孤立出産という社会的危機に向き合う日本―赤ちゃんポスト・内密出産制度の全国展開へ

孤立出産という社会的危機に向き合う日本―赤ちゃんポスト・内密出産制度の全国展開へ

予期せぬ妊娠や経済的困難により、医療機関に頼らずに出産する「孤立出産」の問題が日本社会において深刻化しています。この課題に対応するため、全国の地域で「赤ちゃんポスト」と「内密出産」という支援制度の導入が進展しています。

親が育てられない子どもを匿名で預かる「赤ちゃんポスト」は、熊本市の慈恵病院が2007年に「こうのとりのゆりかご」として初めて導入しました。2024年度には同病院に過去10年間で最多となる14人の赤ちゃんが預けられ、開設以来累計193人に達しています。預けられた赤ちゃんはほぼ全員が生後1週間未満で、多くが自宅や車の中での孤立出産でした。預け入れの理由としては生活困窮やパートナーの問題が大多数を占めています。

一方、病院以外に身元を明かさないまま出産する「内密出産」制度も進展を見せています。2025年3月31日には東京都墨田区の賛育会病院が、赤ちゃんポストと内密出産の両制度を開始し、医療機関による運用としては全国2例目となりました。

さらに、大阪府泉佐野市は2026年度中の赤ちゃんポストと内密出産制度の運用開始を目指しており、実現すれば全国3例目、自治体主導による導入は初のケースとなります。市内複数の病院での設置を検討している泉佐野市は、熊本市と東京の既存施設を視察するための調査費約800万円の補正予算を市議会で承認されました。

背景にある困難に目を向けた支援体制の構築

赤ちゃんポストや内密出産の急速な展開の背景には、相談できずに孤立する妊婦が直面する厳しい現実があります。孤立出産の母親たちは、世間体や身元が明かされることへの恐れ、経済的困難などにより医療機関の受診を避けている傾向が見られます。熊本の慈恵病院では、病院以外に身元を明かさない「内密出産」制度を導入しており、これまでに47人の出産を受け入れています。

識者は、予期せぬ妊娠を誰にも相談できない人々の背景にある困難に目を向け、国による法整備と包括的な支援体制の充実が不可欠だと指摘しており、全国での制度化が進むことで、新生児の虐待死や遺棄事件の予防につながるものと期待されています。今後は周知・啓発活動をさらに拡充し、より多くの母子が支援につながる社会の実現が求められます。

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