスト佳作

生成AIによって明るい未来と、それと相反する先の見えない未来が見えている。小児科医としても同じことがいえる。まずはAIによる恩恵の部分から話そう。

日本の医療制度では、どの医師が診療しても診療報酬は同じだ。すなわちスーパードクターが診療しても、研修医が診療しても病院の収益は一緒ということになる。

患者の側からすれば、できれば名医にかかりたい。がんなどの大病を見過ごされれば、たとえ医師から謝罪があったとしても無意味といっても過言ではない。見過ごされた結果、死に至れば、死んだ本人もその家族も無念しか残らないだろう。だがAIがあれば、画像診断において支援をしてくれる。これまでのデータ、内視鏡検査、レントゲン、頭部CTや頭部MRIといった画像から判断し、AIが病変を見抜いてくれる未来が訪れる。これはAIにしかできないことだろう。人間の目であれば、どんなベテランでも見逃しはある。しかしAIに見逃しはない。

なんと明るい未来だろうか。その未来に向けて、実はもう動き出している。実は画像診断の診療報酬は引き下げられているのだから。医師不足の解消にもなるのだが、画像診断は医師ではなくAIに任せるように、業界が動き始めているということだ。しかしその反面、画像診断における医師の技量が落ちることは間違いないだろう。診療報酬が少ないのであれば、自分で行う医師は減るだろうし、病院側もさせないとなると、医師が画像診断をする機会が減るのだから当然のことだ。AI診断により学ぶことも多いが、自らを研鑽して画像診断を学ぼうとする医師は減少するだろうし、もしかすると画像診断ができない医師が増えることにも繋がるかもしれない。求められていない場所に、人はいけないのだから仕方がない。

また、受付の問診票や血圧の管理なども、すでにAIが導入されている。問診をAIに任せることで、どの科に受診すればいいのかが割り振られるのである。医療従事者の負担も減るし、患者も余計な質問をするなどの手間も省けるそうだ。しかし、これらの進歩において人と人との関わりが薄れるのではないかと、私は危惧している。

「こうこうこういうことで困っています」
「えー。そんなに大変なんですね」
「そうなんですよ」

といったニュアンスなどを読み取ることはAIにはできないだろうし、医療従事者側もそういったことを学んだりする機会が失われる。人の意志は言葉にできない部分にもあると、私は考えているので、空気の読めない医師が増えるのは問題だとも感じている。

ここで例え話をしよう。医療とは関係はないが、例えば誰かとつきあいたいと思えば、今はマッチングアプリを利用すればいい。私自身が使ったことがないので、どういった駆け引きがあるのかは分からないが、ボタンを押せば簡単に恋人ができる仕組みになっているのだと思う。

私が若い頃は、ちょっと伝えたことがあるけれども、本人の前では言えない。でも伝えたい。じゃあ手紙にしようか電話にしようか。と、悩みながら、それでも勇気を持って行動し、ようやく大好きな人と出会い、恋人になった。そんな困難があるからこそ、達成感があるのではないだろうか。それが、今はない。その楽しみを奪ったのは便利さを求めた大人たちだ。

しかし、スマートフォンが、ただの電話ではなく進化したように、今ではインターネットなしでは生きていけない。何をするにしても、インターネットが基準の世の中になってしまっているからだ。

コロナ禍において人と人との関わりが減ったことで幼児たちの発達が遅れていることがわかった。つまり、人は人との関わりによって、発達していくということだ。対話というのは、ただの言語ではなく、人が人らしく生きていくために必要なものと言える。

しかし、現在は人との関りが減少していく方向へと進んでいる。仕事だってそうだ。誰にも相談せずに生成AIの技術によって仕事を進めることできる。だが一人の人間の限界など高が知れている。それで本当に次の時代を作っていけるのだろうか。

TVで芸能人を模した生成AIのロボットを見た。確かに数年前からすればあり得ないほどの進歩だ。きっとTVで見るロボットのもとになっている芸能人はこう言うだろうと思う反面、この芸能人はきっとこうは言わないだろうという違和感も覚えた。ロボットは所詮ロボットだ。ただ、生成AIが進歩すればこの違和感はなくなるかもしれない。それと同時に、我々のコミュニケーション能力も低下して、違和感すら覚えなくなるかもしれない。

子ども診療をしている小児科医としては、生成AIによる恩恵は多大なものと考える。生成AIの人への影響は大きい。しかし影響が大きい分、人の様々な能力の低下……特に子どもの能力の低下を、私は危惧している。

ライター:秋谷 進

関連記事

コメントは利用できません。

最近のおすすめ記事

  1. 自分の部署からハラスメント通報された管理職の男性
    突然、あなたの部署でハラスメント通報の連絡が来た時、どのように行動すべきでしょうか?ハラスメント対応…
  2. 内閣府原子力委員会の上坂充委員長が6月24日に公表した「令和6年度版原子力白書」において、業界全体の…
  3. 特殊詐欺について解説する一般社団法人 刑事事象解析研究所の森雅人所長と東京都のあおい法律事務所の荒井哲朗弁護士
    「特殊詐欺」は、巧妙化の一途を辿り、日本社会に深刻な被害をもたらし続けています。本記事では、特殊詐欺…

おすすめ記事

  1. 服役中に亡くなった受刑者の対応について東京報道新聞が取材した宮城刑務所の分類審議室で働く職員さん

    2024-10-31

    服役中に亡くなった受刑者はどうなる?宮城刑務所分類審議室の職員に聞く

    受刑者は全員が刑期を終えて出所できるとは限りません。健康上の理由で極めて重篤な状態に陥ったり、あるい…
  2. 2025-3-21

    ヤマダホールディングス、TBS「報道特集」とのスポンサー契約を終了 理由明かさず

    家電量販大手のヤマダホールディングス(HD)が、長年提供してきたTBS系列の人気報道番組「報道特集」…
  3. 「サッカーのポジションと性格の関連性 最新の論文を2つご紹介」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

    2024-12-1

    サッカーのポジションと性格の関連性 最新の論文を2つご紹介

    サッカーで、ピッチ上の各ポジションには、常にゴールを狙うフォワードや、最後の砦としてチームを支えるゴ…

2025年度矯正展まとめ

2024年に開催された全国矯正展の様子

【募集中】コンテスト

ライティングコンテスト企画2025年7-8月(大阪・関西万博 第3回)募集|東京報道新聞

インタビュー

  1. ぶっくまさんアイコン
    SNSからはじまる出版業界イノベーション|読書系インフルエンサー・ぶっくまさんによる「本をつなぐプロ…
  2. 「境界知能の僕が見つけた人生を楽しむコツ」という本を出版したなんばさん
    境界知能とは、IQの平均85〜110に届かず、知的障害(IQ70以下)にも該当しない、IQ71〜84…
  3. 「とかちむら」社長室長・小松さん
    十勝観光の新定番「とかちむら」の今と未来。社長室長・小松氏が語る、地域活性化への熱い想いと具体的な取…

アーカイブ

ページ上部へ戻る