罪と向き合い更生を支える。保護司の知られざるリアル

雑踏イメージ

法務省から委嘱を受けた民間ボランティアである「保護司」は、刑務所や少年院などから仮釈放された人や、保護観察中の人の社会復帰を支援する役割を担っています。近年では、保護司を題材とした映画やドラマが少しずつ増え、この仕事について知る人も増えています。しかし依然として認知度は高くなく、担い手不足という課題は続いています。

2024年には、保護観察中の釈放者によって、保護司が殺害されるという痛ましい事件が発生しました。このような出来事を受け、保護司の仕事の重要性と必要性について、社会全体で改めて認識を深めることが求められているのではないでしょうか。

<目次>

保護司は更生を支える市民の伴走者

東京家庭裁判所 雑感

日本の刑事司法を支える重要な役割を担う保護司は、法務大臣から委嘱される非常勤の国家公務員です。仮釈放中の人や、家庭裁判所から保護観察処分を受けた少年などの生活支援を通じて、更生の手助けを行っています。

保護司が向き合うのは、罪を犯して社会に戻った人や、非行に走った少年たちです。社会の中で受け入れられにくい彼らが、再び一歩を踏み出せるよう支えることこそ、保護司の大切な使命なのです。

保護司制度の歴史は古く、戦後まもない1950年に制定された「保護司法」に基づいて設けられました。もともとは、地域の篤志家(善意ある市民)による自発的な支援活動を制度化したもので、戦前にもこれに類する仕組みが存在していました。戦後の刑事政策では、「社会内処遇」の重要性が強調され、その考え方を基盤に現在の制度が形づくられていきました。

この制度の大きな特徴のひとつは、「完全な無報酬制」である点です。保護司は給与を受け取ることはなく、支給されるのは交通費や事務費などのわずかな実費のみ。つまり、保護司は職業ではなく、市民による「奉仕」の精神で支えられている制度なのです。

保護司は、法務大臣から2年ごとに委嘱される制度で、再任されれば長期間にわたって務めることも可能です。現在、全国でおよそ4万7千人が保護司として活動しています。多くは地域に根差した民間人であり、たとえば元教師や、企業経営者、主婦など、その背景は多岐にわたります。

保護司の役割は、単なる「監督」にとどまりません。生活指導や進路相談に応じ、ときには就職先を探す支援まで行うなど、地域社会との橋渡し役を担っています。対象者の生活環境を理解し、社会に適応できるよう寄り添いながら支える、まさに“伴走者”のような存在です。

地域の善意で成り立つ日本独自の保護司制度

「人との繋がり」イメージ

諸外国に目を向けると、保護観察に携わる人々の立場は日本とは大きく異なります。たとえばアメリカやイギリスでは、保護観察官は基本的に国家公務員として正式に雇用され、安定した給与を受け取る職業人です。専門的な知識や技能を備えたプロフェッショナルとして、就任前に体系的な研修を受け、職業として対象者の更生支援にあたっています。

日本の保護司制度は、地域の市民がボランティアとして無償で担うという点において、国際的にもきわめてユニークであり、他国にはほとんど見られない稀有な仕組みです。この特徴は、地域社会のつながりや市民の善意を基盤とすることで、柔軟かつ親身な支援を実現できるという大きな強みでもあります。

一方で、制度の根幹を市民の自発性に委ねているため、担い手の確保や継続的な活動体制の維持といった面で、持続可能性に大きな課題を抱えているのも事実です。

さらに、保護司制度に影を落としているのが、支援対象者の変化です。近年では、家庭環境が複雑なケースや、精神疾患・依存症などを抱える人が増加しており、かつてのように善意だけで対応できる時代ではなくなってきています。

支援には、専門的な知識や福祉・医療との連携が不可欠となっており、現場の保護司からは「素人では手に負えないケースが増えた」との声も聞かれます。制度が発足した当初と比べると、保護司に求められるスキルや連携のあり方は、格段に複雑化しているのが現状です。

保護司制度を揺るがす3つの課題

「課題」イメージ

保護司制度は、長年にわたり刑事司法を支える重要な役割を果たしてきましたが、現在、その持続可能性に関わるいくつかの深刻な課題が顕在化しています。

①高齢化

保護司の平均年齢は60代後半に達しており、70歳を超えて活動する人も少なくありません。経験は豊富ですが、心身の負担も重く、若い世代の後継者不足が深刻です。人材の確保が進まなければ、制度そのものの持続が危ぶまれる状況です。

