岩国刑務所の刑務作業で得た社会復帰への手応え。サンドブラストに打ち込む受刑者の7年

岩国刑務所の刑務作業でサンドブラストに打ち込む受刑者

全国の刑務所では、受刑者が刑務作業に取り組みながら、改善更生や社会復帰を目指しています。作業内容は多岐にわたり、地域の特産品や伝統工芸に関わるものも少なくありません。そうした製品は、常設展示場や矯正展などを通じて、私たちが手に取ることもできます。

では、その刑務作業は実際にどのように行われ、受刑者にどのような影響を与えているのでしょうか。

本記事では、岩国刑務所の刑務作業のひとつである「サンドブラスト」を作る受刑者と作業専門官に話を伺いました。

<目次>

岩国刑務所で行われている刑務作業

岩国刑務所の刑務作業製品・ちりめん細工製品の「制服くまさん」

岩国刑務所での実施作業は、洋裁、金属、その他の3つの業種に分かれています。

洋裁ではちりめん細工製品等の縫製製品を製作。金属作業では電機部品の製造等、その他の作業ではガラス等製品加工、紙加工等が実施されています。

なかでも、ちりめん細工製品の「制服くまさん」は、全国刑務所作業製品審査会矯正局長賞を受賞した実績のある人気の商品です。

今回の取材では、「その他」に分類されるガラス等製品加工の一つである「サンドブラスト」を見学させていただきました。

生産待ちとなっている人気のサンドブラスト製品

生産待ちとなっている人気のサンドブラスト製品

そもそもサンドブラストとは、粒子の細かい砂をガラスや金属に噴射し表面を削って模様を描く加工技法のことです。

繊細な作業を要するため、実際に売れる製品が作れるようになるまで、3~4か月かかります。また、商品によってデザインが異なるため、新しいデザインを彫る際は、4~5日の練習期間を経て本番作業に取りかかります。製品として完成させるまでには、一定の期間と技術が求められるようです。

そのため大量生産が難しく、製品によっては生産待ちとなっているものもあるのだとか。

五蔵和飲硝子

2026年に販売開始を予定している「五蔵和飲硝子」は、中国矯正管区の新製品開発コンクールで最優秀賞を受賞した製品です。山口県岩国市に蔵を構える5つの酒造会社の賛同をもらい実現しました。

サンドブラスト作業

作業を分担することなく、最初から最後まで一人で担当するのがサンドブラスト作業の特徴です。見本デザインからペーパーに写し、それを製品に貼り付けてペーパーをカットします。

さらに、不要な部分を剥がしながら砂を当て、表面を削ることで模様を描いていきます。この作業は、1個の完成まで速い人でも5~6時間かかるそうです。根気と集中力が必要となるため、限られた受刑者しか作業できません。岩国刑務所では、現在7名がサンドブラスト作業を担当しているそうです。

サンドブラスト作業でデザインを行う受刑者の手

デザインは決められたものだけでなく、受刑者が自ら好みのモチーフを描くことも可能です。フリー素材のデザイン集から気に入ったものを組み合わせるなど、それぞれが工夫を凝らしながら作業に取り組んでいます。

矯正作業を通して社会貢献や校正支援に取り組む

サンドブラスト作業を担当する作業専門官

サンドブラスト作業を担当する作業専門官は、前職では民間企業に勤めており、知人の紹介で岩国刑務所で働くことになりました。着任当初は、ガラス等製品加工の仕組みについて知識がなかったことから、時には受刑者に教えてもらいながら理解を深めてきたそうです。

作業専門官によれば、繊細な作業は男性より女性の方が向いているように感じる一方、女子受刑者は出所後パートナーが養ってくれるケースもあり、自身が働いて工賃を貯める必要がない受刑者も少なくありません。自身で出所後の費用を工面することが多い男子受刑者と比べて、作業に対する熱量の違いを感じる瞬間もあるそうです。

また、色がついたガラスはクリアガラスとは異なり、さらに高度な技術が必要になるため、少なくても半年以上は経験しないと作れません。作業専門官は、刑務作業の考え方に対する難しさについて語ります。

「色付きガラスの作業を担当するのは、基本的に一年以上の刑期がある人です。ただ、刑期が長いということは、それなりの罪を犯しているということでもある。できることなら刑期は短い方がいいと思っているのに、そこに矛盾が生まれてしまうんです」

また、拘禁刑が始まったことで作業自体は強制ではなくなりましたが、作業そのものが受刑者にとってのモチベーションのひとつとなっている側面もあり、矯正作業は今も必要だと言います。

