サッカーは、フィールドを縦横無尽に駆け巡る選手たちの技術や戦術だけでなく、それぞれの個性がぶつかり合う人間ドラマでもあります。
ピッチ上の各ポジションには、求められる役割やプレースタイルがあり、そこには選手の性格が色濃く反映されていそうです。
例えば、常にゴールを狙い、チームを勝利に導くフォワードは、自信に満ち溢れ、強い野心とリーダーシップを持つ選手が多いかもしれません。一方、ゴールマウスを守り、最後の砦としてチームを支えるゴールキーパーは、冷静沈着で責任感が強く、プレッシャーに打ち勝つ精神力を持つ選手が適任のような気がします。
しかし、実際、サッカーのポジションと性格や能力が医学的にみて、本当に関係しているかを知っている人は少ないでしょう。
今回は、サッカーのポジションと選手の性格や能力の関係性について、最新の2つの論文をご紹介します。
【論文1】チュニジアで行われたユース男子サッカー選手の心理プロファイルに関する論文
まずご紹介するのが、2015年にチュニジアで行われた15歳〜19歳のユース男子サッカー選手を対象に、サッカーのポジションと選手の能力や心理プロファイルをまとめた論文です。
この論文では、サッカー選手をディフェンダー(n = 60)、ミッドフィールダー(n = 60)、フォワード(n = 60)の3つのポジショングループにわけて、「OMSAT-3」と呼ばれる心理テストを実施しています。
OMSAT-3には、3つの主要な精神領域に分類された48の項目と12の精神スキル尺度が含まれています。各領域は、以下のサッカーに必要な3つの心理的素養を客観的に測定することができるのです。
- 基礎スキル(自信、動機付け、目標設定)
- 心身スキル(ストレス反応、恐怖コントロール、リラクゼーション、活性化)
- 認知スキル(集中、再集中、イメージ、メンタルプラクティス、競技計画)
では、結果はどうだったのかというと、以下の通りとなりました。
①フォワードは自信・モチベーション・活性化が高い
フォワードは、自信、モチベーション、活性化のレベルが他のポジションよりも高いことがわかりました。具体的には次の通りになっています。
OMSAT サブスケール | ディフェンダー (n = 60) | ミッドフィルダー (n = 60) | フォワード (n = 60) |
自信 | 5.97 ± 0.87 | 5.77 ± 0.92 | 6.24 ± 1.09 |
モチベーション | 6.20 ± 0.81 | 6.33 ± 0.54 | 6.55 ± 0.66 |
活性化 | 5.25 ± 1.05 | 5.06 ± 0.84 | 5.75 ± 0.98 |
フォワードは、サッカーにおいて得点という明確な形で、チームの勝利に貢献する役割を担っています。
例えば、ゴールを決めるという目標達成への強い意欲が、フォワードのプレーを支える原動力となります。
また、得点を重ねることで、自身の能力に対する自信が育まれ、さらなる活躍への意欲につながります。また、チームからの信頼や期待も、フォワードの自信を後押しする要因となるでしょう。
このように、日々のサッカーでの行動が、高い自信とモチベーション・活性化を生み出しているのではないかと考えられています。
②ディフェンダーはリラックスする能力に長けている
一方、ディフェンダーはリラックスする能力に長けていることがわかりました。具体的には次の通りです。
OMSAT サブスケール | ディフェンダー (n = 60) | ミッドフィルダー (n = 60) | フォワード (n = 60) |
リラックス | 5.42 ± 1.00 | 4.91 ± 0.96 | 4.93 ± 1.07 |
他のグループに比べて、0.5ポイント以上と、かなりリラックスする技術がついていることが分かりますね。
ディフェンダーは、冷静に相手の攻撃に対応し、ゴールを守る必要があるため、高いリラックス能力が求められるポジション。したがって、それにふさわしい人が割り当てられているのか、自然と能力を身につけていったのでしょう。
➂バランスのとれたミッドフィルダー
では、ミッドフィルダーの強さはどこにあるかというと、「バランスの良さ」です。
