
神戸アイセンター病院が開発するiPS細胞を用いた網膜治療が、実際に移植を受けた患者の視機能改善につながったことが大きな注目を集めています。視力を失う網膜色素上皮不全症などの患者に対して、病院グループはiPS細胞から作製した網膜細胞を髪の毛ほどの太さでひも状に加工し、長さ2センチの細胞組織として移植する世界初の治療を実施しました。この治療は2024年から2025年にかけて段階的に進行し、30代から60代の3名の患者に手術が行われました。移植した細胞は全例で1年後も維持されていることが臨床データで確認されており、安全性と定着性の面で大きな前進となりました。
中でも、比較的症状の軽かった60代の患者は、新たに「夜空の星が見えるまでに回復した」と感動的な実感を語っています。ほかの患者も「暗い場所でも光を感知できる」といった変化があり、日常生活において大きな質の向上が認められるようになりました。手術方法も従来のシート状移植と異なり、より簡便かつ安全で、術後の経過も良好でした。
この成果により、神戸アイセンター病院ではこの網膜細胞移植を「先進医療」に申請しましたが、厚生労働省の審査部会では「臨床効果の評価方法や患者への十分な説明、費用の問題」などが改善点として指摘され「現時点では条件不適」との判断が下された経緯があります。それでも、同院はこの指摘を真摯に受け止め、臨床データや評価法の見直しに加え、患者・家族へのインフォームド・コンセントのあり方や治療費負担の軽減策など、再申請に向けて体制強化を進めるとしています。
進化する再生医療—より多くの患者へ
iPS細胞を活用した網膜再生医療は、2014年に世界初のヒト臨床移植に成功して以降、基礎研究や動物実験を重ねて臨床応用にたどり着きました。現在、重度の眼疾患患者のうち一定の条件を満たす症例で本治療が進められており、5年以内に加齢黄斑変性を含む他の網膜色素上皮不全症の実用的な治療開始も予定されています。また、治療適応を広げることで、年間数万人規模の患者が将来的に新たな選択肢を得られる可能性が高まっています。
同治療は単なる疾患の進行抑制にとどまらず、移植細胞がシナプス結合を作り、視覚信号を伝える神経回路修復まで目指している点が大きな特色です。今後は全国の専門施設と連携した長期データ集積や、より効率的な細胞調製法確立などを経て、実用化への道筋を一層明確にしていくとしています。
再生医療は日本だけでなく、世界の医療にも大きな影響を与えるポテンシャルを持っています。iPS細胞により「見えなかった世界が見えるようになった」という患者の言葉は、治療を待つ多くの人々への希望そのものであり、今後の新たな医療の可能性を強く印象づけています。
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