「ただ単に袋に入れるという作業であっても『社会の役立っていて、自分は社会の一部を担ってるんだよ』ということは伝えています」

実際に、作業で製作した製品に寄せられた購入者の声は、受刑者にも共有されています。自分たちの仕事が社会につながっていることを実感できるため、受刑者たちも手応えを感じ、喜びにつながっているそうです。

受刑者が考えたデザインで実現した冷酒杯五蔵ver(岩国)(五蔵和飲硝子)

受刑者が考えたデザインで実現した冷酒杯五蔵ver(岩国)(五蔵和飲硝子)

五蔵和飲硝子の製作は、実際に酒蔵にアポを取るところから大変だったと、当時を振り返ります。

「(酒蔵)それぞれにアポを取り、お会いして経緯を説明してから了承を得るまでに時間がかかりました」

了承を得た後、受刑者とデザインを考えていきます。五蔵の名前と岩国市の観光名勝である錦帯橋、桜は入れることが決まっていたので、それらをどのようにデザインするか、案を出して考えました。検討段階では、枝葉のある桜ではなく、花びらを散らしたデザインなども候補に挙がっていたといいます。

「実際に製品となった今、受刑者もいいものができたと手応えを感じています」と、作業専門官は話します。

受刑者は作業を通じて自分の感情と向き合うように

サンドブラスト作業を行う受刑者の手

実際にサンドブラスト作業を7年以上担当している受刑者に話を伺うと、グラスの形状による難易度よりも細かい作業が難しいと話していました。

デザインが細かいと神経を使うので目が疲れることも多いそうです。直線よりも曲線の方がなめらかな線を描くところが難しく、慣れるまで苦労したと吐露しています。

売れる製品を作りたいという想いの芽生え

お話を聞いた受刑者は、全国矯正展の様子をテレビで見た際、他の製品がより魅力的に見えることがあり、それが今後の意欲にも繋がる一方で「自分のが売れなかったらどうしよう」という緊張感が生まれるとも語っていました。

「自分が考えたデザインの製品が売れたという反応を聞くと、喜びがあります。大変で集中力が必要な作業ですが、買ってくれた人がいると聞くと嬉しいです」

日々の作業でも、売れるデザインはどんなものか刑務官に聞きながら、何が良いのかを考えて取り入れているとのことです。「売れる」実感こそが大きな励みになっていると言います。

「岩国城や錦帯橋、鵜飼いのデザインとパンダを組み合わせたお皿を作りましたが、それを(当時パンダがいた)アドベンチャーワールドまで持って行ってくれたことがありました。刑務官の方がわざわざ活動してくださったことにびっくりしました」

そう受刑者が語ったエピソードからも、刑務官の一つひとつの行動が、受刑者の心に確かに届き、前向きな気持ちを生むきっかけになっていることがうかがえます。

サンドブラスト作業がもたらした変化

「作業を始めたばかりの頃は、細かい作業が精神的にしんどくて嫌だ。やめたい。と思いました。作業をしているときに自分の立場や反省などいろいろなことを考えてしまって、落ち込むことも多かったです」

受刑者は、矯正作業が始まった際、自責の念で頭がいっぱいになり、作業のことを考えられないこともあったそうです。

サンドブラスト作業は各工程で合格をもらえないと次の工程に進めないため、不合格が続くと落ち込んで、さらに気持ちが塞ぎ込むことも多かったと言います。しかし、今では新人の教育も行っているそうで、当時の経験から教え方にも工夫をしているとのこと。

「言葉遣いに気をつけて、丁寧に教えるようにしています。私が伝え切れなかったことは他の人がフォローするなど、みんなで支え合いながら動いています」と、サンドブラスト作業を担当する受刑者がそれぞれの役割をこなしていることがうかがえます。

また、この作業を通じた7年間で人当たりが良くなったと振り返ります。

「粘り強くコツコツとできるようになったのではないでしょうか。サンドブラスト作業にはいろんな方がいるので、人と接するうちに人間関係についても前向きに捉えられるようになりました」

現在は五蔵和飲硝子を担当しており、今後も変わらず良い製品を作り続けていきたいと意欲を見せていました。

刑務所で行われる矯正作業は、受刑者が自分自身と向き合うきっかけとなるだけでなく、地域とのつながりを生み出し、社会復帰への一歩となる可能性を秘めています。

〈写真撮影:東京報道新聞編集部〉

岩国刑務所について知りたい方は、下記記事もお読みください。

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丸山希商業ライター

投稿者プロフィール

愛媛県出身・広島県在住。
FP2級を保有しており金融記事・ライフスタイルコラムが得意。

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