ロコモティブシンドローム(運動器症候群) 「子どもロコモ」について学びましょう

「子どもロコモについて学びましょう「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

みなさんは「ロコモティブシンドローム」をご存知ですか?

「ロコモティブシンドローム」(通称:ロコモ)は、運動器(骨・関節・筋肉・神経など)の障害によって移動機能が低下した状態のことです。
ここまで聞くと、「お年寄りの疾患」という感じですね?

実際、ロコモティブシンドロームは、高齢になるほど悩む方が多くなる疾患であり、高齢化社会で非常に重要視されています。

なぜなら、日本の平均寿命と健康寿命の間には、男性で約9年、女性で約12年の差があり、その多くの原因が「ロコモティブシンドローム」によるものと考えられているからです。

しかし、ここ最近、このロコモティブシンドロームが小学生・中学生にも増えてきていて、「子どもロコモ」と言われているのをご存知ですか?

高齢でのロコモティブシンドロームが健康寿命を短くしますが、子どもロコモが増えてきていることで、どういった問題が起こるのでしょう?

(参照: 厚生労働科学研究成果データベース「エビデンスに基づいたロコモティブシンドロームの対策における簡便な確認・介入方法の確立と普及啓発体制の構築に資する研究」

子どもにも増えている「ロコモティブシンドローム」

実は近年、子どもの筋力低下で簡単な動作も出来なくなっている「ロコモティブシンドローム」が増えてきています。

ロコモティブシンドロームは、2016 年に日本臨床整形外科学会によって改訂された評価基準によると、次の評価基準のうち1つでも異常がある場合に診断されます。

  1. 側弯症
  2. 前屈および後屈の異常
  3. 片足立ちができない
  4. しゃがみ動作がスムーズにできない
  5. 肘の伸ばす動作ができない
  6. 腕を曲げたり、腕を上げる動作ができない
  7. 過去 1 年間の大きな怪我
  8. 現在の体の痛みまたは体の障害があるか異常

具体的には、5秒以上片足だちがでなかったり、しゃがむときにかかとが上がってしまったり、体を前屈させて指がつかないときに「ロコモティブシンドローム」と診断されるのです。

どれも簡単な動作ばかりに見えますが、2010年~2013年の埼玉県の小学校1年から6年生1,343人を対象とした試験によると

  • 片足立ちができない子どもの割合:14.7%
  • しゃがみこみが出来ない子どもの割合:15.3%
  • 肩が垂直に上がらない子どもの割合:7.1%
  • 体の前屈ができない子どもの割合:23.3%
  • 上記の4つのうち1つでも問題のある児童生徒:41.6%

となっており、なんと4割強の児童生徒が「ロコモティブシンドローム」と診断されたのです。

これは埼玉県だけの問題ではなく、他の県である愛知県での試験でも受診者のうち40.4%(115/285人)がロコモティブシンドロームと診断されており、日本全国の現象であることがうかがえます。

どうしてこのような事態になってしまったのでしょうか。

(参照:子どもロコモと運動器検診について。日整会誌(J.  Jpn.  Orthop.  Assoc.)91:338‐344  2017

近年の子どものロコモティブシンドロームに見られる「2つの問題」

どんな子どもがロコモティブシンドロームになってしまうのかを解析した日本の論文によると、ロコモティブシンドロームになりやすい子どもの特徴として以下が言われています。

  • 年齢が大きい方がなりやすい(1.4倍)
  • 男子の方がなりやすい(4.0倍)
  • 身長が高いほうがなりやすい(1.04倍)
  • 体脂肪率が多いほうがなりやすい(1.06倍)
  • テレビを観ている時間が多いほうがなりやすい(1.28倍)

こうしたことと関連して、2つの問題が垣間見えるでしょう。

1つ目は、食べ過ぎによる肥満など、生活習慣の乱れから来る運動不足の問題。
これは想像に難くないですね。
体脂肪率が多い子供や、テレビを見ている時間が多い子供がロコモティブシンドロームになりやすいのは、まさに肥満や運動不足から来ているものと考えられます。

昔は大家族が主体でした。
そのため、親が忙しい場合でも誰かが子どもの面倒をみて、家族が子どもの食事面などを監督しながら、食事や運動の基礎を自然に身に付けていました。

