集英社や小学館など出版大手各社、翻訳企業マントラに総額7億8,000万円を出資
日本の漫画文化が新たな展開を見せています。集英社や小学館などの出版大手各社が、AI技術を駆使した翻訳ベンチャー企業・Mantra株式会社(マントラ)に総額7億8,000万円を出資しました。
マントラは東京大学発のスタートアップで、2020年に設立されました。独自のAI技術により、漫画の翻訳時間を従来の半分以下に短縮しています。
電子コミック向け漫画に特化した翻訳AI「Mantra Engine」をクラウドで提供しており、画像認識で吹き出し内のセリフを解析し、AIが一次翻訳を行った後、人間の翻訳家が表現を微調整します。小学館では、これまで7日程度かかっていた作業が、AI活用により3日程度に短縮できる見込みです。
マントラの技術は画像認識と大規模言語モデル(LLM)を組み合わせ、キャラクターの特徴を捉えた翻訳を実現します。英語翻訳の誤訳率はわずか1.6%とされています。
集英社や小学館、KADOKAWA、スクウェア・エニックス・ホールディングス(HD)などが出資することにより、マントラは2025年にも従業員を現在の3倍の35人に増員する計画です。さらに、小説やゲーム、動画など、翻訳の対象を拡大していく予定です。
マントラのAI翻訳、すでに18言語に対応 月間約10万ページを翻訳
マントラのAI翻訳システムはすでに18言語に対応しており、月間約10万ページの翻訳に利用されています。集英社は『ONE PIECE』や『SPY×FAMILY』のベトナム語訳にこの技術を採用。小学館も自社作品向けにカスタマイズし、世界同時配信の拡大を目指しています。
サイバーエージェントやオレンジなど、他社も独自のAI翻訳開発や海外配信に乗り出しています。サイバーエージェントは専門組織を立ち上げ、2024年中にも独自の翻訳AIを開発する予定です。
漫画のAI翻訳を手掛けるオレンジは、小学館など10社から総額29.2億円を調達しており、将来的には5年で5万点の翻訳を目指すとのことです。政府もこれらを後押しし、2033年までにコンテンツ産業の輸出額を20兆円に引き上げる目標を掲げました。
この動きは海賊版対策としても期待されています。コンテンツ海外流通促進機構(CODA)によると、2022年の海賊版による出版分野の被害額は、3,952億〜8,311億円に上るとされています。
一方で、AI翻訳の品質に対する懸念も浮上しています。日本翻訳者協会は、AIが作品のニュアンスや文化的背景を十分に反映できないと指摘しました。AI翻訳は漫画産業に革新をもたらす可能性がありますが、人間の専門性との調和が今後の課題となりそうです。