実はミッドフィルダーは、12種類の心理スキルテストにおいて、いずれも平均的なスコアを示しています。
ミッドフィルダーは、サッカーの試合において「心臓部」や「司令塔」と称されるほど、攻守両面で鍵となるポジションです。常に試合全体を俯瞰し、刻々と変化する状況を的確に把握する必要があります。
そのため、求められる精神的な能力もバランスの良さが重要であり、それにふさわしいテスト結果になっていますね。
このように、同論文では、サッカーのポジションと心理的なスコアは、非常に関係性の深いものになっていることが分かります。
【論文2】日本で行われたポジションに着目した中学生サッカー選手の心理パーソナリティに関する論文
続いて、日本の中学生サッカー選手を対象に、ポジション別にパーソナリティに違いがあるのかを調査した研究をご紹介しましょう。
本論文では、平均年齢13.47歳の中学生の男子サッカー選手125名を対象にしています。
ポジションを、FW、MF(トップ下、サイドハーフ、ボランチ)、DF(センターバック、サイドバック)、GKの7つに分類し、パーソナリティの測定には、「エゴグラム」という検査が用いられています。
エゴグラムとは、人間の自我状態を以下の5つに分類し、それぞれの状態の強さを点数化することで、その人のパーソナリティを視覚的に表現しています。
- CP(批判的な親): 厳格さ、規律、批判的な態度などを示す自我状態。
- NP(養育的な親): 優しさ、共感、世話好きな態度などを示す自我状態。
- A(大人): 冷静さ、客観性、論理的な思考などを示す自我状態。
- FC(自由な子ども): 無邪気さ、好奇心、創造性などを示す自我状態。
- AC(従順な子ども): 従順さ、協調性、遠慮がちなどを示す自我状態。
さあ、結果はどうだったのかというと、以下の通りでした。
①フォワードは「自由な子ども」の性質が強い
研究によると、FW(フォワード)は、エゴグラムにおけるFC(自由な子ども)の自我状態の項目で、MF(ミッドフィールダー)のボランチやDF(ディフェンダー)のサイドバックよりも有意に高い点数を出しました。
やはりフォワードはゴールを奪うことなので、
- 積極性: 常にゴールを狙い、シュートを打ち続ける姿勢
- 活動性: 積極的に動き回り、スペースを作り出す行動
- 創造性: 状況に応じて、独創的なプレーでゴールをこじ開ける能力
が必要になってきます。
そして、これらの要素は、まさにFC(自由な子ども)の自我状態が象徴する自由さ、積極性、創造性と重なります。ここから、フォワードというポジションには、FCの自我状態が高い、つまり自由で活動的で創造的な性格の選手が適している、もしくは自然に強化されていくといえるでしょう。
②トップ下とサイドハーフは攻撃性を示す「逆N型」
実は、同じミッドフィルダーでも、トップ下とサイドハーフは「逆N字型」という、FC(自由な子ども)とCP(批判的な親)が高く、他の自我状態が低い形状を示すのが特徴です。
トップ下やサイドハーフは、攻撃の起点となり、チャンスメイクやゴールに絡むプレーが求められるポジション。逆N字型になる理由として、以下のように考えられています。
- 高いFC: 自由な発想、創造性、積極性を表し、攻撃的なプレーやドリブル突破などに繋がります。
- 高いCP: 自己規律、責任感、完璧主義を表し、状況判断の的確さや戦術理解に繋がります。
- 低いNP(養育的な親)とAC(従順な子ども): これらの自我状態が低いことは、他者への配慮や協調性よりも、自己主張や独立心が強い傾向を示唆します。これは、攻撃的なポジションにおいて、自分の判断で積極的にプレーする必要があるためとされています。
➂ボランチはバランスの良さを示す「平坦型」
それに対して、ボランチは「平坦型」といって、5つの自我状態が比較的均等な高さで、大きな凸凹がない形状を示すのが特徴。
ボランチは、中盤の底で守備の要となるだけでなく、攻撃の起点としても機能するなど、攻守両面でバランスの取れたプレーが求められるポジションです。そのため、平坦型になる理由として、以下のことが考えられています。
