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「いじめられたら、学校に行きたくないのは当たり前だよね」
そういって日本では、いじめ問題が発生すると、被害者側が転校を余儀なくされるケースが少なくありません。
しかし少し考えると、非常におかしい話です。まるで、被害者が悪いと言わんばかりの対応です。あなたも疑問に感じたことはありませんか?
そこで、目を転じてフランスのいじめの現状を見てみましょう。
フランスでは、いじめは決して「子どもの戯れ」では済まされません。被害者を徹底的に保護する法律や教育体制が整っています。加害者ではなく、被害者を救うことが社会全体の責務という強い意識が根付いているのです。
フランスでは、いじめをどのように考え、対処してきたのでしょうか??
今回はフランスのいじめ防止法に焦点をあてて、教育現場における具体的な取り組み、そして社会全体でいじめ撲滅を目指す姿勢について詳しく解説していきます。
フランスでは年々いじめについての改革を行ってきた
2010年以前、フランスではいじめは学校 violence(暴力)の一部と見なされ、個別に対策されることはありませんでした。
しかし、2010年以降、いじめは児童生徒の学習や心身に悪影響を及ぼす深刻な問題として認識されるようになり、政府は積極的に対策に乗り出すようになったのです。
実際に、下記のように年をおうごとにいじめについてどんどん改革を行っていきました。
- 2011年: いじめに関するガイドブック作成、啓発キャンペーン開始
- 2013年: いじめ防止を学校教育機関の優先課題と定めた法律(2013年法)制定
- 2014年: 精神的ないじめを刑法典で罰する対象に追加
- 2015年: いじめ防止のための生徒大使制度創設
- 2018年: 小学校・コレージュでの携帯電話使用禁止を法制化
- 2019年: いじめを受けない権利を教育法典に明記した法律(2019年法)制定
特に、いじめ対策の大きな転換点になったのは「2019年法の制定」でしょう。
フランスいじめ対策の大きな革命「2019年法」
2019年法は、教育法典に「いじめを受けない権利」を明記した画期的なもの。いじめを単なる学校内の問題ではなく、児童・生徒の基本的人権を侵害する行為として明確に位置づけました。
具体的な内容としては以下の通りです。
- いかなる児童・生徒も、いじめ行為を受けることはない:あらゆる形態のいじめ(身体的暴力、言葉による暴力、心理的ないじめ、ネットいじめなど)から児童・生徒を守る権利を法律で保証しています。例えば、ある生徒が、容姿や出身地を理由に他の生徒から悪口を言われたり、仲間外れにされたりする行為も、この法律で禁止されるいじめに該当します。
- 学校は、いじめ防止のための行動計画を策定する義務を負う:各学校は、いじめの防止、早期発見、対応のための具体的な行動計画を策定し、実施しなければなりません。行動計画には、いじめに関するアンケートの実施、相談窓口の設置、教職員向けの研修、いじめ防止のための授業の実施などが含まれます。
- いじめ防止のための教育プログラムを実施する:学校は、いじめ問題の深刻さ、いじめの予防方法、被害を受けた場合の対処法などを教える教育プログラムを実施しなければなりません。教育プログラムは、年齢や発達段階に応じた内容で行われ、ロールプレイングやグループディスカッションなどの手法が行われます。
では、これらが加わるとどうなるのか。
例えば、ある学校で、生徒Aが生徒Bから繰り返し暴言を吐かれるといういじめが発生したとします。
2019年法に基づけば、
- 生徒Aは、いじめを受けない権利に基づき、学校に被害を訴えることができます。それは、2019年法による「当然の権利」だからです。
- そして学校は、行動計画に基づき、生徒Aと生徒Bから事情を聞き、いじめの事実関係を調査する「義務」をおうことになります。
- いじめの事実が確認された場合、学校は生徒Bに対して、いじめをやめるよう指導するとともに、再発防止のための適切な措置を講じるのが「絶対のルール」になっています。
- さらに、学校は、いじめ防止教育プログラムを通じて、いじめが許されない行為であることを生徒たちに改めて教える必要があります。
このように、2019年法は、いじめ被害者を守るための具体的な法的枠組みを提供するとともに、学校や社会全体にいじめ防止の意識を浸透させることを目的としたものだったのです。
日本ではこのような法的な整備がなされていませんので、各学校の対応にゆだねられています。フランスの方がこの時点でもかなり進んでいるなと思うかもしれません。
しかし、それをさらに進化させたのが「2022年法」です。
いじめを犯罪として進化させた「2022年法」
2019年法で、いじめ対策を大きく前進させたフランスですが、現状に満足することなく、さらなる対策強化に乗り出しました。それが、2022年に制定された「いじめ対策強化法」、通称「2022年法」です。
2022年法では、いじめを刑法典に明記することで、明確に犯罪行為と定義し、刑事罰化しました。具体的には
- 身体的・精神的な健康を損なういじめは、3年以下の懲役または45,000ユーロ以下の罰金
- 被害者が自殺した場合には、10年以下の懲役または150,000ユーロ以下の罰金
が科せられる可能性があります。このように、加害者に対する罰則を大幅に強化することで、いじめを未然に防ぎ、被害者を保護することをさらに強化したのです。ここまでになると、なかなか「いじめ」なんて起きないと思いませんか?
しかも、近年深刻化しているサイバーいじめについても、2022年法は対策を強化しました。インターネット上での中傷や嫌がらせ、携帯電話で撮影した画像や動画の無断拡散、SNSでの誹謗中傷や脅迫など、デジタル機器を用いたいじめは、従来よりも重い刑罰が科せられることになりました。
被害者保護の観点からも、2022年法は重要な改正を行いました。
被害者は38歳までいじめに関する訴訟を起こすことができ、被害者の親は加害者の親に損害賠償を請求することができます。
また、いじめが原因で転校を余儀なくされた場合、転校費用を加害者側に負担させることも可能になりました。
2019年法時点でも、日本よりも法整備が整ってきたと思わされたのに、2022年法になり、さらに加害者側に厳しい罰則がついたことで、被害者が安心して学校生活を送れるよう、法的サポートが強化されたのです。
フランスのいじめ対策から日本が学ぶこと
今回は、フランスのいじめ防止法と教育現場における取り組みを中心に、社会全体でいじめ撲滅を目指す姿勢について解説しました。
フランスでは、いじめを「子どもの戯れ」では済まされない深刻な人権侵害と捉え、被害者を保護するために徹底的な対策を講じています。
2019年法では「いじめを受けない権利」を教育法典に明記し、学校にいじめ対策を義務付けることで、被害者保護の責任を明確化しました。さらに2022年法では、いじめを刑法典に明記し、刑事罰化することで、いじめに対する抑止力を強化しました。
これらの法律に加え、教育現場では、いじめ防止教育プログラムの実施や相談体制の充実など、多角的な対策を講じています。