むしろ最新医学?89%の医師が処方する漢方薬の効能とは

「むしろ最新医学?89%の医師が処方する漢方薬の効能とは」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター小児科)

「ナイシトール85Ⓡ」、「新コッコアポA錠Ⓡ」、そして「カコナール2Ⓡ」、これらの市販薬はさて、なんでしょう?

実はこれは漢方薬なのです。
「ナイシトール85Ⓡ」、「新コッコアポA錠Ⓡ」は防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、「カコナール2Ⓡ」は葛根湯(かっこんとう)です。

これは医師でも知らない先生が多くいます。
いわゆる隠れ漢方薬と言われているものです。

今や漢方医学は目覚ましい進歩をしています。
 
現在、我が国の医師が学ぶ医学は、西洋医学がベースです。
しかし、日本漢方生薬製剤協会の調査では「漢方薬を現在処方している医師」という回答が89%あり、増加傾向にあります。

漢方医学教育は、全ての医学部・医科大学で実施されており、大学病院においては、漢方内科や和漢診療科などの診療科を標榜している施設が、26大学あります。

漢方医学という言葉を聞いた患者さんの中には、
「漢方って効果が弱いんじゃないですか」
「ちょっと胡散臭い気がします」
といったネガティブなイメージをもっている方もいらっしゃいます。

しかし、医師にとっても漢方薬は心強い味方になることが多く、状況によっては西洋医学で解決しにくい問題を解決する力をもっています。

そこで今回は、現在の日本の医療における漢方医学の位置付けや、その有用性について解説をしていきます。

そもそも漢方とは

漢方医学がどのようなものなのかを、知らないという方も多いかと思いますので、まずは、漢方医学というものがどういうものなのかを見ていきましょう。

漢方医学のベースとなっているのは、5−6世紀に伝来した中国医学です。
この中国医学を日本で実践していく中で、日本文化や日本人の生活・体質に合わせて少しずつ変化していき、日本独自の医学ができあがりました。
この中国医学をベースとして日本で独自に発展した医学のことを漢方医学とよびます。

漢方医学は日本の伝統的な医学ということになります。
現在、日本の医療の主流は西洋医学となっていますが、この西洋医学をサポートする重要なツールとして、漢方薬などは使われています。

では、漢方薬の原料となる生薬にはどんなものがあるのでしょうか?
表にまとめてみました。

植物の花、葉、茎、根人参(朝鮮人参)、蘇葉(シソ)、乾姜(ショウガ)など
樹木の樹皮、果皮山椒(サンショウの実)、陳皮(ミカンの皮)、桂皮(シナモン)など
動物由来資源蝉退(セミの抜け殻)、牡蛎(貝殻)、竜骨(ほ乳類の骨化石)など
鉱物由来資源石膏(天然石膏)など
表1.漢方薬の原料となる生薬

西洋医学と漢方医学の特徴

漢方医学がどのようなものなのかを理解するために、現在の日本の医学の主流となっている西洋医学との特徴の違いを見ていきましょう。

まず、西洋医学の特徴については、以下のようなものがあります。

  1. 客観的で分析された治療を行う
  2. 器官・臓器で起こっている物質的な変化を重視する
  3. 画一的な治療を行う
  4. 使用する薬剤は精製された純粋な薬物を用いる

西洋医学では、ある疾患に対してどのような薬剤を使用するか決めるときには、臨床試験を行います。

治療したい病気に、治療薬の候補となる薬剤を投与してみて、最も効果が実証された薬剤がその疾患の治療薬となるのです。

このようにして治療薬を決めているため、病気に対してピンポイントの治療になりやすく、高血圧の治療薬はこの薬、細菌感染にはこの薬、といったように、病名に対して薬剤を処方するようなかたちになります。
使用する薬も、精製されたものを使うので、病名や検査の異常などがはっきりとしているときに高い効果を発揮することになります。

つまり、西洋医学では、患者さんが症状を訴えたときに、その原因となる臓器の異常を確認するために、血液検査や画像検査などの検査を行い、そこで異常が確認されて病名がついたら、その病気に対する治療薬を処方するという感じの流れになります。

一方で漢方医学には以下のような特徴があります。

  1. 自然科学的で伝統的・経験的な治療を行う
  2. 臓器にピンポイントな治療というよりもこころとからだを総合的にみる
  3. 体質や症状に対して処方を行う
  4. 天然物がベースの生薬を混合した薬剤を用いる

漢方薬の処方は、患者の「証」(しょう)によって異なります。
証とは、病気になっている患者の体の状態を表したものです。
証には虚と実、寒と熱があります。

虚証(きょしょう)は、体力が弱って病気への抵抗力が落ちている状態、
実証(じっしょう)は、体力があって病気への抵抗力が強い人をさします。

寒証(かんしょう)は、寒気や冷えを感じる状態で熱が足りていない状態とされます。
熱証(ねつしょう)は、火照りやのぼせを感じる状態で熱が溜まっている状態です。

証と症状から適切な漢方を選ぶというのが、漢方薬の基本的な考えで、例えば、かぜに対する漢方でも実証の人には葛根湯を用いたり、虚証の人の初期のかぜには香蘇散(こうそさん)を用いたりするというような感じで使い分けがあります。