- バランスの取れた性格: 5つの自我状態が均等であることは、特定の性格特性に偏らず、状況に応じて柔軟に様々な自我状態を使い分けることができることを示唆します。これは、攻守のバランスを取りながらプレーするボランチにとって重要な要素となります。
- 高い状況対応能力: 状況に応じて適切な判断と行動を選択できる能力を示します。これは、ボランチが試合全体を把握し、攻守の切り替えを的確に行うために必要な能力です。
④センターバックは責任感と積極性を示す「逆N型」
ミッドフィルダーだけでなく、ディフェンダーの中でも、役割とエゴグラムの差が出ています。特にセンターバックもトップ下などと同じ「逆N字型」をとっており、センターバックはCPが最も高く、次にFC、A(大人)と続く形をとっています。
センターバックは、最終ラインの中央に位置し、相手の攻撃の芽を摘む、チームの守備を統率するなど、責任重大な役割を担います。そのため、逆N字型になる理由として、以下のことが考えられていますね。
- 高いCP: 自己規律、責任感、完璧主義を表し、守備における集中力や危機管理能力、リーダーシップに繋がります。
- 高いFC: 自主性、積極性、決断力を表し、インターセプトや攻撃の起点となるビルドアップなど、状況に応じた積極的なプレーに繋がります。
- 低いNP(養育的な親)とAC(従順な子ども): これらの自我状態が低いことは、他者への配慮や協調性よりも、自己主張や独立心が強い傾向を示唆します。これは、センターバックが守備の場面で自ら状況判断し、積極的に行動する必要があるためと考えられます。
⑤サイドバックは積極性と忍耐強さを示す「C優位型」
一方、サイドバックは、FC(自由な子ども)とAC(従順な子ども)が高く、CP(批判的な親)が低い形状を示します。
サイドバックは、守備だけでなく、オーバーラップなど攻撃参加も求められるポジションです。そのため、C優位型になる理由として、以下のように考えられていますね。
- 高いFC: 自主性、積極性、決断力を表し、攻撃参加やドリブル突破など、状況に応じた積極的なプレーに繋がります。
- 高いAC: 協調性、忍耐力、我慢強さを表し、守備での粘り強さや、攻撃から守備への切り替えにおける献身的な姿勢に繋がります。
- 低いCP: 厳格さや批判性が低いことは、柔軟性や適応能力が高いことを示唆します。これは、サイドバックが状況に応じて攻守の役割を切り替え、多様なプレーを求められるポジションであるためと考えられます。
このように見てみると、サッカーポジションでも求められる精神的資質が、細かく定められていることがわかります。
子どもの性格がポジションとマッチしなくても焦らずに
サッカーのポジションと性格の関係は、複雑かつ興味深いテーマです。
今回の論文から、ポジションごとに求められる役割やプレースタイルが、選手の性格と大きく関係することが分かりますね。
しかし、これらの結果はあくまで統計的な傾向であり、全ての選手に当てはまるわけではありません。サッカーは多様な個性が集まるスポーツであり、それぞれの選手が持つ独自の性格や能力が、ピッチ上で輝く瞬間があるはずです。
なので、サッカーをしているお子さんの性格が、例えマッチしていなかったとしても、焦る必要はありません。
参考程度にしていただけたら幸いです。
参考文献・参考サイト:
1.Amira Najah,Riadh Ben Rejeb.The Psychological Profile of Youth Male Soccer Players in Different Playing Positions. Advances in Physical Education. Vol.5 No.3, August 2015
2.松岡悠太,中澤史.中学生サッカー選手のパーソナリティに関する検討.法政大学スポーツ研究センター紀要 37. 19-24(2019)
3.Slavko Rogan. General perceptual-cognitive abilities: Age and position in soccer. PLoS One. 2018; 13(8): e0202627.
Published online 2018 Aug 23. doi: 10.1371/journal.pone.0202627