しかし食事面では、核家族化が進み、両親が共働きとなり、3食をしっかり食べるという習慣が薄まってきているのです。
さらに、子どもと親が一緒に公園で遊ぶという場面も少なくなり、ゲームが普及し、いつでも携帯ゲームができるようになり、さらにYouTubeをはじめ色々な動画コンテンツが手軽に楽しめるようになりました。

体を使って遊ばなくても、時間をつぶせる手段が色々出てきてしまったのです。

そのため、肥満や運動不足による子どものロコモティブシンドロームが増えたというわけですね。
運動の効果はみなさん理解されているでしょうが、あらためて表にまとめました。

1.自己免疫の向上感染に対する抵抗力
2.ストレス解消メンタルヘルスの改善
3.体重コントロール生活習慣病の予防改善
4.体力の維持・向上筋力の維持・向上
5.血流の促進腰痛・肩こりの改善 冷え性・便秘の解消 良好な睡眠
表1.子どもの発育期の健全な成長につながる運動の効果
(参照:スポーツ庁

2つ目の問題は、栄養過多・運動不足で太る子だけでなく、低栄養・痩せ過ぎによるロコモティブシンドローム。
つまり、偏り間違ったセルフイメージにより、意識的に「ロコモティブシンドローム」を作ってしまっているパターンです。

最近はSNSで、「異常にやせている」女優さんやインフルエンサーが好まれるようになりました。
それに伴い、メタボに対する誤解もあり、痩せることが良いことだとして、骨量を蓄えなければならない小学生高学年にまでダイエットが入りこむようになってきました。

こうした傾向は、特にSNSなどを乱す高学年に多いこともあり、「年齢が進んでいる子ども」「身長が高い子ども」ほど、ロコモティブシンドロームになりやすくなったといえます。

近年、気軽にいろんな情報が見れるようになったからこそ、こうした「太りやすい環境」と「やせすぎる間違ったセルフイメージ」という両極端になりやすい状況が生まれてきており、それが「子どものロコモティブシンドローム」の増加につながっていると考えられています。

(参照:Factors Related to Locomotive Syndrome in School-Aged Children in Okazaki: A Cross-Sectional Study.Healthcare (Basel). 2021 Nov; 9(11): 1595)

子どもたちをロコモシンドロームから守るために、親の私たちができること

では、親の私たちが、子どもたちをロコモティブシンドロームから守るためにできることはなんでしょう。
それは、「健全な食事や遊び方」「正しいセルフイメージへの教育」を寄り添いながら、一緒に学んでいくことでしょう。

当然、子どもの体型の維持には栄養はかかせません。
骨や筋肉の健康を維持するためには、バランスの取れた食事が必要ですし、特にカルシウムやビタミンDは重要ですよね。

また、子どものうちから運動を習慣化させることも重要です。
特に、バランスと筋力を鍛える運動が、ロコモティブシンドロームには効果的とされています。
しかし、そのためには、特に小さい時期は「運動してよく遊ぶ」習慣に、親が寄り添う必要があるでしょう。

我が家ではこのような世の中ですから、子どもだけで外で遊ばせることはできません。
学校での座り方や立ち方、歩き方に注意を払い、正しい姿勢を維持することが大切ですが、これも日々家庭での姿勢を見直す努力が必要になります。
休日だからといって夜更かしや寝坊することなく規則正しい生活をして、3食バランスよく摂る。
まず、大人がスマホを触って、TVを見て、「日曜日のお父さん」状態ではいけません。
一緒に散歩に行く、なるべく階段を使うことやほんの少しの時間でも公園に行って体を動かすようにしています。
そして、子どもができたことを褒めて、達成感を与えて自己肯定感を高める。

子どものロコモティブシンドロームは、「当然できるべき動作が出来なくなる」という恐ろしい状態です。
しかし、私たちが子どもと向き合う姿勢によって、防ぎやすい疾患でもあります。

まずは、自分のお子さんが基本的な動作ができるのか、一度チェックしてみましょう。
40%近くの子どもができないのですから、仮に出来なかったとしても落ち込むことはありません。
子どもとの関わりを見直すいい機会だと思って、積極的に子どもと運動していただきたいと思います。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

東京西徳洲会病院小児医療センター

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。

金沢医科大学研修医、2001年、国立小児病院小児神経科、2004年6月、獨協医科大学越谷病院小児科、2016年、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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