西洋医学では、病気と薬剤がストレートに対応しているのですが、漢方は患者の状態と症状から適切なものを、医師が選択して処方する、個々のための医学ということになります。

病気で一対一対応していない薬剤なので、細かい臨床検査はしにくく、西洋医学のようにクリアカットな処方は難しいため、患者の細かい状況に合わせて処方を検討する必要があります。

裏を返せば、明らかな異常などはなく、病名がわからない患者さんに対して、西洋医学の薬が使いにくいときに、体の状況や症状をヒアリングして漢方薬を処方することで、症状の改善を見込めるのです。

また、精製された単一の成分を使う西洋薬と異なり、さまざまな生薬が混合されているので、一つの薬剤でさまざまな症状に対応することができます。

すなわち漢方医学は、患者様個々に異なる病態を、心と身体の両面から総合的に捉え、身体の全体的なバランスを整えていくことができるのです。

そのため、漢方製剤等の薬価は、単純平均で約86円/日とされていますが、厚生労働省の「2018年薬事工業生産動態統計年報」では、2018年の医療用漢方製剤等の生産金額は、前年比13.9%伸長の1513億9600万円であることが分かっています。

また、日本東洋医学会と日本漢方製剤協会の調査によれば、以下の表にまとめた通り、医療用漢方製剤の診療ガイドラインへの掲載数は、2011年の59件から2020年には149件へと3倍近くまで増えています。

   総数Type AType BType C
2011年59112127
2015年91282835
2019年135405144
2020年149416147
表2.診療ガイドラインにおける漢方製剤の掲載数の推移

Type A:引用文献が存在し、エビデンスと推奨のグレーディングがあり、その記載を含むもの。
Type B:引用文献が存在するが、エビデンスグレードと推奨のグレーディングのないもの。
Type C:引用文献も存在せず、エビデンスグレードと推奨のグレーディングのないもの。

発病には至っていないものの病気になりかけていて、症状が出始めているとき(未病と言います)、更年期障害など病気ではなく、年齢による体の変化によって症状が引き起こされているとき、体質などから病気がなくても、こむらがえりなどの症状が起こってしまうときなどに漢方薬は非常に有用です。

さらに最近は、漢方薬も西洋薬と同様に臨床試験が行われ、特定の病気に対して効果があると実証されたものも多く出ています。
インフルエンザには、麻黄湯(まおうとう)という漢方薬の有効性が証明されていますし、手術後の腸閉塞には、大建中湯(だいけんちゅうとう)という漢方薬が有効であると実証されています。
口内炎には、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)が他の西洋薬と並んで推奨されています。

以下に、漢方製剤の生産及び輸入金額ランキングを、一部抜粋して表に作成しました。
みなさんの知っている漢方製剤はありますでしょうか?

順位2021年(円)前年比
1.大建中湯10,935,447,00090.7%
2.補中益気湯9,572,788,00092.1%
3.抑肝散8,620,502,00096.6%
4.六君子湯8,152,793,00082.4%
5.五苓散6,922,931,000116.1%
表3.漢方製剤の生産及び輸入金額ランキング

漢方製剤の原料の安定供給も課題

医療用漢方製剤148処方で使用されている原料生薬は136種類、そのうち、国内においても栽培されている生薬は56種類ありますが、国内使用量の約80%は中国からの輸入に頼っています。

例えば、使用量が多いカンゾウ、ブクリョウ、タイソウ、ハンゲなどは、ほぼ全量を中国から輸入しています。
栽培年数も長い生薬があり、ニンジン、シャクヤク、ボタンピ、ダイオウは5~6年、さらに樹木系のケイヒなどは10年以上かかるものもあるためです。

国内では、小林化工・日医工問題に端を発した「製造管理・品質管理」に起因する問題から、医薬品供給に問題が生じています。
漢方製剤の国内需要拡大に伴い、安全安定確保のために、国内における生薬栽培供給も課題となってくるでしょう。

まとめ

今回は漢方医学の考え方について解説しました。

漢方医学の科学的解明が進み、医療の現場で使われる機会が増加しています。
漢方は、西洋薬と比較すると、病名と一対一対応になっていないことから、その効き目がわかりにくく、どうしても「本当に効くのか」とマイナスイメージを持たれがちです。
しかし、患者さんの体質と症状に合わせて処方できるという、西洋薬にない特徴をもった薬剤です。

上手く使うことで、西洋薬では解決できない問題をズバッと解決してしまうポテンシャルを秘めています。
西洋医学と漢方医学は決して相反する存在ではなく、両者を上手く組み合わせることが重要なのです。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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