
京都大学医学研究科の近藤祥司准教授らの研究チームは、体内に蓄積する老化細胞を選択的に除去する新しい薬剤の開発に成功しました。高齢マウスを用いた実験では、原因不明の難病である特発性肺線維症の症状改善が確認されており、今後の人への臨床応用が期待されています。この研究成果は、2025年12月15日付で国際学術誌「Signal Transduction and Targeted Therapy」にオンライン掲載されました。
年齢を重ねると、本来死ぬべき老化した細胞が死ににくくなり、体内に残ってしまいます。これらの老化細胞は「SASP(細胞老化関連分泌表現型)」と呼ばれる炎症性物質を周囲に放出し、慢性的な炎症を引き起こします。この慢性炎症が体の回復力を低下させ、老化の進行や加齢性疾患の原因になると考えられています。
研究チームは、老化細胞内で「解糖系酵素PGAM」と「シグナル伝達キナーゼChk1」という2つのタンパク質が異常に強く結合し、老化細胞の代謝が活発になることで生き延びやすくなっている仕組みを突き止めました。この発見により、2つのタンパク質の結合を阻害することで、老化細胞だけを選択的に死滅させることが可能になりました。
開発された薬剤は、若い正常な細胞にはほとんど影響を与えず、老化細胞に対してのみ細胞死(アポトーシス)を誘導します。高齢マウスに薬剤を投与した実験では、慢性炎症が抑えられ、肝臓、腎臓、肺の各臓器機能が改善しました。さらに筋力の向上も確認され、副作用は見られなかったといいます。
特に注目されるのは、特発性肺線維症のマウスモデルでの効果です。特発性肺線維症は、肺の間質が線維化して硬くなる進行性の疾患で、国の指定難病に指定されています。日本国内の患者数は約1万3,000人から1万5,000人と推定され、診断後の平均生存期間は3年から5年と予後不良です。主に50歳以上の男性に多く発症し、空咳や労作時の息苦しさが特徴的な症状です。
研究チームは、抗がん剤として開発された化合物に着目しました。この化合物は毒性が強く実用化されていませんでしたが、同じ構造式で鏡に映したような関係にある光学異性体が、老化細胞だけを選択的に死滅させることを発見しました。
今後の展望と社会的意義
今回開発された老化細胞除去法は「セノリシス」と呼ばれ、世界的に注目されている治療概念です。近藤准教授は「25年間、老化と解糖系代謝研究を続けてきて、今回ようやく社会還元できる発見に結びつきました。本成果を社会実装化し、人類の健康に貢献することが、これからの我々の目標です」とコメントしています。また、「ヒトの臨床応用を進めて加齢性疾患の新たな治療法を開発し、高齢者の身体機能低下の防止につなげたい」と今後の展望を語っています。
老化細胞を安全に除去できれば、寿命の延長だけでなく、体が本来持っている回復力を取り戻すことで、老化に伴う様々な変化を防ぐ効果も期待されます。特に特発性肺線維症のような難治性疾患への新たな治療選択肢として、実用化が待たれます。

_2-150x112.png)
-150x112.png)
-150x112.png)








-300x169.jpg)