iPS細胞による再生医療、世界初の患者で術後10年がん化なし 安全性の長期証明で実用化へ前進

iPS細胞による再生医療、世界初の患者で術後10年がん化なし 安全性の長期証明で実用化へ前進

神戸市立神戸アイセンター病院と理化学研究所の研究チームは、2014年9月に世界で初めてiPS細胞を用いた再生医療を受けた加齢黄斑変性の患者について、術後10年経過しても細胞ががん化しなかったとの研究成果をまとめました。当時70歳代だった女性患者は、既存の治療で視力回復が見込めず失明の危機にありましたが、皮膚の細胞を採取してiPS細胞を作製し、網膜細胞に分化させたシート状の組織(長さ3ミリ、幅1.3ミリ)を右目に移植するという画期的な治療を受けました。

研究チームの経過観察により、2024年11月時点で患者の網膜にがんは確認されず、手術時に0.09だった視力もほぼ維持されていることが分かりました。栗本康夫・同病院長(眼科学)は「長期間にわたる安全性と有効性が示せたと考えている」と述べています。この成果は、12月5日に東京で開催された日本網膜硝子体学会で発表されました。

iPS細胞は「夢の万能細胞」と呼ばれていますが、がん化のリスクが最大の懸念事項でした。この10年間の観察結果は、長期にわたる安全性を示す重要なエビデンスとなり、再生医療の実用化に向けて大きな前進となります。なお、2017年以降は期間短縮を目的に、患者以外の細胞であらかじめ作製・備蓄する方式に移行しており、この手法による網膜細胞はこれまでに11人に移植され、いずれもがん化は確認されていないとのことです。

慶應義塾大学名誉教授で目の再生医療に詳しい坪田一男氏は「iPS細胞を使った再生医療は様々な分野で実施されていて、今回の成果は全体の研究を後押しすると言える。治療を待つ患者にとって希望となる」とコメントしています。加齢黄斑変性は網膜の中心部「黄斑」が傷つき視力が低下する病気で、国内の失明原因第4位。50歳以上の患者は約70万人と推計されています。

実用化に向けた次世代治療法の開発と課題

現在、神戸アイセンターでは、より多くの患者に応用できるよう、遺伝子編集技術を用いた次世代型移植用網膜シートの開発が進められています。このプロジェクトは、2024年12月5日からクラウドファンディングで資金を募っており、当初目標の1000万円を達成し、現在は2500万円を目指しています。

しかし、実用化への道のりは平坦ではありません。厚生労働省の先進医療技術審査部会は、2025年8月に神戸アイセンター病院が申請した「網膜色素上皮不全症に対する同種iPS細胞由来RPE細胞移植」の先進医療について認めず、実用化にはさらなるデータ蓄積が必要との判断を示しました。一方で、2024年12月にはiPS細胞由来の網膜細胞を「ひも状」に加工して移植する新手法について、1年経過した患者で有効性と安全性が確認されるなど、着実に成果が積み重ねられています。研究チームは、企業との連携による治験準備を進め、網膜変性疾患の患者に希望の光を届ける日を目指しています。

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