こうした状況を受けて、国はこれまでのような保護司の人脈に頼る候補者探しから、公募制の導入へと方針を転換。原則66歳以下だった新任の年齢制限を撤廃し、現在2年とされる任期の見直しなど、保護司法の改正に向けた動きが進められています。

②認知度の低さ

保護司という言葉を知っている一般市民は多くなく、その役割や活動内容への理解もまだ十分に浸透していません。罪を犯した人の更生を支える重要な存在であるにもかかわらず、その活動は社会の陰に隠れているのが実情です。この認知度の低さは、保護司を志す人が少ないという現実にも直結しています。

③安全面のリスク

2024年5月に滋賀県大津市で、保護司の新庄博志さん(当時60歳)が支援対象者に刃物で襲われ、命を落とすという痛ましい事件が発生しました。この事件は全国に大きな衝撃を与え、「無償で活動する市民を危険にさらしてよいのか」といった疑問の声が各地で上がりました。

事件後、法務省が全国の保護司約4万4千人を対象に実施した調査では、約2割にあたる約9,700人が「活動に不安を感じている」と回答。再犯リスクを抱える対象者と向き合いながらも、保護司に対する十分な安全対策や、支援が行き届いていない現状が浮き彫りとなりました。

“伝説の保護司”と称された中澤照子が灯す希望

インタビューに応じる中澤照子さん

制度の先行きに不安が広がる一方で、現場ではなお、人の可能性を信じ続ける存在がいます。その代表的な人物が「伝説の保護司」と呼ばれた中澤照子さん。中澤さんは長年にわたり、罪を犯した人や非行に走った少年たちに寄り添い、再び社会に歩み出す手助けを続けてきました。

放っておかれた子どもに食事を与えたり、道を踏み外しかけた若者に声をかけたりと、地域の中で自然に「保護司のような役割」を担ってきました。制度の存在を知ったとき、「自分のやってきたことと重なる」と感じ、迷わず飛び込んだそうです。

しかし、その道のりは順風満帆ではなく、家族からは「危険だからやめてほしい」と強く反対されました。支援の現場では包丁を持った親子げんかに居合わせることもありました。それでも「必ず相手は理解してくれる」という信念を持ち続け、対象者との信頼関係を少しずつ築いてきました。

中澤さんがやりがいを感じるのは、心を閉ざしていた人が、自ら言葉を紡ぎ始める瞬間だといいます。食事やお茶を共にする中で、時間をかけて信頼を得ていく。その積み重ねが、人生を立て直す第一歩につながるのです。

無報酬であることについても「当たり前のこと」と受け止め、地域に生きる一市民としての責任感で活動を続けてきました。その姿勢は、多くの後輩保護司にとって道しるべとなり、まさに「伝説」と呼ぶにふさわしい歩みを刻んでいます。

保護司制度を社会全体で支える時代へ

「支えあう」イメージ

保護司制度は、日本の地域社会が大切にしてきた「支え合い」の文化を、司法の領域に取り入れた点で、国際的にもきわめて稀有な存在と言えます。無償でありながら、犯罪や非行に関わった人々の人生を、再び社会へとつなぎ直す重要な役割を担ってきました。その成果は数字には表れにくいですが、多くの更生者は「保護司のおかげで立ち直れた」と語ります。

一方で、保護司制度は現在、いくつもの深刻な課題に直面しています。高齢化や後継者不足、安全性への懸念に加え、支援対象者の背景が複雑化していることなど、いずれも制度の根幹を揺るがしかねない問題です。

このまま有効な対策が講じられなければ、制度そのものの持続可能性が失われる恐れもあります。いま問われているのは、こうした現実に対して、国がどこまで本腰を入れて支援を強化し、市民の善意だけに依存しない制度へと再構築できるかどうかです。

「更生」とは、単なる監督や管理にとどまるものではなく、人を信じ、寄り添い、地域の中で共に「生き直す」道を探る営みです。保護司は、長年にわたり最前線でこの役割を担ってきました。この制度を今後も持続可能なものとするためには、社会全体が保護司の存在と役割を正しく理解し、支え合える仕組みを築くことが不可欠です。

犯罪や非行に向き合う姿勢は、実は社会の成熟度を映し出す鏡でもあります。保護司制度を、社会全体で支える新たな仕組みへと見直すべき時期が来ているのではないでしょうか。

今回、お話を伺った「伝説の保護司」中澤照子さんについて知りたい方は、下記記事も読んでみてください。

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神谷春記者

投稿者プロフィール

某民放局報道局にて事件事故を中心に取材。
特に安倍元首相銃撃事件や、大阪・北新地放火殺人事件などを精力的に取材。一方でG7サミットや五輪などの取材経験も。

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